犬と生活する上で、予防接種(ワクチン)をどう接種するかは必ず直面する問題です。調べてみても、人によって言っていることが違うので、どう接種すればよいか分かりにくいですよね。この記事では、どの種類のワクチンを接種すればいいのか、毎年接種してよいものなのか、なぜ予防接種に対する考え方が人によって違うのか、そして、ワクチンはどう接種すればよいかを解説します。
もくじ
犬のワクチンは大きく分けて狂犬病と混合ワクチンの2種類があり、種類によって接種頻度が異なります。
日本では、狂犬病ワクチンが年1回の接種となっています。これは、法律で決まっているので変えることはできません。飼い主さんの義務となっていますので、必ず毎年接種するようにしてください。
混合ワクチンも基本的には年1回の接種が推奨されていますが、条件によって接種ペースが変わる場合があります。そちらに関しての詳細は、また後ほど解説していきます。
どのワクチンをどのタイミングで打つかは、WSAVA(World Small Animal Veterinary Association:世界小動物獣医師会)が発行しているガイドラインに記されています。ワクチンのガイドラインは定期的に発行されており、それをもとに接種を行うことが推奨されています。
ガイドラインを読んでみたい方は以下を確認してみてください。
WSAVA「犬と猫のワクチネーションガイドライン」
これから書く内容は、ワクチンガイドラインに沿いつつ、日本の現在の状況も加味した内容です。
WSAVAのガイドラインは全世界に一律に作られているものです。また、あくまで推奨であり、拘束力があるものではありません。
国々によって感染の状況や医療レベルは異なるため、ワクチンをどう接種していくはかかりつけ医と相談して決めるようにしてください。
ワクチンの種類は、大きく分けて混合ワクチンと狂犬病ワクチンの2種類。さらに混合ワクチンは、予防できる病気によってコアワクチンとノンコアワクチンに分けられます。
狂犬病は、人も含め多くの哺乳類が感染する可能性のある、極めて怖い病気です。
基本的には狂犬病ウイルスに感染した動物に噛まれることで感染し、感染すると最終的には脳や神経系の症状を引き起こします。一度発症すると致死率はほぼ100%といわれています。
2022年時点で、日本で狂犬病は発生していませんが、世界では毎年5~6万人が狂犬病によって死亡しています。
いつ日本に入ってくるかわからないため、日本でもセーフティーネットを作り対策しておく必要があります。そのひとつが、狂犬病ワクチンの一律接種なのです。(くわしくは集団免疫の項に後述します)
狂犬病ワクチンは、年1回の接種が法律で義務付けられています。自分や家族、愛犬を守るためにも必ず毎年接種するようにしましょう。
混合ワクチンは、犬同士で感染する可能性のある伝染病を防ぐためのワクチンです。すべての伝染病を防げるわけではありませんが、昔世界的に猛威を振るったきわめて重要な感染症を防ぐことができます。
混合ワクチンは大きく分けて、コアワクチンとノンコアワクチンの2種類があります。
コアワクチンは、混合ワクチンの中でも特に重要な感染症を予防するためのもので、世界中の全ての犬が、決められた間隔で接種すべきとされています。犬のコアワクチンには、以下が定められています。
一方でノンコアワクチンは、感染する可能性があるなら接種する必要があるとされているワクチンです。地域の流行状況やライフスタイルに応じて、接種するか判断する必要があります。日本においては以下のワクチンが入ります。
混合ワクチンには5種、8種…などの種類があり、ワクチンの種類が変わることで、どれくらいの種類の病気を防げるかが変わります。
多くのメーカーが混合ワクチンを販売していますが、日本で使われているワクチンの種類は次のとおりです。
2種 | 3種 | 4種 | 5種 | 6種 | 7種 | 8種 | ||
コア | 犬ジステンバー | ● | ● | ● | ● | ● | ● |
● |
犬伝染性肝炎 | - | ● | ● | ● | ● | ● |
● |
|
犬アデノウイルス2型 | - | ● | ● | ● | ● | ● |
● |
|
犬バルボウイルス | ● | - | - | ● | ● | ● |
● |
|
ノンコア | 犬パラインフルエンザ | - | - | ● | ● | ● | ● |
● |
犬コロナウイルス | - | - | - | - | ● | - |
● |
|
犬レプトスピラ(Icterohaemorrhagiae) | - | - | - | - | - | ● |
● |
|
犬レプトスピラ(Canicola) | - | - | - | - | - | ● |
● |
犬レプトスピラにはさまざまな血清型の菌が存在し、血清型が異なると予防効果が不十分だといわれています。
