猫は腎臓病になりやすい生き物です。高齢になってくると多くの猫は、腎臓機能が衰えてきます。腎臓はどのような機能を持つのか。猫が腎臓病になる原因や症状、治療方法があるのか、国際的な慢性腎臓病の基準に沿って簡単に解説します。
もくじ
腎臓には多くの機能があります。主なものを挙げてみましょう。
腎臓は、体にとって不要な老廃物を尿として体の外へ排泄する機能を主な役割としています。
腎臓は、血液から不要な老廃物をろ過して原尿を作り、そこから必要なものを再吸収して体に戻したり、さらに不要なものを分泌したりすることで尿を作ります。作られた原尿の99%程度が再吸収され、最終的に尿として排泄されるのは1%程度です。
さまざまなホルモンの影響を受け、浸透圧を維持したり、血液などの体液量を調整したりすることも腎臓の機能のひとつです。
血圧や体液量を司るホルモンの分泌や、血液を作るホルモンであるエリスロポエチンを分泌します。
動物の体は、腎臓によって狭いpHの範囲で、イオンのバランスが調整されることで、正常な機能を保っています。
腎臓でカルシウム・リンの調節をするビタミンDが活性化され、機能を発揮します。ビタミンDは消化管からカルシウム・リンの吸収を促進し、腎臓からは、カルシウムの再吸収を促進します。
「腎臓病」は腎臓の機能が低下したことを指し、原因まで言及をしていません。
そのため、腎臓病といっても、単に加齢により機能が低下している場合もあれば、免疫が関与する病気や、先天的な腎臓の奇形、結石、中毒など、さまざまな原因があります。
よく耳にする慢性腎臓病(CKD)は、一般的に3か月以上腎臓の機能が低下していることを指します。
以前は慢性腎不全と呼ばれていましたが、「不全」とはダメージを負って体をうまく維持できない破綻した状態を指すことから、より早期に発見するために慢性腎臓病と呼ぶようになりました。
中毒などによって急に腎臓に障害をうけることを急性腎障害(AKI)とよび、これは、その後、腎臓自体に変化をもたらし破綻した状態である急性腎不全(ARF)へ移行しないように提唱された概念です。
ユリやブドウ、エチレングリコールなどの腎毒性のある物質の摂取や脱水、心不全、尿閉などで急性腎障害を引き起こします。食欲不振、嘔吐、下痢、神経症状などの症状で発見される場合も多いです。
腎臓病の種類は多岐にわたり、その原因を探り、必要な治療をみつけるためにさまざまな検査を行います。
腎臓の異常を数値で表します。
腎臓の形の異常を判断します。
腎臓の中の構造の異常を見つけます。
尿の濃い薄い(尿比重)やタンパクが漏れていないかなどを検査します。
腎臓に負担のかかる血圧になっていないかを測定します。
腎臓の組織を直接針でとってくることで、実際に腎臓で何が起こっているのかを診断します。
国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS)という団体が慢性腎臓病のガイドラインを公表しており、一般的に慢性腎臓病の場合はガイドラインに応じて診断、治療されます。
このガイドラインでは、慢性腎臓病を1~4のステージに分け説明がされています。
このステージ分類は、クレアチニンと呼ばれる血液検査の数値をメインとし、他にSDMA(対称性ジメチルアルギニン)、UPC(尿蛋白クレアチニン比)、血圧を加味して決定されます。
特に症状はありません。血液検査や尿検査で発見できることがあります。
症状がないまたは、軽度な症状(多飲多尿)です。しかし、この時すでに残された腎臓の機能は1/3を切っています。
毛づやの悪化、食欲不振、嘔吐、下痢など
腎臓の残された機能は10%を切っており、集中治療が必要な状態です。貧血や痙攣等を引き起こすなど、命に係わる状態です。
参照:国際獣医腎臓病研究グループ(IRIS) 「IRIS Staging of CKD (modified 2019)」(2022/3/公開日)
腎臓病は症状が出たときには、腎臓の機能は1/3以下しか残されていません。そのため、猫の腎臓病の予防方法は定期的な健康診断を受けることになります。成猫で年に1回、シニアになったら年に2回、症状がなくても定期的な健康診断で行うようにしましょう。
早期に発見し、状態に応じた腎臓に対するサポートを早く始めましょう。また、日頃から、体重測定や、飲水量の確認、尿の量や濃さの確認をして、少しでも異変があったら動物病院を受診することが大切です。
腎臓は、治療によって機能が元に戻ることがない臓器です。そのため、今ある機能をうまく活用し、病気を進行させないことが重要なポイントとなります。
リンやタンパク質が制限された、一般的に腎臓療法食と呼ばれる食事を与えることになります。早期にこの食事を与えたからといって、早いうちから効果を示すということはありません。
まれに、予防目的でこのような療法食を与える飼い主さんもいますが、予防効果はなくむしろ、早すぎるリンやタンパク制限はよくないといわれているため、獣医師の診断による適切なタイミングで食事療法を開始する必要があります。
血管拡張薬は、腎臓病を悪化させる要因のひとつであるタンパク尿を抑える効果、血圧を下げることで腎臓の負担をとる効果があります。
血管拡張薬にはさまざまな薬の種類、剤形、味があるため、病気の状態や、投薬のしやすさなどを考え、獣医師が薬の種類を選択します。
活性炭は、尿毒素物質を腸の中で吸着し、便として排泄することで尿毒症を防ぎます。サプリメントなどでも販売されていますが、医薬品と効果が異なることがあるため、注意が必要です。
また、リンを吸着して便に捨てるリン吸着剤を使用することも多いです。
定期的に背中に点滴液を入れることで脱水を改善し、腎臓の機能をサポートします。症状が重くになるにつれ点滴回数が増えることが一般的で、末期の状態になると毎日点滴をせざるを得ない状況になることもあります。
腎機能が衰えてくると、腎臓から血液を作れというホルモン「エリスロポエチン」が作られなくなり、腎性貧血を引き起こすことがあります。このホルモンの代わりを注射することで、造血を促します。
腎臓病は、付き合っていく期間が長くなることが多い病気です。健康な時から、定期的な健康診断で備えておきましょう。