DC one dish獣医師/ペット栄養管理士の岩切です。「水を飲んでほしいのに愛犬や愛猫がなかなか飲んでくれない」そんな経験はありませんか。健康を維持するためにも、病気を防ぐためにも適切な飲水量の確保は大切です。水を飲まないときの方法や、逆に水を飲みすぎている場合の原因、対処法について知っておきましょう。 前回の記事:【獣医師監修】愛犬愛猫のライフステージ にあった食事を選ぼう!成長期、維持期、高齢期の食事の違いと選び方|vol.18
もくじ
私たち人も含め、動物たちの体は体内外の変化にかかわらず、生理機能を一定の状態に保とうとする性質があります。これを恒常性(ホメオスタシス)とよび、この恒常性を維持するために、水は欠かせません。
犬や猫は人のように汗を大量にかくことはありませんが、便や尿、呼吸によって水分は失われます。そのため、健康であっても、必要な水分量を外から摂取して補わなければ不足してしまいます。
また、病気になったときには、その状態を改善・サポートするために、水分が重要となってくることもあります。水分が必要な病気には次のものが挙げられます。
細菌感染により膀胱で炎症が起きている状態のことを、細菌性膀胱炎といいます。膀胱内で菌が繁殖をして悪さをしているため、水分を大量にとって大量の尿で膀胱内の細菌を洗い流すことが治療の一環となります。
尿に含まれるミネラルが集まって顕微鏡で確認できるほどの結晶になり、さらに集まると結石になります。
腎臓に結石ができると腎機能が低下したり、尿管が詰まったりして、命にかかわることもあります。また、膀胱に結石ができると、膀胱炎や尿閉(尿道に結石などが詰まる病気)になることもあります。
尿の色が濃いとミネラルの濃度も濃くなり、結晶・結石ができやすい状態になります。
食事に含まれるミネラルを調整した療法食を与えることで結晶・結石を予防しようと考えられがちですが、水分を十分に摂取することも大切。水分をとって尿を希釈することで、結晶・結石ができにくい状態になるのです。
犬が1日に必要とする水分量は、体重1kgあたり50ml前後といわれたり、摂取するカロリー1kcalあたり1mlといわれたりします。猫の場合は、これよりもやや少ないといわれます。
しかし、室温・湿度などの生活環境や運動量などによって必要な飲水量は異なります。これらの数字は、あくまで目安として見ておきましょう。
愛犬や愛猫の水分が本当に足りているか確認するためには、飲水量を計測したり、血液検査や尿検査をしたりすることで、総合的に判断します。
次の手順で、犬猫が「1日に摂取したおよその水分量」を測ってみましょう。
ボウルに減った水の量が、愛犬・愛猫が1日に摂取した水分量となります。
一般的に、飲水量を増やすためのアイデアとして、次のことが挙げられます。
犬や猫はきれいな水を好みます。時間がたってホコリや毛が入った水や、飲んだ後の汚れた水は、早めに交換しましょう。
特に猫は、器の材質や形状で飲水量が変わる傾向があります。陶器のものを好むことが多いですが、器の形状などにもよるため、さまざまな器を試して好みのものを見つけてあげましょう。
犬や猫の過ごす場所に複数の水飲み場を用意し、常に近くで水が飲めるようにしましょう。水飲み場が目に入ることで、飲む機会を増やせます。
水に好みの味をつけることでも、飲水量を増やせます。水に味をつける用の製品も販売されているため、活用してみてください。また、煮汁や普段食べている食べ物を水に入れて与えるのもひとつの方法です。
ドライフードの水分含有量は10%程度ですが、ウェットフードは75%程度のものがほとんどです。ウェットフードは水分が多いため食事量は増えますが、犬の場合は好まれるのが一般的です。
猫の場合は、好みが分かれるため様子を見つつドライフードにトッピングするなどをして、ウェットフードを与えてみてください。
乾燥地帯で生活していた歴史がある猫は、水分の少ない食事を摂取し、多少水分が不足する状態でも、水を飲むより尿を濃縮することで体から水分を逃さないようにするという生存戦略をとります。
そのため、積極的に猫に水分を取らせようと思っても、自ら水を飲んでくれないことが多く、頭を悩ませている飼い主さんも多いことでしょう。
そんなときは、先に挙げた方法を試してみてください。
安全性という観点から、水道水よりもミネラルウォーターを選ぶ飼い主さんもいます。実際に飲んでくれる量が増える犬や猫もいますが、ミネラルの多い水は尿石症のリスクを高めます。
硬水はミネラルが多いため、ミネラルウォーターを与える際は、軟水を選びましょう。
また、地域によっては水道水にミネラルが多く含まれることがあります。水道水のほうが、尿石症が起きやすいこともあるため注意してください。
一度、尿石症になったことがある場合は、飲水量だけでなく、水の種類も動物病院の先生に相談してみてもよいでしょう。
「何も工夫をしなくとも大量に水を飲む」「水を飲む量がどんどん増えている」といった場合は、病気の可能性もあるため注意が必要です。飲水量が増える病気の例を挙げてみましょう。
腎臓の機能が衰えることで、尿として捨てる必要のない水分まで体から出て行ってしまいます。その分、水を飲んで補おうとするため、飲水量が増えます。
初期の腎臓病では、明らかに水分の摂取量が増加することはありませんが、進行していくと飲水量が徐々に増えていくことが多いです。
尿に含まれる糖が、体の水分とともに出ていくことから、脱水が生じ、水を大量に飲みます。糖尿病の場合は、飲水量が増えるだけでなく、ご飯を食べても体重がどんどん減っていくといった症状も出てきます。
この他にも、水分摂取量が増える病気はたくさんあります。「水を飲みすぎているのではないか」と心配な場合は、飲水量を測ってみましょう。
水を飲まないことでトラブルを引き起こしたり、飲みすぎに気づくことで病気が見つかることも多くあります。ぜひ、愛犬や愛猫の飲水量を普段から気にして過ごしてみてください。
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