犬の予防接種を正しく理解していますか。「接種義務のある狂犬病ワクチンについては知っているけれど、その他のワクチンやワクチンの副作用についてはわからない」という飼い主さんも多いのではないでしょうか。そこで本記事では、飼い主さんが知っておくべきワクチンの種類や注意点を解説。感染症から愛犬を守るために、予防接種の基礎知識を学びましょう。
もくじ
予防接種は、感染症に対する免疫力をつけ、感染から身を守るために行います。
感染症にかかると、体はその病気の免疫をつくることが知られています。予防接種はその体の仕組みを利用し、感染症の原因となるウイルスや病原菌から作り出したワクチンを体に投与することで感染を予防します。
予防接種の原理や考え方は人も他の動物も変わりません。
犬の予防接種は、狂犬病ワクチンと混合ワクチンに分けられます。まずは、接種義務のある狂犬病ワクチンの基礎知識を解説します。
狂犬病は、感染すると間違いなく命を落とす重大な病気です。名前に「犬」が入っていますが、感染対象は犬に限りません。哺乳類であれば、どの個体も狂犬病に感染する恐れがあります。
狂犬病の治療法は現在まで見つかっておらず、世界では年間5万人以上の死者が出ています。そのため、日本では犬の飼い主さんに対して狂犬病ワクチンの接種が法律で義務付けられています。
飼い主さんは、犬を自宅へ迎えたら30日以内に在住の市町村に犬を登録し、登録番号を記載した鑑札と、狂犬病ワクチンの注射済票を受け取らなければなりません。
鑑札と注射済票は、犬に常に身につけておきます。注射済票は毎年ワクチンを接種するごとに新しいものが発行されるため、必ず最新の注射済票に着けかえましょう。
ただし、マイクロチップの登録・装着が済んでいれば、特例としてマイクロチップを狂犬病ワクチンの鑑札とし、従来の登録や鑑札を省略できる場合があります。
特例の適用状況は地域によって異なるため、詳細は在住の自治体に確認しましょう。
狂犬病ワクチンは、一度接種したら終わりではなく毎年1回接種します。最初の接種は、飼い始めた日から30日以内に行いましょう。
ただし、子犬が接種を開始できるのは生後91日以降です。生後91日未満の子犬は、接種可能な時期になってからワクチンの準備を始めましょう。
国は、毎年4月〜6月を狂犬病予防注射月間と定めています。各市町村でも集団接種が集中的に行われるため、4月〜6月を接種時期に設定してもよいでしょう。
狂犬病ワクチンの平均費用は1回3,000円〜4,000円です。金額は地域によって前後するため、費用は市町村や動物病院に確認しましょう。
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混合ワクチンは、さまざまな犬の感染症ワクチンを組み合わせて接種することで、効率的に感染予防できるものです。
狂犬病ワクチンとは異なり、接種義務はありませんが、致死性の高い感染症の予防ができるため、お住まいの生活環境に合わせての接種が推奨されます。
犬がかかりやすい感染症は、狂犬病だけではありません。混合ワクチンで予防できる病気は次の通りです。
2種 | 3種 | 4種 | 5種 | 6種 | 7種 | 8種 | ||
コア | 犬ジステンバー | ● | ● | ● | ● | ● | ● |
● |
犬伝染性肝炎 | - | ● | ● | ● | ● | ● |
● |
|
犬アデノウイルス2型 | - | ● | ● | ● | ● | ● |
● |
|
犬バルボウイルス | ● | - | - | ● | ● | ● |
● |
|
ノンコア | 犬パラインフルエンザ | - | - | ● | ● | ● | ● |
● |
犬コロナウイルス | - | - | - | - | ● | - |
● |
|
犬レプトスピラ(Icterohaemorrhagiae) | - | - | - | - | - | ● |
● |
|
犬レプトスピラ(Canicola) | - | - | - | - | - | ● |
● |
