DC one dish獣医師/ペット栄養管理士の岩切です。犬猫に手作り食をしてあげたいと考える飼い主さんが増え、手作り食に関するさまざまな情報が飛び交うようになりました。犬猫は、総合栄養食やAAFCOの基準に沿った食事を摂ることで、栄養の過不足なく健康な食生活を送れます。手作り食をあげる際も、飼い主さんは正しい情報を入手し、犬猫にとって栄養の過不足がないように食事を与えましょう。 前回の記事:【獣医師監修】市販フードにトッピングをする際に気を付けたい食材~きのこ類・豆類・生モノ・乳製品編~|vol.13
もくじ
手作り食とは、愛犬・愛猫のためにお家のキッチンで調理をした食事のこと。手作り食のメリットは大きく3つあります。
手作り食の場合、飼い主さんが自分で食材を選び、愛犬・愛猫に与えることが可能です。
人の場合、食品表示のルールは次のように定められています。
しかし、一般的なペットフードでは、名称が省略表示されていたり、必ずしも多い順番に原材料が書かれていなかったりします。
例)亜鉛:グルコン酸亜鉛、硫酸亜鉛、炭酸亜鉛、アミノ酸キレート亜鉛、ペプチド亜鉛など、亜鉛と言っても様々な形態があります。
また、市販のペットフードの多くは原材料が細かく粉砕され、すべてが単一の茶色になっています。そのため、実際にどのような原材料が使用されているかは、製品の見た目から判断することができません。
このように、市販フードでは消費者が正確に把握することのできない原材料や添加物の懸念を、手作り食は払拭することができます。
調理工程がはっきりわかることで、アレルギーのような病気のリスクを回避することも可能です。
市販フードは、同じ工場、同じ機械で何種類もの製品を製造しているため、コンタミネーション(他の原材料が混ざる)を避けることはかなり難しいです。実際、コンタミネーションはいくつも報告されています。
アレルギーなどの病気で食事制限がある犬や猫の場合、コンタミネーションは病気のコントロールが難しくなる要因になります。手作り食なら、飼い主さんの管理下で排除すべき食材を管理することができます。
人の食事に興味を示す犬や猫が多いように、手作り食は、香りや味がよく、市販フードよりも好んで食べてくれることが多いです。
ただし、人の食材に全く興味を示さない子もいます。手作り食を実践する前に、人の食材に興味を示すか確認することをおすすめします。
手作り食のデメリットとして、犬や猫が必要とする栄養を過不足なく与えることが難しい点が挙げられます。
過去には、味噌汁をご飯にかけただけの「ねこまんま」と呼ばれるようなものを与えていた時代もありました。しかし、犬や猫は必要とする栄養の要求量が多く、人の料理の感覚で調理をすると栄養素の過剰や欠乏により健康被害を引き起こすことがあります。
また、現時点においてインターネット上で無料公開されているレシピや書籍に記載のあるレシピで、主食として推奨される総合栄養食やAAFCOの基準に則っているものはほとんどないでしょう。
手作り食の情報は、インターネット、書籍と数多くあります。しかし、主食として与えてもよい栄養価の手作り食の情報は極めて少ないため、何をもとにして食事を作るかが非常に大切です。
手作り食であろうと、市販のドライフードやウェットフードであろうと、食べるのは犬や猫たちです。「手作り食だから市販の食事よりも栄養の過不足があっていい」ということはありません。
「簡単」「おしゃれ」「ひとつの栄養素を取り上げて体によい」といった情報に惑わされないようにしましょう。
栄養バランスを無視した手作り食により、愛犬・愛猫の健康が大きく左右される場合もあります。専門家が発信していたり、よい内容に思えたりするものでも、次の点を必ず精査してください。
体の小さな犬や猫にとっては、油が1g違うだけでもカロリーが大きく異なります。次のような曖昧な表現で、犬や猫の必要な栄養価を満たすことはないと言えます。
計量は手作り食の基本です。計量工程がない、または曖昧なレシピを主食とするのは避けましょう。
栄養要求量の高い犬や猫において、サプリメントを足さずにAAFCOや総合栄養食の基準をクリア、またはそれに近い状態にもっていくことは難しいでしょう。
AAFCOや総合栄養食の栄養基準は公開されています。乾燥重量や、カロリーあたりの栄養素を比較し、基準を満たしているかどうか確認してみましょう。
日本にある一般的な食材のデータは、文部科学省が食品成分データベースとしてインターネット上に公開しています。大変ではありますが、飼い主さんが計算し、栄養基準と比較してみるのが一番安心です。
前述のとおり、食材のみで総合栄養食やAAFCO基準を満たすことは非常に難しいです。サプリメントなども活用し、ビタミンやミネラルを追加してあげましょう。
特にカルシウム、リン、亜鉛は手作り食で非常に不足しがちな栄養素。ちまたに公開されているレシピのほとんどが、栄養基準を満たしていません。総合栄養食やAAFCOの基準と適合しているか確認する際は、こういった栄養素から計算してみるとよいかもしれません。
「生肉は酵素が豊富で体によい」「下痢はデトックス」といった情報も見受けられますが、科学的な根拠はありません。消化吸収がよい食事を摂れば、便量、排便回数が減る傾向があります。
また、栄養計算せずに手作り食を調理する場合、飼い主さんが脂質過剰を気にする傾向があります。しかし、極端に脂質が低く必須脂肪酸が不足すると、皮膚被毛の状態にも影響します。逆に、油を計量せず大量に与えると、犬の場合は膵炎を起こして嘔吐・下痢につながることもあります。
栄養素の不足や過剰は、1日2日で大きな悪影響を引き起こすことは少なく、数か月、数年単位で体に悪影響を及ぼしていきます。そのため、食事が原因だと特定することが難しいこともしばしばあります。
これから手作り食を始める人は、正しい知識で正しいレシピを選択し、現在手作り食を与えている飼い主さんは、今の食事が本当に安心できるものなのかを振り返ってみてください。
なお、健康上、特別な理由がないのであれば普段のフードにトッピングを加えるほうが取り入れやすいです。大きく栄養バランスを崩すことがないよう、トッピングは1日の摂取カロリーの10%程度に留め、愛犬・愛猫のために、安心安全な食生活をしていきましょう。