急に後ろあしが立たなくなった、後ろあしの動きが鈍いなどの症状が見られたら、愛犬が椎間板ヘルニアを患っているかもしれません。ここでは犬の椎間板ヘルニアがどのような病気で、検査や治療はどうしたらよいかを解説していきます。
もくじ
背骨は複数の骨がつながってできており、骨と骨の間のクッションの役割をしているのが椎間板(ついかんばん)です。
椎間板は髄核(ずいかく)と繊維輪(せんいりん)でできています。まんじゅうで例えると髄核があんこで繊維輪があんこを包む皮と考えるとイメージしやすいかもしれません。
この背骨の上には脊髄(せきずい)という大きな神経が走っていて、前あしと後ろあしを動かす神経につながっています。
椎間板ヘルニアとは、骨の間でクッションの役割をしている椎間板が脊髄を圧迫することで起こる病気です。首で起こると頚部椎間板ヘルニアと呼ばれ、前あしと後ろあしの両方に症状が出ます。
腰で起これば腰部椎間板ヘルニアといい、後ろあしに症状が出ます。
ハンセンⅠ型とハンセンⅡ型の2つのタイプに分けられ、ハンセンⅠ型は急性に発症しますが、ハンセンⅡ型は少しずつゆっくりと進行する特徴があります。
椎間板ヘルニアの症状と聞くと、あしの麻痺という印象があるのではないでしょうか。しかし、椎間板ヘルニアには、麻痺以外にもさまざまな症状があります。
軽度のものは「痛み」で、首や腰を触ったり、抱き上げたりすると痛がることで気がつきます。中程度のものになるとあしの感覚が鈍くなり、うまく歩けない、ふらつくなどの症状が見られます。
重度になるとあしを引きずる、立てない、おしっこが出せない・漏れてしまうといった症状が見られるようになります。
椎間板ヘルニアを起こしやすい犬種として知られているのは次のとおりです。
これ以外の犬でも椎間板ヘルニアは起こります。「椎間板ヘルニアの症状かも」と思ったら、動物病院を受診しましょう。
椎間板ヘルニアは、大きく頚部と腰部に分類されます。原因の場所以外にも症状の重さで分類を行い、これをグレード分類といったりします。
頚部椎間板ヘルニアのグレード分類は、次の3つに分けられます。
グレードⅠ:初発の頚部の痛みだけで、あしの感覚がなくなる・麻痺するなどの神経異常は見られない
グレードⅡ:再発性の頚部の痛みで、神経異常のないもの
グレードⅢ:頚部の痛みに加えて、神経異常が出ているもの
腰部椎間板ヘルニアのグレードは5つに分類されます。
グレードⅠ:背部の痛みのみで、あしに麻痺はなく歩ける状態
グレードⅡ:ふらつくが歩ける、麻痺が出ている状態
グレードⅢ:麻痺で歩行はできないが、自力で排尿は可能な状態
グレードⅣ:後ろあしが完全に麻痺して、自力での排尿ができない状態
グレードⅤ:骨に対して刺激を与えても痛みを感じなくなっている(深部痛覚の消失)状態
椎間板ヘルニアは、問診、神経学的検査や画像診断で判断していきます。
いつから症状が出始めたのか、きっかけがあるかなどを確認します。急に首や背中を痛がり出した場合はハンセンⅠ型が疑われ、ゆっくりと症状が進行している場合にはハンセンⅡ型を疑います。
神経には、刺激によって筋肉を動かしたり、痛みを脳に伝えたりする働きがあります。神経学的検査では、前あしと後ろあしをハンマーのような器具を使って軽く叩き、反応に異常がないかを確認します。
特定の部分を軽く叩くと筋肉が動き、椎間板ヘルニアが起こっていると筋肉の動きに変化が出ます。
ヘルニアの位置を確認するため、レントゲン検査、CT検査、MRI検査といった画像検査を行います。
椎間板ヘルニアの診断には、MRIを選択するのが一般的で、MRI検査では神経状態などを正確に観察できます。CTと組み合わせて検査をする場合もあります。
レントゲン検査だけで椎間板ヘルニアを診断することはほぼできません。しかし、レントゲン検査を行う病院は多いです。
