【獣医師監修】猫の呼吸が速い!呼吸数はどれくらいが普通?いつもと違う原因や対処法を解説
2024.08.30 作成

【獣医師監修】猫の呼吸が速い!呼吸数はどれくらいが普通?いつもと違う原因や対処法を解説

獣医師/ペット栄養管理士

森井知里

森井知里

愛猫の呼吸が急に速くなったり、苦しそうにしていたりするととても心配ですよね。猫は基本的には鼻で呼吸をし、ハアハアと口を開けて荒い息をすることはない動物です。通常時の猫の呼吸数、速いといわれるのはどれくらいか、考えられる原因、対処法を解説します。

もくじ

    猫の通常時の呼吸数

    【獣医師監修】猫の呼吸が速い!呼吸数はどれくらいが普通?いつもと違う原因や対処法を解説
    (Evgenia Terekhova/shutterstock)

    呼吸数とは、1分間の呼吸回数のことをいい、リラックスしているとき、または眠っているときの呼吸数を安静時呼吸数といいます。一般的には猫の安静時呼吸数は20回前後/分といわれていますが、状況によって差があります。

    猫の呼吸が速いと感じられるとき、正常の範囲なのか、異常なのかを判断をするための目安となるのが呼吸数です。一度愛猫の通常時の呼吸を数えてみましょう。

    猫の呼吸数の数え方

    猫の呼吸数の数え方
    (oleg_aryutkin/shutterstock)

    猫の呼吸数は胸もしくはお腹の動きで計測します。

    胸での呼吸数の数え方

    胸の動きで計測する場合は、猫が息を吸うと胸が膨らみ、息を吐くと胸がへこみます。この1往復の動きを1回の呼吸と数えます。

    お腹での呼吸数の数え方

    お腹の動きで計測する場合は、息を吸うとお腹がへこみ、息を吐くとお腹が膨らむのでこの1往復の動きを1回と数えましょう。

    呼吸数を数えるタイミング

    一時的に呼吸数が増えることがある運動直後や興奮しているときは避け、リラックスしているときや熟睡時に数えるとよいでしょう。

    呼吸数を数えるポイント

    体が小さい猫の場合、慣れていないとお腹や胸の動きを数えにくいかもしれません。まずは深くゆっくりとした呼吸をする睡眠時の呼吸数を測ってみましょう。

    1分間数えることが大変であれば30秒間計測してその回数を2倍する、20秒間計測してその回数を3倍することで1分間の回数とします。

    計測に慣れていないうちは、猫の真上や横から動画撮影を行い、後で動画を確認しながら数えるのもよいでしょう。

    猫の異常な呼吸とは?異変が起きた時の対処法

    猫の異常な呼吸とは?異変が起きた時の対処法
    (Evgenia Terekhova/shutterstock)

    運動直後や興奮しているときには一時的に呼吸数が増えることはありますが、基本的には猫が口を開けて呼吸したり、呼吸の回数が速くなったりすることは異常です。 

    下記のような呼吸はどれも普段見られない呼吸です。これらのような呼吸が見られたら、基本的にはすぐに動物病院を受診しましょう

    呼吸が速い

    安静時呼吸数が増えることは、動物の呼吸状態の悪化や病気のサインとなっていることもあります。

    循環器・呼吸器疾患の早期発見につながる優れたモニタリング項目となっているため、いざというときに備えて普段から測っておくとよいでしょう。

    安静時の呼吸数が40回/分を超えてきたら異常が起きている可能性があるため要注意です。

    犬座姿勢になって肩で呼吸をしている(肩呼吸)

    少しでも酸素を取り込むために、前足を大きく広げた姿勢を取り、肩の上下運動をともなった呼吸をすることがあります。

    このような姿勢や肩を動かす様子がみられたら注意が必要です。

    口を開けて呼吸をしている(開口呼吸/パンティング)

    長時間口を開けて呼吸をしている場合、非常に苦しい症状といえます。

    また、口を閉じていても呼吸が速い場合や苦しそうに肩で呼吸をしている場合には開口呼吸の前兆と言えます。

    鼻の穴を大きくふくらませて呼吸をしている(鼻翼呼吸)

