猫は歯に関わる病気になりやすく、治りにくい場合もあります。口の痛みでご飯が食べられなくなったり、ヨダレが出続けることになったりすると、猫も飼い主さんも辛いことでしょう。しかし、日常的なケアで発症を予防したり、早期に適切な処置ができたりすれば、改善が期待できるのも事実です。健康的な口を維持できるよう、猫の歯に関わる病気について知っていきましょう。
もくじ
肉食動物である猫の歯は、肉を突き刺したり切り裂いたりしやすいよう、尖った形をしています。猫の歯は乳歯が26本、永久歯が30本あり、生後6~7か月で永久歯に生え変わります。
犬は、永久歯が生えてきたときに乳歯が残ることがたまにありますが、猫は滅多にありません。人と同じく、生え変わりは1回のみです。高齢になって永久歯がポロっと抜けることがあれば、口腔内の環境はあまりよくないと考えられます。
また、猫は虫歯になることもありません。虫歯とは、口の中にいるミュータンス菌などが作りだした酸で歯が溶けた状態のことをいいます。ミュータンス菌は酸性の環境を好みますが、猫の口の中は弱アルカリ性のため、菌が繁殖しにくいのが理由のひとつです。
猫には、歯周病や歯肉口内炎が多いです。どちらも同じに思えるかもしれませんが、病態も原因も全く別物です。
歯周病は、歯肉炎と歯周炎を合わせたものと定義されます。歯肉炎は歯肉のみに炎症が起こる病態です。歯肉炎が悪化して周りの組織にまで炎症が及び、歯槽骨が溶け出している病態を歯周炎といいます。
歯周病は中高齢以上の猫で見られることが多く、歯に付着した歯垢・歯石が原因となります。これらに含まれる細菌などが歯肉に接し、炎症を引き起こします。
歯周病=歯肉炎(歯肉のみの炎症)+歯周炎(周りに炎症が及び骨が溶けている)
歯肉だけでなく、歯から離れた口腔粘膜まで炎症が及んだ病態のことを歯肉口内炎といいます。1~3歳の比較的若い猫に見られることが多く、歯が綺麗で歯石の沈着も少なく、歯周病をともなわないことも多いです。
歯肉口内炎の原因は未だ確定していません。歯垢に含まれる口腔内細菌に免疫が過剰応答する、猫白血病ウイルス・猫免疫不全ウイルス・猫カリシウイルスなどが関与していると考えられています。
歯周病と歯肉口内炎は合併していることもあり、区別が難しい場合もあります。
歯周病も歯肉口内炎も症状は似ています。
といった徴候が見られるようになります。これらが見られたときは、早めに動物病院に相談するとよいでしょう。
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歯周病の治療は、超音波スケーラーで歯石や歯周ポケットに溜まっている歯垢を除去すること(スケーリング)が主体となります。スケーリング後の歯面は、粗く汚れやすくなっているため、ペーストを用いて表面を研磨して、歯石・歯垢が付着しにくいようにしておきます。
これらの処置には痛みをともなうため、全身麻酔下で行われることが推奨されています。無麻酔では口の中を隅々までよく見て評価できません。処置中に暴れて口腔内を傷つけてしまったり、保定者が無理やり抑え込もうとして関節を怪我させてしまったり、人を怖がるようになる危険性があります。
日本小動物歯科研究会も、無麻酔での歯石除去には否定的です。確かに全身麻酔は100%安全なものではありませんが、術前の検査で問題なければ過剰に恐れる必要はないでしょう。
歯周病で歯周組織の約2/3が破壊されている場合は、修復が困難なため、抜歯が検討されます。
治療のポイントは、
・過剰な免疫反応を抑えること
・歯垢(口腔内細菌)を減らすこと
になります。
ステロイドなどを用いた治療を行います。ステロイドは強い消炎作用を持ち、過剰な免疫反応を抑えてくれるため、有効な武器となります。しかし、長期間の使用は糖尿病の発症リスクにつながるため、使い方には注意が必要です。
サプリメントを用いることもあります。犬の歯周病に対して開発されたイヌインターフェロンα製剤が、猫の歯肉口内炎に対しても有用であるといわれています。
歯垢を減らすには、抜歯が最も効果的です。歯の表面に付着した歯垢で細菌が繁殖し、その菌に対する過剰反応が原因なのであれば、抜歯して菌の繁殖場所をなくそうということです。スケーリングは、処置直後は効果がありますが、しばらくすると再発するといわれています。
インターフェロンの投与や、歯磨きなどのケアだけでコントロールできる軽症の子もいますが、徐々に症状が悪化することもあります。中~重度の歯肉口内炎は、内科療法だけでコントロールできず、抜歯が必要になることも多いです。
炎症が歯垢のつく歯の周囲だけでなく口腔内全体に及ぶこともあるため、炎症の範囲や程度によって全顎抜歯か全臼歯抜歯を選択します。
歯を大量に抜くことに抵抗がある飼い主さんも多いと思いますが、抜歯にともなう痛みは一時的で、歯肉口内炎の痛みからも解放されます。抜歯から数日たてば、自分でやわらかいご飯を食べ出すことができ、術後数週間でドライフードも快適に食べられるようになります。
猫は人のように食べ物をあまり咀嚼していません。猫の歯の役割は、犬歯で獲物を仕留め、臼歯で食べ物を飲み込める大きさまで細かくすることのみであるため、通常の猫用の食事であれば歯がなくても不都合はないと考えられています。
歯周病も歯肉口内炎も、歯ブラシや歯磨き用手袋を使った歯磨きで歯垢・歯石の付着を防ぐことが予防に繋がります。こちらの記事を参考に、歯磨きを習慣にしていきましょう。
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歯磨きが難しかったとしても、
といったことを行ってください。何もしないのに比べたら、長い目で見たときに大きな差になっていることでしょう。
可能な範囲で愛猫の歯をケアし、健康な口腔を長く保てるようにしていきましょう。
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