細菌によって歯の周りの組織に炎症が起きる歯周病。自発的に歯磨きをする習慣のない犬や猫にとって、歯周病は身近な病気の一つです。 犬や猫が歯周病になってしまった場合、歯周病の治療はペット保険の補償対象となるのでしょうか。歯周病とペット保険の補償について解説するとともに、歯周病の種類や症状、予防法、おすすめのペット保険などを紹介します。
もくじ
人が歯周病を治療する場合には、健康保険制度を利用できますが、ペットには公的な保険制度がないため、治療費は飼い主さんの全額自己負担となります。
そこで気になるのは歯周病がペット保険の補償対象になるのかという点です。
結論からいうと、多くの保険で歯肉炎・歯周病・歯槽膿漏などの「傷病の治療を目的とした歯科治療」はペット保険の補償対象になりますが、病気になる前の歯石除去など「予防や美容を目的とした歯科治療」は補償の対象外となるのが一般的です。ただし、保険会社によっては歯科治療の補償条件や補償の有無は異なるため、加入前に確認が必要です。
人の場合、歯周病は高齢になるほどリスクが高くなる傾向にありますが、犬や猫の場合は年齢にかかわらず歯周病になりやすく、3歳以上であれば発症しやすいと言われています。また、基本的に犬や猫の歯周病の治療では全身麻酔を用いるため、治療費は高額になりがちです。
そのため、ペット保険に加入する際は、歯科治療が補償対象に含まれる保険を選んでおくと安心です。
ペット保険の補償とならない歯科治療には「予防や美容を目的とした歯科治療」の他に以下が挙げられます。
乳歯遺残とは、歯が生え変わる期間に乳歯が抜け落ちず、永久歯とともに乳歯が残ってしまう状態のことで、噛み合わせがうまくいかない不正咬合を併発しているケースも珍しくありません。
乳歯遺残や不正咬合は一般的には病気とはみなされないため、ペット保険の補償対象にはなりません。歯列矯正を含む美容整形手術についても同様です。
ただし、乳歯遺残が直接的な原因となった傷病に対して治療を行う場合は補償対象となることもあるため、ペット保険を選ぶ際には細かな条件を確認しておくことをおすすめします。
歯周病は、歯と歯茎の間にある溝に歯垢(プラーク)が蓄積し、その歯垢の中の細菌によって歯茎に炎症が起きたり、歯を支えている歯周組織が破壊されたりする病気です。
歯周病は進行すると歯が抜け落ちたり、顎の骨が影響を受け骨折や失明に至ることもあります。さらに、血管の中に細菌が入り込んで全身へ広がることで、心臓病や肝臓病、腎臓病などを引き起こす可能性もあります。
歯周病は進行すると命を脅かす危険性もある病気です。歯周病を発症・進行を抑えるためには日頃のケアが重要です。
歯周病は細菌によって引き起こされる歯周組織のさまざまな病気の総称で、症状の進行具合によって病気の呼び方が異なります。ここからは、歯周病の進行具合に沿ってそれぞれの状態を解説していきます。
歯と歯茎の間にある溝に歯垢(プラーク)が溜まり、歯垢の中に含まれる細菌が歯肉に侵入することで歯茎の肉(歯肉)に炎症が起こる状態が歯肉炎です。
歯肉炎になると歯肉の一部分や全体が赤みを帯びて腫れますが、多くの場合、抗炎症薬などの治療をおこなうことで治る可能性は高いと考えられます。しかし、歯垢を放置しておくと、歯垢は唾液中のカルシウムやリンを取り込み、歯石へと変化します。さらに、その上に新たな歯垢が溜まって歯石へと変化することを繰り返し、症状が進行していくのです。
歯肉炎が進行した状態が歯周炎です。この段階では、炎症が歯肉だけにとどまらず、歯を支えている歯槽骨(しそうこつ)やセメント質といった歯周組織にまで広がります。
歯周炎になると、歯と歯茎の間にある溝が深くなり、歯周ポケットと呼ばれる状態になります。歯周ポケットは歯周炎の進行とともに深さを増し、歯周ポケットに歯垢が入り込んだ歯垢は自然に取れることはないため、ブラッシングによる除去が必要です。しかし、歯周炎は歯肉炎のように治療による完治が難しいといわれています。
