愛犬が普段と違う呼吸をしていたり、呼吸が早かったり、苦しそうな様子が見られたりすると、心配になる飼い主さんは多いものです。犬の呼吸が早いといえるのはどれくらいか、考えられる原因、対処法、動物病院受診の目安を解説します。
もくじ
呼吸数とは1分間の呼吸回数のこと。リラックスしているときや眠っているときの呼吸数を安静時呼吸数といい、犬の安静時呼吸数は毎分10~35回前後といわれています。
大型犬に比べて小型犬の呼吸数は多い、体調不良などで呼吸数が増えるなど、状況によって呼吸数は変わります。
また、安静時は鼻呼吸をしますが活動時は口呼吸をするのが一般的です。
呼吸が早かったり、いつもと呼吸の仕方が違ったりする場合は、何らかのトラブルが隠れている可能性があります。
一度、愛犬の通常時の呼吸数を数えてみましょう。
呼吸数は胸もしくはお腹の動きで計測します。「息を吸って胸が膨らみ、吐くとへこむ」「息を吸ってお腹がへこみ、吐くと膨らむ」といった1往復の動きを1回の呼吸と数えます。
呼吸数を数えるタイミングは、一時的に呼吸数が増えることがある運動直後や興奮しているときは避け、リラックスしているときや熟睡時の安静時呼吸数を数えるようにしましょう。
1分間数えることが大変であれば30秒間の呼吸数を2倍する、20秒間の呼吸数3倍することで1分間の回数とします。
計測に慣れていないうちは、愛犬の真上や横から動画を撮影し、動画を確認しながら数えるのもよいでしょう。
以下の場合、呼吸が早く浅くなり舌を出して「ハァハァ」と呼吸をする(パンティング)が見られることがあります。
激しい運動をした後は、運動で消費した酸素をできるだけ早く補給するために呼吸が早くなります。これは生理現象なので自然と呼吸状態は元に戻ります。
犬は呼吸によって体内の熱を逃がして体温を調整するため呼吸が早くなります。これも生理現象なので、体温が適正に戻れば次第に落ち着きます。
長引く場合は熱中症の可能性もあります。呼吸が早い以外に、よだれを流す、ぐったりしている、横たわり動かない、嘔吐や下痢などの異常がある場合はすぐに動物病院に相談しましょう。
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恐怖・緊張・不安などの精神的なストレスを感じると交感神経が優位になり、一時的に呼吸が早くなります。ストレスの原因がなくなると自然と呼吸は正常に戻ります。
パグやフレンチ・ブルドッグ、チワワなど、鼻の穴や気管が狭い短頭種は呼吸数が多い、興奮時は鼻呼吸より口呼吸のほうが多くなる傾向があります。
一時的なものか、呼吸が早い状態が長く続くのか確認しましょう。
長期的に続く場合は、熱中症など何か他の原因が隠れているかもしれません。早めに動物病院に相談しましょう。
おもちゃなどの異物が喉や食道に詰まると口や鼻で呼吸ができず、苦しくなって呼吸が早くなります。
遊んでいたおもちゃや置いてあったものがなくなっていないかなど、身の回りのものを確認しましょう。
異物誤飲が疑われる際は、早急に動物病院を受診して異物を取り除いてもらってください。
ケガがある、お腹や関節、背骨に病気があるなど、体のどこかで痛みがある場合も呼吸が浅く早くなります。なるべく早く動物病院を受診し、痛みに対処してもらいましょう。
呼吸器や心臓に異常があり酸素を取り込めなくなっている、血液が少なくなる貧血や脱水を引き起こしているといったときも、呼吸が早くなることがあります。
命に関わる疾患の可能性があるため、早い呼吸が続くようなら早めに動物病院に相談しましょう。
【原因】
パグやブルドック、フレンチ・ブルドッグ、チワワなど短頭種に多くみられる病気。鼻から喉までの空気の通り道が何らかの異常で狭くなり、浅く早い呼吸をするようになります。
軟口蓋(口腔内のドーム状の天井部分、硬口蓋から後方にのびた柔らかい部分)が形態学的な異常で長い、興奮しやすい性格、肥満体形、高温多湿の環境下にいることなどで発症しやすくなります。
【症状】
口を開けてガーガーと音のある呼吸をする、鼻呼吸をしながらいびき音が聞こえるなどの症状があります。運動や興奮などで呼吸困難を引き起こし、舌が青紫色になることもあります。
体内に十分な酸素が供給されず危険な状態になることもあるため注意が必要です。
【診断】
顔の見た目や内視鏡検査
【治療・対処法】
鎮静剤で興奮を鎮める、消炎剤で粘膜の炎症を改善するなど。肥満の場合は減量で症状を緩和させ、手術で気道の狭い部分を取り除きます。
肥満と暑さで症状が悪化するため、若い頃から環境や体重管理が重要です。
【原因】
気管(空気を運ぶ管)を構成する気管軟骨が弱くなって潰れ、空気の通りが悪くなりパンティングや呼吸困難を引き起こす病気。気管軟骨が先天的に弱い、発育異常、肥満などによって引き起こされます。
