【獣医師監修】猫が舌を出すのはなぜ?猫の気持ちや注意したい病気を解説
2024.09.17 作成

【獣医師監修】猫が舌を出すのはなぜ?猫の気持ちや注意したい病気を解説

獣医師/ペット栄養管理士

森井知里

森井知里

愛猫が舌を出す姿はちょっと間抜けでかわいらしいですが、舌を出しっぱなしにしていると心配になりますよね。猫が舌を出す理由には、問題のないものと注意が必要なものがあります。その違いを解説します。

もくじ

    【獣医師監修】猫が舌を出すのはなぜ?猫の気持ちや注意したい病気を解説
    (Seregraff/shutterstock)

    猫が舌を出す理由とは?

    しまい忘れている

    もっとも多い理由として、猫が舌をしまい忘れていることが考えられます。

    本来とても警戒心が強い猫ですが、子猫の頃から完全室内飼育で人間と生活をしてきたことで危険に遭遇することがほとんどなく、警戒心も弱まります。飼い主さんとうまく信頼関係が築けていればよりリラックスして過ごせます。

    緊張感をほとんど持たない猫は、気が緩みつい舌をしまい忘れてしまうことがあります。

    グルーミング(毛繕い)疲れ

    猫はきれい好きなため、ブラシのように舌を使って頻繁に全身を舐め、汚れを落とします。舌を出している時間が長いと疲れてしまい、舌を出したまま休むことがあります。

    短毛種より長毛種の猫のほうがグルーミングにかかる時間が長いため、長毛種のほうが舌を出す傾向があります。

    顔の形により舌をうまく収められないから

    猫種によっても、舌を出しやすい猫がいます。

    猫は前歯が短くあごが小さいわりに、舌は比較的長めであるのが一般的です。しかし、顔が平らで下あごがほかの猫種に比較して小さいヒマラヤン・ペルシャ・チンチラ・エキゾチックショートヘアなどは、舌を口の中にうまく収納できず出しっぱなしになることがあります。

    歯がないため

    歯周病などの影響により、前歯や下顎(したあご)の犬歯が抜けてしまうと、舌を出しているように見えることがあります。

    病気の症状

    猫は鼻呼吸が一般的。運動直後や興奮しているときは一時的に呼吸数が増えることもありますが、基本的には猫が口を開けて呼吸したり、呼吸の回数が速くなったりすることは異常です。

    舌を出すだけではなく下記のような症状があると病気が隠れている可能性があるため、できるだけ早めに動物病院を受診しましょう。

    • 口を開けて呼吸をしている
    • 呼吸が速く苦しそう
    • 食欲がない
    • ぐったりしていて元気がない
    • 口臭が強い
    • 口からよだれを出したり、出血したりしている
    • 食べにくそうな様子がある

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    舌を出しているときに考えられる病気とは?

    舌を出しているときに考えられる病気とは?
    (Garna Zarina/shutterstock)

    猫が舌を出す際のもっとも多い理由は安心によるものですが、早期発見・治療が非常に重要な病気が隠れていることもあります。

    口腔内の病気

    歯肉口内炎

    口の中(歯肉、口腔・咽頭(いんとう)の粘膜、口蓋(こうがい)粘膜、舌)の炎症をいいます。7歳頃の中年齢での発症が多く、口の中全体に及ぶ炎症やただれをみとめるもの、範囲のせまい炎症など程度はさまざまで、左右対称にあらわれます。

    主な症状

    ひどい痛み、よだれが出る、口からの出血、口臭、下顎リンパ節の腫れなど。痛みで食事や飲水が困難となり、脱水や体重減少を引き起こすこともあります。

    治療・対処法

    原因ははっきりしていませんが、ウイルスや細菌の関与、免疫反応、細菌の多様性の低下など複合的な要因が考えられています。生活の質が大きく低下するため、早期の治療が推奨されます。

    炎症の引き金となっているウイルスや細菌を除去し炎症反応を抑えることが大切で、歯垢や歯石の除去、必要に応じて抜歯が行われます。

    その他抗生剤、抗ウイルス剤、ステロイド剤やサプリメントなど症状に合わせて使用します。

    歯周病

    歯と歯ぐきの隙間から侵入した細菌が歯肉に炎症を引き起こした状態(歯肉炎)と、歯肉炎が進行し歯を支える骨を溶かしてグラグラにさせる状態(歯周炎)をあわせて歯周病といいます。

    歯周病は、歯を支える歯周組織が破壊され溶けるため、歯を失うことにつながります。

    主な症状

    特に歯肉炎から歯周病に進行すると、痛みが強くなり口のまわりを触られることを嫌がるようになったり、ドライフードが食べにくくなったり、よだれが増えたり、口を閉じることが難しくなり舌を出すことがあります。

    予防法

    2歳以上の猫の80%以上で何らかの症状があるといわれています。発症の原因は歯垢(プラーク)中の細菌であるため、幼少期からのホームデンタルケアなどによるプラークコントロールが大切です。

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    異物や腫瘍(しゅよう)

    猫の口の中に異物が入り、口を閉じられず舌を出すことがあります。また、腫瘍が猫の口の内部にあり、大きくなってくると、口の開閉が困難になって猫が舌を出すことがあります。

    呼吸器系の病気

    猫が呼吸器系の病気になると、鼻での呼吸だけでは苦しくなり、口を開けて呼吸(開口呼吸)をすることがあります。

    猫風邪

    猫風邪は猫の呼吸器疾患の中でも多い病気で、多頭飼育や猫同士の接触が多い環境で感染・発症しやすくなります。原因はヘルペスウイルスやカリシウイルスといったウイルス感染が一般的です。