    鼻の穴を大きくふくらませて呼吸をしている場合には、鼻づまりにより鼻の通りが悪いことが考えられます。

    鼻づまりには、炎症のほか異物や腫瘍による閉塞の可能性もあります。

    安静時呼吸数が増加したときに考えられる病気

    安静時呼吸数が増加したときに考えられる病気
    (mapo_japan/shutterstock)

    呼吸器の異常

    猫風邪(猫ウイルス性鼻気管炎)

    猫風邪は猫の呼吸器疾患の中でも多い病気で、多頭飼育環環境下や猫同士の接触が多い環境で感染・発症しやすくなります。

    原因はウイルス感染で、ヘルペスウイルスやカリシウイルスによるものが一般的です。

    【症状】
    鼻水やくしゃみ、結膜炎による目ヤニ、発熱、咳、元気がないなど。鼻水の影響で鼻が詰まり呼吸がしづらくなるため、口を開けて呼吸をしたり呼吸が速くなったりします。

    症状が悪化すると肺炎や重度の結膜炎に繋がる場合があります。

    【治療・対処法】
    猫風邪はワクチン接種によって発症予防や症状の悪化を防ぐことができるため、定期的な予防接種を受けることがおすすめです。

    治療は抗ウイルス薬や消炎剤、二次的な細菌感染予防に抗生剤が効果的とされています。

    一時的に症状が改善しても、ウイルスは体内に残り続けるため、何らかのストレスを受けた時や免疫力が低下した時に症状の再発を繰り返すことがあるため早めの治療が重要です。

    猫喘息

    アレルギー物質の吸い込みにより、空気の通り道(気道)に炎症を引き起こし、気道が狭くなることで起こると考えられています。

    アレルギー物質は、花粉やハウスダスト、環境中の物質や大気汚染物質(タバコの煙や香水等)が一般的ですが、ストレスも発症の要因になり得ます。

    【症状】
    突然のひどい咳が特徴的で、そのほかゼーゼー、ヒューヒューといった呼吸音、呼吸が速くなるなど。

    進行すると酸素が取り込めず舌などの粘膜が青紫色(チアノーゼ)になったり、開口呼吸を引き起こしたりすることがあります。

    【治療・対処法】
    根本解決にはアレルギー物質の除去が必要ですが、環境中の何に反応して喘息を引き起こしているのかの判断は難しいです。

    治療の目標は進行を止め、できる限り少ない容量の投薬で症状を長期間安定させることになります。

    循環器の異常

    肥大型心筋症

    心臓の筋肉が内側に向かって分厚くなり心臓がうまく膨らむことができなくなるため、全身に十分な血液が送れなくなります。

    どの年齢で発症してもおかしくない、猫に多い病気です。

    【症状】
    初期ではほとんど症状が見られませんが、走った後に呼吸が荒くなるなどの症状が見られた時には進行していることが多いです。

    進行し心不全が起こると、胸水貯留(胸の中の空間に何らかの原因で液体がたまった状態)や肺水腫(肺胞内に水がたまり酸素交換ができなくなる状態)が起こることで呼吸困難となり、呼吸が浅く速くなります。

    【治療・対処法】
    開口呼吸や犬座姿勢での呼吸は緊急性が非常に高いため、一刻も早く動物病院を受診しましょう。

    早期発見には定期的な心臓のエコー検査がおすすめですが、日頃から安静時呼吸数を確認していれば心不全兆候にいち早く気付けることでしょう。

    血栓塞栓症(けっせんそくせんしょう)