米国獣医歯科学会(American Veterinary Dental Association)の研究結果では、3歳以上の犬の80%、猫の70%が歯肉疾患を発症するともいわれており、この研究結果からもペットの歯周病の早期発見が難しいことがうかがえます。
顎の骨には歯の根がはまり込む穴がありますが、この穴を歯槽骨といい、歯槽骨と歯の間でクッションのような役割をしている組織を歯槽膜といいます。歯槽膜は歯を噛み合わせたときの衝撃を和らげたり、歯と顎の骨とを密着させたりする役割を持つものです。
歯周炎が進行すると、この歯槽膜に細菌によって膿が発生し、歯と歯肉の間から膿が漏れ出すようになります。この状態が歯槽膿漏(しそうのうろう)です。進行とともに歯肉は炎症を起こしたままやせ細り、さらに歯周ポケットの深さが増してしまうのです。
歯根膿瘍(しこんのうよう)・根尖膿瘍(こんせんのうよう)とは、歯の最も深い部分やその周辺が細菌感染を起こし、膿が溜まったり腫れたりする状態です。歯根膿瘍(根尖膿瘍)になると、歯の痛みや違和感を覚えるようになり、ドライフードが食べられない、おもちゃで遊ばない、歯磨きを嫌がるなどの症状がみられます。
歯周病は歯茎の周りだけではなく、歯茎の周り以外の部分にもさまざまな症状を引き起こすことがあります。ここからは、その中でも特によくみられる症状を見ていきましょう。
鼻炎とは鼻の粘膜に炎症が起こった状態のことです。慢性的なくしゃみや鼻水、鼻からの出血といった症状が見られます。
鼻と歯は関係ないように思う方もいるでしょうが、そのようなことはありません。歯周病による炎症が鼻腔にまで広がると、鼻炎を引き起こすことがあるのです。このような状態を口腔鼻腔瘻(こうくうびくうろう)といいます。
歯周病の初期段階では、目に見える症状はありません。そのため、飼い主さんが異変に気づいたときには、歯周病の症状が進行してしまっているケースが多いです。
ここからは、歯周病の症状として多くみられるものを紹介します。
歯周病が進行すると、歯周ポケットの中に食べ物のカスや膿、細菌の住処となる歯垢が溜まるため、口臭が強くなります。
卵の腐ったようなニオイや、キャベツが腐ったようなニオイ、魚の腐敗臭のようなニオイ、ツンとくるようなニオイなどさまざまです。歯周病が重度になると同じ空間にニオイが充満するほどにまでニオイが強くなることもあります。
なお、口臭が強くなる症状は、歯周病だけではなく口腔内に腫瘍ができた場合や、肝臓や腎臓といった内臓系の病気でもみられることがあります。いずれにせよ、口臭が強いと感じた場合には早めに病院を受診することをおすすめします。
歯茎の赤みや腫れは歯周病の初期段階からみられる症状です。歯周病が進行すると赤みや腫れも増す傾向があります。健康な歯茎はハムやソーセージのような明るいピンク色をしていますが、炎症が起こっていると梅干や熟れたトマトのような濃い赤色になります。
ただし、歯茎の赤みや腫れは正常な状態との見分けがつきにくい場合も多いものです。犬の場合は口の中に違和感があると口の周りを頻繁に触ったり、地面などに顔を擦りつけたりするなどの行動をとることもあるため、歯茎の赤みや腫れだけではなく、行動にも注意をしておくとよいでしょう。
歯茎の赤みや腫れに加え、歯茎からの出血も歯周病に多くみられる症状です。歯周組織の炎症が慢性化すると、ちょっとしたことでも出血が起こるようになり、重度の歯周病では出血量は増えたり、膿が混じったりすることもあります。
遊んでいたおもちゃに血がついている、歯ブラシをすると出血があるといった場合には注意が必要です。早めに病院を受診しましょう。