8種以上の混合ワクチンは、レプトスピラの血清型が増えていく形になります。どの血清型が増えるかは、メーカーによって変わります。
最適なワクチンは、その子の病気の状況、住んでいる地域やライフスタイルなどで異なります。また、頻度も年1回が推奨される場合もあれば、3年に1回にするケースもあります。
いつ、どの種類のワクチンを接種するかは、かかりつけ医と相談して決めましょう。
年1回のワクチン接種が推奨されるのは、どのような時なのでしょうか。
最も身近に使う場面といえば、なんらかの施設を利用するときでしょう。たとえばペットホテル、トリミングサロン、ドックランなどでワクチン接種の証明書が必要な場合があります。
ワクチンを接種していない場合、利用を断られてしまうこともあります。
他にも、ノンコアワクチンも接種している場合は、年1回の接種が望ましいといわれています。
コアワクチンは数年に渡り強固な免疫を維持するとされていますが、ノンコアワクチンの免疫持続時間はそこまで長くありません。しっかりと免疫を維持するためには、高い頻度で接種した方がよいといわれています。
基本的に家から出ず、ほかの犬との交流もない場合は、数年に1回を検討することもあります。
ただし、家の中にいても感染症にかかるリスクはゼロではなく、感染症が命にかかわる可能性もあります。ワクチンの副反応と感染リスクを考慮し、かかりつけ医と相談して判断するようにしましょう。
コアワクチンは、きちんと定着すれば数年にわたり十分な免疫を保つといわれていますが、免疫をどれくらい持続できるかは個体差があります。
抗体検査を受ければ、今どのくらい免疫が機能しているかを調べることができます。抗体が十分に機能していれば、ワクチンの接種回数を減らせることもあるため、ワクチン接種の頻度を検討する際に活用してみてもよいでしょう。
ただし、ノンコアワクチンの抗体検査はまだまだ不十分といわれています。ノンコアワクチンはそもそも抗体の持続時間が短く、数値が高くとも必ずしも十分な免疫があるとはいいきれないからです。
ノンコアワクチンの予防効果を十分に得たいなら、最低でも年1回はワクチンを接種するようにしましょう。
ワクチンを接種する際は、次の3点に注意してください。
稀ではありますが、ワクチンの副作用が命に関わるケースもあります。ワクチンを接種した当日、特に最初の1時間はしっかり様子を見るようにしましょう。
午前中にワクチンを接種しておけば、異常に気がついたときすぐに対応してもらえます。
また、体調に問題がなかったとしても数日はシャンプー、トリミング、激しい運動を避けたほうが無難でしょう。
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日本で接種が義務付けられている狂犬病のワクチン接種率は、70.2%にとどまっています(令和2年度)。
混合ワクチンは法律で義務付けられてないため正式な調査データはありません。28%くらいしか接種していないとしているデータもあり、日本はほかの国と比較してワクチンの接種率が低いことが知られています。
いずれにせよ、狂犬病の接種率よりも低いと考えられ、集団免疫が働いておらず非常に危険な状況だといえるでしょう。
感染症に対して一定割合以上の犬が免疫をもっていれば、その感染症が流行しにくくなります。そして、ワクチンを接種していない犬も間接的に守ることにつながるのです。これを集団免疫といいます。
感染症の怖いところは、周囲の犬に次々とうつってしまい、どんどん感染者が増えていってしまうところにあります。しかし、シャルル・ニコルの法則によると、ワクチン接種率が75%を超えれば、流行を抑えられるといわれています。
残念ながら日本では、狂犬病もその他の感染症もワクチン接種率が75%を下回っており、集団免疫が働いていない可能性があります。
伴侶動物ワクチン懇話会の調査によると、動物病院の56.8%(猫では96.5%)が、混合ワクチンで防げる犬の感染症の「疑いがある」もしくは「確定診断をした」ことがわかっています※。
このように、日本には今でも感染症が多く発生しています。今の所全国的な大流行には至っていませんが、いつそのような状況におちいってもおかしくないのです。
※調査期間:2013年9月〜2015年8月、調査数:全国600名の獣医師
ワクチンの副作用は確かに怖いですが、感染症の流行も非常に怖い問題です。これらはあまり報道されないので実感として沸きにくいですが、実感以上に危険な状況であることは知っておいてください。
愛犬を含め日本の犬を守るためにも、適切なワクチン接種を心がけましょう。
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参考文献:
厚生労働省「都道府県別の犬の登録頭数と予防注射頭数等(平成26年度~令和2年度)」