これは、椎間板ヘルニア以外の病気が隠れていないかを確認するためです。椎間板ヘルニアに似た症状の別の病気の可能性もあるため、レントゲン検査で確認をする必要があります。
全身麻酔や鎮静を行った上で背中に造影剤を投与し、レントゲン検査で椎間板ヘルニアを診断する方法もあります。CTやMRIが普及する前に用いられていた検査で、CTやMRIの機器がない病院では、現在でもこの方法で診断を行うことがあります。
手術が必要な状況では必ず造影検査やCT、MRIの画像検査が必要です。しかし、初期の段階で内科治療による改善が期待できる場合は、画像検査を行わないこともあります。
椎間板ヘルニアの治療方法はグレードによって変わります。
グレードⅠで痛みだけの場合には、安静に過ごすとともにステロイド製剤や非ステロイド製剤といった消炎鎮痛薬を使用して内科的治療をするのが一般的です。
痛みが引くと犬は動きだしますが、薬の作用で痛みが和らいだだけで原因が取り除かれたわけではありません。ここで運動を開始すると痛みの再発や悪化の可能性があるため、安静に過ごすようにしましょう。
グレードが上がり内科的治療で改善が期待できない場合は、手術で脊髄を圧迫している椎間板物質を除去する治療が選択されます。
内科的治療か、外科的治療かは、グレードや経過によって変わるため、発症した直後ではどちらの治療で改善するかは判断できません。
例えば、グレードⅠの椎間板ヘルニアと診断された場合、内科的治療を行いますが、病気が進行してグレードが上がると、治療法を変えることがあります。
外科的治療が必要な状態では、神経ダメージが少なからず出ています。手術は、麻痺と痛みの原因物質を取り除き、脊髄にそれ以上のダメージが及ぶことを防ぐことが目的です。
ダメージを受けた神経の回復には長い時間を要します。ダメージが大きければ、残念ながら完全に回復しないこともあります。神経が回復するかは、時間をかけて観察しないとわかりません。
また、術後に歩けるようになるかどうかは神経のダメージだけでなく、どれだけしっかりとリハビリをできるかにもかかってきます。
椎間板ヘルニアは予防することが可能です。次のポイントを心がけましょう。
椎間板ヘルニアの予防で重要なことは、腰に負担をかけないようにすることです。
太り過ぎや肥満体型は犬の負担が大きく、椎間板ヘルニアを発症する原因となります。適度な運動を行い、体重をしっかり管理して太り過ぎにならないよう気をつけましょう。
階段の上り下りやジャンプなども負担になります。若くて元気がいい子であれば特に問題なくても、椎間板ヘルニアを経験している犬、ミニチュア・ダックスフンドなどの椎間板ヘルニアを起こしやすい犬種は、生活の中で注意が必要です。
階段や段差が負担にならないよう、段差の低いステップやスロープを設置し、腰への負担を減らしてあげましょう。
足を滑らせて腰を捻ったり、変な体勢になって腰に負担がかかったりすると、椎間板ヘルニアを発症することがあります。足の裏の毛が伸びていると滑りやすくなるため、定期的に毛刈りをすることも予防になります。
そのほかには、室内飼育でフローリングなど滑りやすい環境があれば、滑りにくいマットや絨毯(じゅうたん)を設置することも大切です。
椎間板ヘルニアの原因や症状について、知識が深められたでしょうか。椎間板ヘルニアは神経の病気のため、早期発見と早期治療が重要になります。
また、この病気は進行することがあるため、発見段階では内科的治療が選択されても、改善がなければ手術が必要になることもあります。その場合には手術だけでなく、その後のリハビリが非常に重要となります。
椎間板ヘルニアを疑うような症状があれば、動物病院を受診するようにしましょう。