多頭飼いの家庭で起きやすい犬同士のケンカ。飼い主さんとしてはみんな仲良くしてほしいものですが、上手くいかないときがあるのも事実です。犬のケンカが始まる理由は何なのでしょう。対策はあるのでしょうか。また、飼い主さんは仲裁に入ったほうがよいのでしょうか。そんな疑問にお答えします。
もくじ
もともと群れで暮らしていた犬は、群れの中で社会的序列(順位)を形成する、社会性の高い生き物です。
これは、餌や休息場所・繁殖相手など限られた資源への優先権を、強い(優位な)個体に与え、群れの中での争いを最小限に抑えるためだとされています。
多頭飼いの家庭では、序列を確立するため、優位行動と呼ばれる犬同士のケンカが起きることもあります。この場合、序列が確立するとケンカの頻度は減少し、小競り合い程度に落ち着いていきます。
犬の優位行動には、相手の鼻先(マズル)をしっかりとくわえ込む、頭と首を押さえつける、乗駕(マウント)する、首や肩あるいは背中にあごを乗せるといったものがあります。
下位の犬は、相手の犬をなだめるために、歯を隠す、腹部や首といった急所をさらす姿勢をとるなどして、自分が相手より下位であることを伝えようとします。
これらの一連の行動はぱっと見ではケンカに見えますが、序列を確立するためや確立した後の正常な行動です。相手にケガを負わせるほどの力でやることは基本的にありません。
犬同士では確固たる序列ができているのに、飼い主さんの都合や好みで下位の犬を優先するような扱いをしていると、ケンカが再燃することがあります。
優位行動、服従行動をよく観察し、犬の優劣関係を見極めた上で、上位の犬に先にご飯やおやつを与えたり、可愛がったり遊んだりして、序列の確立を促しましょう。
犬同士の優位行動、服従行動がよくわからないときは、ケンカの様子をビデオで撮ってかかりつけの先生に相談してみるとよいでしょう。
子犬には、ともに暮らす動物(人も含む)との適切なコミュニケーションを学ぶ社会化期という時期があります。
犬種差や個体差はあるものの、生後3~12週間くらいまでと考えられており、この時期には運動能力や感覚機能が著しく発達してきます。
その結果、
といった新しい行動が多く見られるようになります。
また子犬は、社会化期に飼い主さん家族や同居している動物に対し、社会的な愛着関係を作り上げます。
社会化期~若齢期を通して、遊びは子犬の正常な行動発達に重要な役割を果たします。
遊びを通じて運動能力を磨くと同時に、犬特有のボディランゲージを学び、遊び相手の反応から嚙む強さを抑制することを覚えて、社会的なルールを学びます。
そのため、先住犬と新しく来た子犬がケンカしているように見えても、それは犬同士の社会のルールを教えているというケースが多いのです。
家庭内の序列を決めるため(決まった後)の小競り合いや、子犬に社会のルールを教えている場合などは、大きなケガには繋がらないことがほとんどです。
しかし、どちらも服従行動をとることなく、お互いに優位行動を取ろうとし続けているようなら、本当にケンカしている可能性があります。
なかなか見分けるのは難しいため、これも可能ならビデオを撮ってかかりつけの先生に見てもらうとよいでしょう。
犬種・大きさ・年齢・性別が同じ場合は、お互いの優劣がつきにくいため、ケンカが起こりやすいです。
食餌やおもちゃ、飼い主さんの帰宅などによる興奮がきっかけになることが多いため、ご飯の場所を分ける・飼い主さんは帰宅時に犬に構わず、平静を装って無視するなどの対策が必要になることもあります。
また、叩くなどの体罰は、攻撃行動を悪化させる可能性があり、犬と人の関係が悪くなることもあるため厳禁です。
犬同士がケンカを始めたら、どちらの犬に対しても「ダメ」といって直ちに狭い部屋やケージに隔離し、10分以上経って犬が落ち着いたら解放するといった対処をしましょう。
このとき、
ことがポイントとなります。
いくらしつけや対策をしても、なかなかケンカが減らないときもあります。
どちらか、もしくは両方の犬が医学的な問題(精神面・身体面のいずれかもしくは両方)を抱えていたり、恐怖や不安状態にあったりすると、正しいコミュニケーションが取れず、攻撃の力加減ができなかったり相手の服従のサインに対応できなかったりします。
この場合はまず、身体面で異常がないかを精査し、必要に応じで行動療法を加える必要があります。飼い主さんだけで解決しようとせず、動物病院に相談しましょう。
医学的な問題がなかったとしても、お互いの相性がどうしても合わない場合はあります。そのときは、残念ながら大きなケガをする前に飼育場所を分けるしかないでしょう。
雄性ホルモンであるテストステロンの影響を受けるため、メスに比べてオスは攻撃行動が出やすいといわれています。
去勢手術は攻撃行動を低下させることがあるため、飼い主さんが繁殖を希望しないのであれば、両者もしくは下位の犬を去勢することでケンカの防止ができるかもしれません。
将来的な病気予防という観点では、両者の去勢をおすすめします。
ケンカ中の犬は非常に興奮しているため、飼い主さんであっても咬まれてケガを負ってしまう可能性があります。
素手でケンカの仲裁には入らず、着ている上着でもお散歩バッグでも何でもよいので、何かを犬と犬の間に入れてさえぎったり、スプレーに入れた水を鼻先に掛けたりして、犬を落ち着かせましょう。
犬同士がいつケンカをするかわからない場合は、常に短いリードを装着し、仲裁するときはそのリードを引っ張って止めるようにしてください。
ひと言で「犬のケンカ」といっても、その中身は多岐にわたり、見守っておいてよいものとそうでないものがあります。
重大なケガに繋がるケースもあるため、放っておいてもよいものかわからないときは必ず動物病院に相談しましょう。
【獣医師監修】犬の多頭飼いってどうなの?メリット・デメリットを解説
【獣医師監修】犬の多頭飼い、気になる先住犬との相性
【獣医師監修】子犬の多頭飼いを考える際に大切なこと
【獣医師監修】犬と猫の多頭飼いはできる?両方を飼う場合のヒント
【犬・猫】多頭飼い、ペット保険の選び方は変わる?多頭割引など選び方のポイントを解説
【獣医師監修】犬の多頭飼い、トイレはどうしてる?共用・分ける?しつけ方法を解説
【獣医師監修】犬の多頭飼い、ケンカをしたら飼い主さんはどう対応する?
【獣医師監修】犬の多頭飼い、ケージの選び方や置き方を解説
【獣医師監修】留守番や多頭飼いで役に立つ、ケージの使い方