あらゆる犬種・年齢で起こりますが、ポメラニアン、ヨークシャー・テリア、トイ・プードル、マルチーズのような小型犬の発症が多いです。
【症状】
軽度では症状はありません。進行すると「カッカッ」「ケッケッ」と聞こえる咳になり、徐々に「ガーガー」とアヒルのような呼吸音をするようになります。
高温多湿、乾燥などで発作的な咳を繰り返したり、呼吸困難でチアノーゼを起こし失神して倒れたりする場合もあります。重症化すると呼吸ができず死に至ります。
【診断】
臨床症状、レントゲン検査、X線透視検査、気管支鏡検査
【治療・対処法】
体重管理や内服薬(鎮咳薬や消炎剤、去痰薬など)、首輪をハーネスに変更することで症状改善を目指します。症状が重い場合は外科手術を行うことがあります。
日頃から気温や湿度、肥満に気をつけ、咳が出る、水を飲むときにむせる、ガーガーと呼吸音が聞こえるといった様子があれば早めに動物病院を受診しましょう。
【原因】
肺胞(肺の中にある小さな袋)やその周辺に炎症を起こす病気。原因はウイルスや細菌感染が多く、誤嚥、寄生虫やカビの感染、アレルギー、刺激性のガスを吸い込むことも原因になります。
【症状】
湿ったゼーゼー音のある咳、浅く早い呼吸、高熱、運動を嫌うなど。重症では、呼吸困難や舌が青紫色になり命にかかわります。
【診断】
臨床症状、レントゲン検査、気管支肺胞洗浄
【治療・対処法】
抗生剤や鎮咳薬、点滴、重篤な場合は酸素吸入などが必要になります。肺炎は発熱などで体力を消耗させるため、状況に応じて点滴や保温、保湿、栄養補給など行い全身状態を良好に保ちます。
【原因】
犬の心臓病で最も多く見られる病気です。僧帽弁(心臓の左心房と左心室の間にある弁)が加齢などで変形し、うまく閉じなくなって血液が逆流します。
中~高齢の犬、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエル、マルチーズ、シー・ズー、チワワ、ポメラニアン、トイ・プードル、ペキニーズ、パピヨンといった小・中型犬に多い傾向があります。
【症状】
早期では、聴診で心雑音を確認できる程度です。進行すると運動時や興奮時、飲水時、夜間に咳が見られるようになります。
血液の逆流量が多くなると、疲れやすい、痩せる、寝ている時間が多いなどの症状が現れます。
さらに病気が進行すると咳の回数が多くなり、重症になると酸素交換を行う肺胞や肺を支える部分に液体成分が溜まり(肺水腫)、肺が機能不全になって早く苦しそうな呼吸をしたり、舌が青紫色になったりします。治療をしないと死に至るため早期発見・早期治療が重要です。
【診断】
臨床症状、心臓の聴診、レントゲン検査、心エコー検査、心電図検査、血液検査
【治療・対処法】
心臓の負荷を減らすために内服療法、食事療法、運動制限などを行います。根本的な治療には外科手術が必要です。肺水腫を起こすと入院治療が必要になる場合があります。
高齢になるほど発症しやすいため、中年齢になったら年に1回は健康診断を受けましょう。病気が見つかったら過度な運動は控え、塩分の摂りすぎに注意してください。
【原因】
高温多湿な環境による体温の上昇、脱水、過度の運動で心臓から体の臓器や組織に十分な血液の循環ができなくなり、脳、体内組織の酸欠を引き起こす病気です。
夏に多くみられますが、トリミング時のドライヤーの熱風が原因になることもあります。短頭種、肥満、呼吸器・心疾患をもつ犬は発生しやすいため注意が必要です。
【症状】
粘膜のうっ血・充血、脈が早くなる、パンティングなど。重症になると力が抜ける、ふらつく、嘔吐、下痢、よだれ、ふるえ、意識がなくなる、発作などが起こります。
【診断】
臨床症状、身体検査、体温、血液検査
【治療・対処法】
多くの場合は緊急治療が必要となります。早期に体を冷やし、ダメージを受けた臓器の機能を回復するために酸素吸入や輸液、症状に合わせた投薬治療を行います。
熱中症が疑われる際は、直射日光を避けて冷房が効いた室内や風通しのよい場所に移動させ、水を十分に飲ませ、すぐに動物病院を受診しましょう。
異常な呼吸を早めに見つけられるよう、日頃から愛犬の呼吸状態をよく観察しておきましょう。以下の場合は緊急と判断し、すぐに動物病院を受診してください。
運動直後や興奮しているときは、一時的に呼吸数が増えることがあります。しかし、運動後でないのに愛犬の呼吸が早くなる、苦しそうにしているようなら異常の可能性が高いです。
いざというときのために、普段から呼吸の様子を観察したり、呼吸の回数を測ったりしておき、いつもと比べ
て早い、おかしいと思ったら早めに動物病院を受診しましょう。早期発見・早期治療が、早期回復につながります。