致死率の高い重大な感染症です。子犬期から成犬の始めごろまでに感染しやすいといわれています。感染すると発熱や鼻水、食欲不振、結膜炎などさまざまな症状が現れます。
ときには脳にもダメージを与え、けいれん発作や後躯麻痺(こうくまひ)などの神経症状を引き起こし、後遺症が残る場合もあります。
肝炎をはじめ、発熱や嘔吐などさまざまな症状を引き起こす感染症です。軽度な症状のみが現れる例もある一方で、1歳未満の子犬は重症化しやすい傾向があります。
重篤化すると、角膜が混濁する症状(ブルーアイ)が残るケースも確認されています。
犬伝染性肝炎と同類のウイルスによって起こる感染症です。発症すると咳などの症状が見られます。
致死率は低いものの、細菌性肺炎につながることもある犬伝染性気管気管支炎(ケンネルコフ)の一因となる可能性があります。
感染すると激しい下痢や嘔吐、血便などを引き起こします。ウイルスの感染力は数ヶ月間にわたって潜伏できるほど強力です。
ウイルスをもつ犬と直接接触しなくても、飼い主さんの靴などに感染した犬の排泄物などがつくことでウイルスが運ばれ、発症することもあります。
くしゃみや咳、鼻水など風邪のような症状を起こす感染症です。犬伝染性喉頭気管炎と同じく、ケンネルコフの一因としても知られています。
重篤化しづらい病気ですが、ほかの感染症と混合感染することで症状が重くなることがあります。人のインフルエンザウイルスとの関係はありません。
消化器官へ影響を与え、下痢や嘔吐などを発症します。新型コロナウイルス感染症と名前は似ていますが、別の病気です。
子犬期に感染しやすく、犬パルボウイルス感染症と混合感染すると重篤化する確率が高まります。成犬期以降に感染した場合は、症状がほとんど見られないケースが多いようです。
肝臓や腎臓障害を引き起こす感染症です。すべての哺乳類に感染リスクがあり、人も発症します。感染しても症状が見られない場合もあれば、重症化して死に至るケースもあります。
混合ワクチンは、コアワクチンとノンコアワクチンの2種類に分けられます。
コアワクチンは、致死率や感染力が高く生活環境などにかかわらず接種を推奨されているものです。具体的には、犬パルボウイルス感染症、犬ジステンパーウイルス感染症、犬伝染性肝炎、犬アデノウイルス2型のワクチンが該当します。
ノンコアワクチンは、地域の感染状況やライフスタイルに応じて接種を検討するもので、接種の優先度はコアワクチンのほうが高いと考えられています。
ノンコアワクチンを受けるかは犬の健康状態や地域性をふまえて動物病院と相談し決定しましょう。
混合ワクチンの接種時期や頻度は、世界小動物獣医師会(WSAVA)のガイドラインがひとつの目安となります。
WSAVAによれば、子犬の混合ワクチンの接種開始時期は生後42日〜56日以降、1回目の接種から生後4ヶ月になるまでに2週間〜4週間の間隔をあけて2回目・3回目の接種を行います。
犬は生まれつき、母犬から抗体を受け継いでいます。混合ワクチンの抗体は、母犬の抗体が徐々に失われていくことで作られるようになります。抗体量は個体差があるため、接種を繰り返すことで確実にワクチンから新しい抗体を作れるのです。
子犬期の3回接種が完了したら、コアワクチンは1~3年に1回、ノンコアワクチンは1年に1回の接種が推奨されています。
抗体を維持するには、定期的な予防接種が必要です。予防接種の頻度は健康状態や副作用の有無などによっても変わります。かかりつけの動物病院と相談し、愛犬に合わせたワクチンスケジュールを検討しましょう。
混合ワクチンの平均費用は、6,000円〜8,000円前後です。ワクチンの数が多いほど費用は高くなります。
動物病院や地域によって金額が変動するため、実際の費用はかかりつけの動物病院に問い合わせてみましょう。
愛犬の予防接種を予定している飼い主さんは、以下の注意点を覚えておきましょう。
予防接種は、まれに副反応を引き起こすことがあります。注射部位の痛みなどが主な例で、接種から数日後にしこりができることもあります。
飼い主さんが特に注意すべきなのは、アナフィラキシーショックです。アナフィラキシーは、アレルギー反応の一種です。複数の臓器でアレルギー反応が起きることで、さまざまな症状が急激に現れます。