    肥大型心筋症によって心臓の動きが悪くなるとともに血液の流れが悪くなると、血液がかたまった「血栓」ができやすくなります。

    血栓が四肢に向かう動脈につまることにより動脈血栓塞栓症を起こします。

    【症状】
    発症すると詰まった先の足に猛烈な痛みを感じ呼吸が速くなったり、足が麻痺し力が入らず腰が抜け歩けなくなったりします。

    【治療・対処法】
    時に命に関わる場合があるため治療はできるだけ早く開始すべきです。症状が現れたらすぐに動物病院に連れていきましょう。

    状況に応じて痛みを止める治療や血液の凝固能を低下させる治療、うっ血性心不全に対する治療が必要となります。

    胸水(きょうすい)貯留

    胸水とは胸の中の空間に何らかの原因で液体がたまった状態やその液体自体のことをいいます。

    胸水があると肺が十分に膨らめず、呼吸が速く浅くなったり、呼吸困難を起こしたりします。

    胸水貯留の原因としては肥大型心筋症などが原因となる心不全や、低アルブミン血症、膿胸(のうきょう)、乳び胸、FIP(猫伝染性腹膜炎)等があります。

    貧血

    慢性腎臓病やタマネギ中毒、猫エイズや白血病等のウイルス疾患などが原因で赤血球が減り貧血の状態となります。

    貧血になると、体内に酸素をうまく取り入れられなくなり、全身が酸欠となるため、少し動くと息切れしたり、呼吸が速く荒くなったりします。

    また、ふらついたりして、あまり運動しなくなります。

    痛みや外傷による呼吸数の増加

    ケガ

    高いところからの落下やほかの猫との喧嘩により外傷を負って痛みがあるために呼吸が浅く速くなります。

    なるべく早く動物病院を受診し、ケガの程度を診てもらいましょう。

    暑さによる呼吸数の増加

    熱中症

    熱中症は高温多湿な環境下で高体温と脱水により起こる病気で、多くは重症度が高く緊急治療が必要となります。

    【症状】
    最初は開口呼吸、速くて浅い呼吸(パンティング)、頻脈、食欲不振、よだれ、口粘膜・歯ぐきの充血が見られます。

    進行すると嘔吐や下痢、ふらつきなどが見られ、より重篤な状況では痙攣(けいれん)発作、意識障害といった神経症状などが見られます。

    【治療・対処法】
    熱中症になった場合には、早期の冷却処置が必要となります。熱中症と思われる症状が出たら、ただちに日の当たらない涼しい場所に移動させ、水を十分に飲ませます。

    動物病院に連絡し、状況に応じた応急処置のアドバイスを受け、すぐに病院に連れていきましょう。

    近年は猛暑の日が増えているため部屋の温度・湿度の管理に注意し、水分補給しやすい環境を心がけてください。

    猫は肉球と鼻でしか汗をかかないため、人間のように熱の放散により体温を下げることができません。

    暑い時期だけでなく、冬場の暖房のつけ過ぎなどでも熱中症になってしまう可能性があります。

    また、長毛種や短頭種、子猫や老猫、肥満、呼吸器疾患や心疾患をもっている猫は熱中症になりやすいため注意が必要です。

    まとめ

    呼吸の異常がある場合には、早期発見・治療が非常に重要な病気が隠れていることがあります。

    いざというときのために、普段から呼吸の様子を観察したり、呼吸の回数を測ったりしておくとよいでしょう。

    呼吸の仕方がいつもと比べて速い、おかしいと思ったら早めに動物病院を受診しましょう。

    著者・監修者

    森井知里

    獣医師/ペット栄養管理士

    森井知里

    プロフィール詳細

    所属 yourmother合同会社
    (獣医師によるオーダーメイドの手作り総合栄養食や療法食レシピをお届けする「DC one dish」の運営)

    日本ペット栄養学会

    略歴 1992年 三重県に生まれる
    2011年 麻布大学獣医学部動物応用科学科に入学
    2013年 麻布大学獣医学部獣医学科に転学科
    在学中、料理教室で講師を務める
    2018年 獣医師国家資格取得
    2018年 東京都内動物病院に勤務
    2019年~2021年 千葉県内動物病院に勤務
    2022年~2023年 東京大学附属動物医療センターで内科系研修医として勤務
    2023年4月~ yourmother合同会社に勤務

    資格 獣医師免許
    ペット栄養管理士

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