歯がぐらぐらとし、抜けやすい状態になっている場合は、歯周病の可能性が高いといえます。これは、歯周ポケットの深さが増したり、歯槽骨が溶けることで歯がぐらつきやすくなるためです。
重度の歯周病では、舌を出し入れするだけで歯がぐらつき、歯に何かが触れただけで歯が抜け落ちてしまうことも。さらに、歯が抜けるだけではなく歯槽骨が溶けることで顎の骨ももろくなり、歯周病が原因で顎の骨を骨折することもあります。
歯槽膿漏(しそうのうろ)や歯根膿瘍(根尖膿瘍)まで症状が進行すると、歯茎や眼の下、頬のあたりから血の混じった膿が出る場合があります。
眼の下や頬から膿が出るのは、顔に傷がついたのではなく歯周病が進行し、歯根にまで感染が広がるためです。頬の下あたりには奥歯の中でも最も大きな第四前臼歯と呼ばれる歯があり、この歯根と頬の距離が近いことで頬から膿が出やすい状態になり、眼窩下膿瘍(がんかかのうよう)とも呼ばれる症状が起ります。
歯周病はすべての犬種に起こる可能性がある病気ですが、ミニチュア・ダックスフンドやトイ・プードル、イタリアン・グレーハウンドなどの顎の細い犬種や、大型犬よりも小型犬の方が歯周病になりやすいと考えられています。
理由としては、小型犬や顎の細い犬種は、体の大きさに対して歯が大きく、さらに歯が密集しているため、食べカスが歯と歯の間に残りやすいためです。また、体の大きさに対して一度に飲める水の量や唾液の量が少なく、食べカスが洗い流されにくいといったことも考えられます。
ただし、これはあくまでも傾向であり、犬種や体のサイズを問わず注意が必要です。
歯周病は放置しておくと悪化の一途をたどる進行性の病気です。また、歯周組織は一度破壊されてしまうといくら治療をしても完全に元の状態に戻ることがないため、早期発見・早期治療が重要です。
歯周病の治療法と、どれくらいの治療費が発生するのかについて解説します。
歯周病の治療方法は大きく次の3つに分けることができます。
それぞれの治療方法について解説します。
歯周組織の破壊が軽度な歯肉炎の段階であれば、歯垢や歯石の除去による治療が可能です。歯垢や歯石の除去は無麻酔で行われることもありますが、歯周病の治療を目的とする場合は全身麻酔をするのが一般的です。
全身麻酔による治療では歯根の状態を確認するために、レントゲン検査、超音波スケラーやハンドスケラー、キュレットなどと呼ばれる器具で歯垢や歯石の除去や歯周ポケット内の洗浄を行います。さらに、歯石が再び付着することを防ぐために、ポリッシングブラシやラバーカップと呼ばれる器具で歯の表面を磨いてなめらかにします。
高齢犬や持病がある場合には全身麻酔が使えないこともあります。
全身麻酔が使えない場合や軽度の歯肉炎の場合は、投薬により炎症を抑えることも可能です。処置後の痛みを抑えたり、進行予防のために投薬を行うこともあります。
使用する薬は、飲み薬のほか直接患部に塗布するものがあり、歯周病治療専用のインターフェロン製剤や抗生物質、痛み止めなど種類もさまざまです。
内科的治療についてはあくまでも症状の緩和や予防です。根本的な治療をし、再発を防ぐためには全身麻酔を用いた治療が必要になります。
歯周病が進行し、レントゲン検査の結果や、歯の状態から歯を温存することが難しいと判断された場合には抜歯を行います。抜歯により開いた穴をふさぐための処置を行うこともあります。
上顎に生えている犬歯を抜くケースでは、歯周病によって口と鼻とを隔てている骨が溶け、口鼻瘻管(こうびろうかん)と呼ばれる穴が空いていることも少なくありません。この状態になると鼻炎のような症状がみられることが多く、症状が悪化すると肺炎を招く恐れもあるため、口鼻瘻管をふさぐなどの適切な処置が必要です。
基本的に犬は人のように食事の際に咀嚼を必要としません。そのため、仮に抜歯をしても、入れ歯やフードを大幅に変えることはほとんどありません。
歯周病の治療では、歯垢や歯石の除去であっても基本的に全身麻酔が必要となります。
