犬好きの方であれば、「保護犬」の里親になることに関心を持っている方もいるのではないでしょうか。東京都内で毎日譲渡会を行い、気軽に保護犬に出会えるシェルターとして、2023年6月、アクアシティお台場にオープンした「ドッグシェルターanifareお台場」。郊外にあることが多いシェルターを都内の商業施設内に設けた理由やシェルターの特徴について紹介します。
もくじ
「ドッグシェルター」とは、一般家庭で飼育できなくなった犬や、ブリーダーの引退にともない行き場をなくした犬を保護し、新たな家族(里親)と引き合わせるための場所です。
ドッグシェルターの多くが郊外にあるなか、「ドッグシェルターanifare(アニフェア)お台場」は、東京都内の大型商業施設「アクアシティお台場」にあります。
2019年に設立し、里親募集サイトの運営を行ってきたアニフェア(anifare)は、東京(八王子、お台場)、大阪(豊中)、福岡(糟屋郡)にあるシェルターなどでの譲渡会、オンライン譲渡会といった活動を行っています。
その中の「ドッグシェルターanifareお台場」。訪問当日は平日でしたが、多くの人が保護犬と触れあいにシェルターを訪れている様子が見られました。
さっそく、見学の様子をお伝えしましょう。
今回は、シェルター長の石神さんにご案内いただきました。
「ドッグシェルターanifareお台場」のある「アクアシティお台場」は、ゆりかもめ「台場駅」から徒歩6分ほどとアクセスしやすく、休日には近隣施設でイベントが行われることもあり、多くの人が訪れる商業施設です。
立地だけでも十分にアクセスしやすい環境にありますが、さらに入りやすさを感じてもらえるよう、シェルターは全面ガラス張りになっています。外から犬を見て、「可愛い」と思って中に入ってくる方もいるのだとか。
「トリミングを行うテーブルも、あえてガラス寄りに置いています。トリミング中の犬を見て、『この子をお迎えしたい』と譲渡が決まったこともあるんです。また、ちゃんとケアをしてもらっているんだなと安心していただける材料にもなっています」
ただ、当初はドッグシェルターだとは思われず、ペットショップやドッグカフェだと勘違いされることも多かったのだそうです。
保護犬と里親をマッチングさせる場所だとわかるよう、シェルター前に看板を出すなどして認知を広げたところ、「里親が決まる頭数も徐々に増えています。
2023年8月の1カ月だけでも100頭はお迎えが決まりそうです」とのことでした。
シェルター内について、石神さんは「どこを見ていただいても問題ない環境を整えています。普段来場された方が目にされるシェルター内はもちろん、ワンちゃんの休憩スペースも含めて清潔な空間を保っています」と説明します。
訪れた方は、気になった保護犬を抱っこしたり、リードにつないでシェルター内を散歩してみたりしながら、保護犬と触れあうことができます。マッチングはスタッフもサポートしますが、「実際には、犬たちと触れあってもらって感じてもらう部分が大きい」と石神さん。
「『この子を救いたい』という気持ちに勝るものはないですね。シェルター内のサークル数に限界があることもあり、基本的にはお迎え希望の方には当日のお迎えをお願いしています。すぐにお迎えいただけるよう、週に2度獣医師による健康診断を行っていまして、シャンプーやワクチンなど、必要なケアが済んでいる保護犬はご縁があればすぐに送り出せるような状況を整えています」
むしろ、大切なのは譲渡したあとなのだそう。
「お迎え後の連絡は必須です。翌日、3日後、1週間後など、定期的に様子をご報告していただき、困ったことがあればすぐ相談に乗れるようにしています。心強いのは、アニフェアで保護犬をお迎えした里親が自発的に作った里親会の存在です。定期的にイベントを開き、里親同士が相談しあえる関係を築いています。里親会のInstagramアカウントも有志が作っているんですよ」
ペットショップ会社の取締役をしていたことがあるというアニフェアの原田社長。「ドッグシェルターanifareお台場」の開設に至った経緯についてお聞きしました。
大手ペットショップのアメリカ研修旅行で、現地のドッグシェルターの視察をしたことがきっかけです。日本にも海外のようなシェルターを取り入れ、「家族のいない保護犬に早く新しい家族を見つけたい」という思いから、日本で初めて商業施設へのドックシェルターの開設を決めました。
欧米ではショッピングセンターにシェルターが入っていることが多いんです。向こうのシェルターは大型動物病院と同レベルで医薬品を消費している点も特徴で、きれいなシェルターで医療ケアも完璧であることに驚きました。
また、このような充実した環境のシェルターを運営していくための運営資金を集める仕組みやシェルターで働いている人たちの努力や苦労しながら寄付金を集めることで今に至っていることを見聞きし、アニフェアの施設運営の参考にしています。
日本では、「保護犬」と聞くと、人に懐かない、虐待を受けてきた経験がある、引き取るハードルが高い犬という印象がある人も多いのではないかと思います。保健所を連想される方もいるでしょう。しかし、保護犬はそうした犬だけではありません。
アニフェアのドッグシェルターにいる子たちは、一般家庭やブリーダーの元からやってきた犬たちです。人に慣れた扱いやすい子が多く、6~7歳ごろの飼いやすい年齢の子が中心です。
実際に見ていただければ、「保護犬」に抱いていたイメージも変わると思います。まずは保護犬を見て触れて知ってもらう機会を増やすことで、「保護犬を迎える」という選択肢を持つ人が増えてほしいと思っています。
保護犬のイメージを変え、お迎えしたいと思っていただくために、保護犬たちが過ごすシェルターの雰囲気も大切にしています。従来の保護犬へのイメージからくる心理的なハードルがありますよね。