特に、血圧低下や意識障害をともなった症状を、アナフィラキシーショックと呼んでいます。アナフィラキシーが見られた場合は、すぐに病院を受診しましょう。
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予防接種後は、激しい運動は控え、犬の体調に変化がないか観察しましょう。
予防接種当日の散歩は休んで構いません。予防接種後数日間は散歩時間を短縮するなど、犬に無理をさせないようにしましょう。
予防接種から数日間は、シャンプーやトリミングも避けてください。
子犬の予防接種を進める際は、以下のような点に注意が必要です。
子犬は生後4ヶ月になるまでに混合ワクチンを3回接種することが推奨されています。ただし、ペットショップやブリーダーを通じて迎えた子犬は、混合ワクチンの初回接種を完了している場合があります。
自宅へお迎えする前に、接種状況と接種したワクチンの種類、2回目以降の接種時期をペットショップやブリーダーに必ず確認しましょう。
お迎えしたばかりの子犬は、興奮や緊張で体力を消耗しがちです。生活環境に慣れないうちから予防接種を始めると、体調を崩す恐れがあります。
狂犬病ワクチンは飼い始めてから30日以内に1回、混合ワクチンは生後4ヶ月までに3回接種することが推奨されていますが、接種は子犬の体調や精神状態が落ち着いていることが前提です。
接種スケジュールは子犬の体に配慮しながら柔軟に設定しましょう。
予防接種が完了するまでは、散歩は控えるようにしましょう。予防接種前に外出先で他の犬と接触することなどによって、感染症のリスクが高まります。
散歩デビューの目安は最後の予防接種から2〜3週間ほどといわれていますが、抗体が作られるペースは個体によって異なるため、散歩を開始するタイミングは動物病院に相談して見極めましょう。
多頭飼いをしている場合は、予防接種が完了するまで他の犬との生活環境を分けます。動物病院へ連れて行く際は、キャリーケースに子犬を入れて感染を予防しましょう。
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ペットフード協会が2022年に発表した全国犬猫飼育実態調査によれば、1年以内に狂犬病ワクチンを接種した飼い主さんは全体の約8割でした。また、混合ワクチンを接種済みの飼い主さんは約7割を占めています。
接種が義務付けられている狂犬病ワクチンの接種率が100%にならないのは、狂犬病への危機意識の薄れではないかという指摘があります。
長い間、国内で狂犬病の流行は起こっていないため、狂犬病は過去の感染症だというイメージを持っている飼い主さんもいるのかもしれません。
任意接種の混合ワクチンの接種間隔の考え方も飼い主さんによって異なります。
INUNAVIのアンケート調査によれば、ワクチン接種に対して「毎年必要だと思う」が約6割である一方、「抗体検査をすれば毎年は必要ない」と考えている飼い主さんは全体の約3割を占めました。
予防接種を受けないデメリットを改めて考えてみるとよいでしょう。予防接種を受けなければ、以下のようなリスクがあげられます。
混合ワクチンを接種する頻度は、体調や体質などかかりつけの獣医師の判断によって異なりますので、自己判断をせずに動物病院と相談の上適切に予防接種を受けるようにしましょう。
飼い主さんは愛犬を感染させないようにするだけでなく、周囲の犬に感染を広げない責任も負っています。予防接種のメリットや感染症の怖さをよく理解し、感染予防に取り組みましょう。
予防接種と合わせてノミ・マダニ、フィラリアへの対策を検討しておくことも重要です。詳しくは関連記事をご覧ください。
参考:
一般社団法人ペットフード協会 令和4年 全国犬猫飼育実態調査
産経新聞 2020年6月24日「狂犬病注射7割止まり 年々低下、14年ぶり国内発症も」
INUNAVI 2021年5月19日 「副作用があった犬は◯%?知っているようで知らないワクチン事情!【犬の飼い主476人アンケート】」
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