ここでは、犬と猫、それぞれの歯周病の治療費の事例を紹介します。(ペット&ファミリー損保の請求事例より)
数カ月前に歯槽膿漏の手術を行ったものの、再度手術を行うことになりました。入院はせず、日帰りにて手術を行いました。
通院1日間、手術あり
治療費 | 25万3,660円 |
ペット&ファミリー損保のペット保険、「げんきナンバーわんスリム プラン70」に加入していた場合、自己負担額例は以下の通りです。
お支払い保険金 | 17万4,062円 |
自己負担額 | 7万9,598円 |
歯肉炎の治療のため1日間通院し、内服薬などの処方を受けました。
通院1日間
治療費 | 1万7,600円 |
ペット&ファミリー損保のペット保険、「げんきナンバーわんスリム プラン70」に加入していた場合、自己負担額例は以下の通りです。
お支払い保険金 | 8,820円 |
自己負担額 | 8,780円 |
歯肉炎の治療のため1日間通院し、全身麻酔にて処置を受けました。
通院1日間
治療費 | 3万7,070円 |
ペット&ファミリー損保のペット保険、「げんきナンバーわんスリム プラン70」に加入していた場合、自己負担額例は以下の通りです。
お支払い保険金 | 2万2,449円 |
自己負担額 | 1万4,621円 |
歯周病の予防には日々のデンタルケアが効果的です。ペットのデンタルケアは人と同じようにはいかないことも多いですが、できることから根気よく続けることが大切です。
ここからは、犬と猫の歯周病の予防対策を紹介します。
犬も猫も人と同じで、歯垢を取り除くためには歯ブラシを使って歯を磨くことが必要です。
しかし、犬の場合も猫の場合も、特に成犬・成猫になってからでは口を触られることに慣れておらず、怖がったり、怒ったりすることがあります。まずは口の周りに触れることから始め、次は歯を触る、その次は歯ブラシを口に入れる…といったように、週単位、月単位でのスモールステップで進めていきましょう。
歯磨きの習慣化は子犬や子猫のうちから始めた方が慣れるまでの時間が短くなる傾向がありますが、成犬・成猫になってからでも不可能ではありません。歯ブラシを嫌いにならないように注意しながら、焦らず根気よく取り組みましょう。
嫌がったり怒ったりする場合、噛まれる可能性もあるため、無理に進めてはいけません。また、歯石はブラッシングでは除去できないため、歯石がついている場合は、まず動物病院で歯石を除去することをおすすめします。
歯磨きをどうしても嫌がる場合には、歯磨きガムや歯磨き用のおやつ、口内環境を整えるサプリメントなどを与えてみるのも一つの手です。
犬も猫も、口の中が乾燥すると菌が繁殖しやすくなるため、これらのグッズによっては唾液の分泌を促すことで菌の繁殖を低減させることが期待できます。
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犬に多い病気・ケガ | 猫に多い病気・ケガ |
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※ 保険金のお支払い対象とならない治療費がありますので、詳しくは、「補償内容ページ」「お支払い事例ページ」「重要事項説明書」等をご覧ください。
※今後の商品改定等により、保険料が変更となる場合があります。
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歯周病の初期段階は飼い主さんも気づくことが難しく、症状が進行すると他の病気を併発してしまう可能性があります。口臭や歯茎の色など日々の体調の変化をチェックするほか、根気よく歯磨き習慣をつけることを目指しましょう。
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