そこで、明るくて清潔で、ある程度オシャレさがあるようなシェルターを作るべきだと思い、「ドッグシェルターanifareお台場」のようなシェルターを作ってきました。
現状ではペットショップで子犬を迎える人と保護犬を引き取る人との割合が、ペットショップに偏りすぎていると感じます。
ペットショップを選択することは決して悪いことではないのですが、バランスを是正するためにも保護犬を飼う選択をする人が増えていったらいいなと思いますね。
今すぐ飼えずとも、保護犬を知ってもらいたいという思いで、今後は定期的にイベントを開催したいと考えています。
保護犬を迎えるにあたり、知っておくべきことは何でしょうか。シェルター長の石神さんにお聞きしました。
「ドッグシェルターanifareお台場」にいる子たちは何かしらのトラウマを抱えている子はほぼいないので、「虐待されてきたために、人に不信感があって懐かない」といった飼いにくさはありません。比較的飼いやすい子が多いです。
「保護犬=飼いづらそう」だと思っている方だと、イメージが大きく変わるのではないかと思いますね。
保護犬の中には過度に攻撃的な子はもちろんいますが、そういった子はシェルターで保護をするのではなく、「噛み癖があります」と明記した上で、アニフェアが運営している里親募集サイトに掲載しているため、シェルターにはいないんですよ。
いわば、シェルターにいる子は一定の入園テストに合格した子だと思ってもらえるとわかりやすいでしょう。
ちなみに、シェルターに入ってきた経緯によって性格には違いが見られます。一般家庭からきた子は人との生活に慣れていて、しつけをしてもらったことがあるので、年相応の性格をしていることが多いです。
一方、ブリーダーさんのところからきた子は、しつけをしてもらった経験が少ないため年齢よりも子犬っぽいところが見られます。成犬ではありますが、お迎えしたばかりの子犬のように喜んだり構ってほしがったりするのが見られると思いますよ。
よく聞かれますが、アニフェアの場合、そんなに厳しいとは思っていません。お子さんがいるご家庭、ご高齢者がいるご家庭、共働き家庭、先住犬がいるご家庭でも里親になれます。
まずお伺いしているのは、「犬を迎えられる家なのか(物件規約、家族のアレルギーの有無など)」「家族の同意は得られているのか」と本当に基本的なことです。あとはお迎えできる時期の確認ですね。お迎え後の定期的なご連絡だけはお願いしています。
保護犬=保健所のイメージが強いためか、「気をつけてあげるべきことはないですか」と聞かれることが多いです。先ほどもお話したように、保護犬だから特別に気をつけないといけないことはありません。
あとはしつけ関係の質問が多いです。「トイレはできますか」とかですね。
保護犬は成犬なので、性格もできあがっていますし、見た目も大きさも変わることはありません。子犬は可愛いですが、成長する先がまだまだ未知数で、お迎えをしてみるとしつけやお世話が想像以上に大変という声もあります。
なので、実は保護犬のほうがお迎えしたあとの生活に馴染んでもらいやすく、お世話も楽という側面もあるんです。それが保護犬の魅力の一つではないでしょうか。
持っていてほしいのは、「この子と生活をする覚悟」だけ。「ドッグシェルターanifareお台場」の保護犬たちは、どのような人の元にも送り出せると思える子たちなので、まずは気軽に見学しに来ていただけたらと思います。
保護犬に関心はあるものの、いきなり里親になる覚悟を決めるのは難しかったり、住環境でどうしても飼えなかったりする方もいるでしょう。
そんな方にも保護犬と触れあう機会を持ってもらいたいという思いで、「ドッグシェルターanifareお台場」では、保護犬と触れあえる機会を設けています。
アニフェアのお台場シェルターでは、2023年の夏休みに親子ボランティアイベントを開催しました。「犬が好き」「犬を飼いたい」「保護犬を飼うことに興味がある」という親子が参加し、保護犬と触れあう時間を過ごしました。
イベントでは、保護犬やドッグシェルターの仕事について学び、子どもたちが実際に保護犬のブラッシングをし、オムツやリードをつけてみたり、シェルター内を散歩してみたり、おやつや水を飲ませたり抱っこしてみたりと、お世話を体験しました。
それぞれの親子の元に保護犬が登場すると、座学でも真剣に話を聞いていた子どもたちではありましたが、「やっぱり犬のパワーはすごいですね。ワンちゃんが登場した瞬間から子どもたちの表情が一気に明るくなりました」と石神さん。
この日、参加したのは小2から小6までの5人の子どもたち。ボランティア体験を終えたあと、子どもたちは「おやつをあげるのが楽しかった。めちゃくちゃ食べた!」「最初は懐いてくれなかったけど、だんだん慣れてくれて最後は心を開いてくれたのがうれしかった」との感想を寄せてくれました。
保護者の方からは「子どもが犬を飼いたいと言っていたので参加しました」「自分が保護犬に関心があり、いつか飼うなら保護犬だと思って子どもたちを連れてきました」など、保護犬に以前から関心を持っていた様子がうかがえるコメントが寄せられました。
「子どもとワンちゃんの組み合わせは最強ですね」と石神さん。保護犬と触れあって笑顔になることは子どもたちにもいいことであり、保護犬たちにもいい経験になると話していただきました。
「ドッグシェルターanifareお台場」の取り組みを知り、「保護犬を迎えること」に対するハードルが少し下がった方もいるのではないでしょうか。
犬を家族に迎えるのは大きな選択です。お迎えするのであれば、悔いのないお迎えをしたいものですね。保護犬の譲渡会は今回ご紹介したアニフェアのほかさまざまな団体がいろいろなところで行っています。
保護犬のお迎えを検討している方は、まずはそうしたシェルターや譲渡会に足を運び、実際に保護犬と触れあってみてはいかがでしょうか。