    主な症状

    鼻水やくしゃみ、結膜炎による目ヤニ、発熱、咳、元気がないなど。

    鼻水の影響で鼻が詰まって呼吸しづらくなり、開口呼吸をしたり呼吸が速くなったりして舌が出ているように見える場合があります。症状が悪化すると肺炎や重度の結膜炎につながる可能性があります。

    治療・対処法

    治療は抗ウイルス薬や消炎剤、二次的な細菌感染予防に抗生剤が効果的です。

    鼻が詰まっていると食欲が低下する傾向があるため、症状が重い場合には嗜好性が高い食事や食欲増進剤、栄養チューブなどの栄養補助が必要となります。

    一時的に症状が改善してもウイルスは体内に残り続けるため、何らかのストレスを受けたときや免疫力が低下したときに症状の再発を繰り返すことも。ワクチン接種によって発症予防や症状の悪化を防げるため、予防接種を受けるとよいでしょう。

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    猫喘息(ぜんそく)

    猫喘息の多くは、アレルギー物質の吸い込みで空気の通り道(気道)に炎症を引き起こし、気道が狭くなることで起こると考えられています。

    アレルギー物質は、花粉やハウスダスト、環境中の物質や大気汚染物質(タバコの煙や香水など)が多いですが、ストレスも発症の要因になり得ます。

    主な症状

    突然のひどい咳が特徴的で、その他ゼーゼー、ヒューヒューといった呼吸音、呼吸が速くなるなど。進行すると酸素が取り込めず舌などの粘膜が青紫色(チアノーゼ)になったり、開口呼吸を引き起こしたりすることがあります。

    治療・対処法

    診断には感染症や腫瘍などほかの病気がないかを確認するために複数の検査が必要です。根本解決にはアレルギー物質の除去が必要です。

    しかし、環境中の何に反応して喘息を引き起こしているか判断することは難しく、できる限り少ない容量の投薬で症状を長期間安定させることが治療の目標になります。

    気道の炎症をともなうことが一般的で、多くの場合はステロイド剤が必須となります。鎮咳薬、薬の噴霧療法(ネブライザーなど)を組み合わせて咳の管理を行います。

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    循環器系の病気

    肥大型心筋症

    心臓の筋肉が内側に向かって分厚くなって心臓がうまく膨らまなくなり、全身に十分な血液が送れなくなります。どの年齢で発症してもおかしくない、猫に多い病気です。

    主な症状

    初期ではほとんど症状が見られませんが、走った後に呼吸が荒くなるなどの症状が見られたときには進行していることが多いです。

    進行し心不全が起こると、胸水貯留(胸の中の空間に何らかの原因で液体がたまった状態)や肺水腫(肺胞内に水がたまり酸素交換ができなくなる状態)で呼吸困難となり、呼吸が浅く速くなります。

    呼吸が浅く苦しそうに開口呼吸をしたり、少しでも酸素を取り込むために前足を大きく開いた姿勢で肩の上下運動をともなった息をしたりすることがあります。

    治療・対処法

    このような症状は緊急性が非常に高いため、一刻も早く動物病院を受診しましょう。

    熱中症

    熱中症は高温多湿な環境下で高体温と脱水により起こり、重症度が高く緊急治療が必要となります。

    猫は汗をかくのが肉球と鼻だけなので、人間のように熱を放散して体温を下げることができません。暑い夏の時期だけでなく、冬場の暖房のつけ過ぎなどでも熱中症になる可能性があります。

    また、長毛種や短頭種、子猫や老猫、肥満、呼吸器疾患や心疾患をもっている猫は熱中症になりやすいです。

    主な症状

    最初は開口呼吸、速くて浅い呼吸(パンティング)、頻脈、食欲不振、よだれ、口粘膜・歯ぐきの充血が見られ、進行すると嘔吐や下痢、ふらつきなどが見られます。

    より重篤な状況では、痙攣(けいれん)発作、意識障害といった神経症状などもあらわれます。

    治療・対処法

    舌が出ている以外に熱中症と思われる症状が見られたら、早期の冷却処置が必要です。ただちに日の当たらない涼しい場所に移動させ、水を十分に飲ませましょう。動物病院に連絡し、状況に応じた応急処置のアドバイスを受け、すぐに受診しましょう。

    近年は猛暑日が増えているため部屋の温度・湿度の管理に注意し、水分補給しやすい環境を心がけてください。

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    まとめ

    猫が舌を出すもっとも多い理由は安心やリラックスによるものです。しかし、舌を出すだけでなく呼吸の異常がある場合は、早期発見・治療が非常に重要な病気が隠れていることがあります。呼吸がいつもと比べて速い、おかしいと思ったら早めに動物病院を受診しましょう。

    著者・監修者

    森井知里

    獣医師/ペット栄養管理士

    森井知里

    プロフィール詳細

    所属 yourmother合同会社
    (獣医師によるオーダーメイドの手作り総合栄養食や療法食レシピをお届けする「DC one dish」の運営)

    日本ペット栄養学会

    略歴 1992年 三重県に生まれる
    2011年 麻布大学獣医学部動物応用科学科に入学
    2013年 麻布大学獣医学部獣医学科に転学科
    在学中、料理教室で講師を務める
    2018年 獣医師国家資格取得
    2018年 東京都内動物病院に勤務
    2019年~2021年 千葉県内動物病院に勤務
    2022年~2023年 東京大学附属動物医療センターで内科系研修医として勤務
    2023年4月~ yourmother合同会社に勤務

    資格 獣医師免許
    ペット栄養管理士

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