DC one dish獣医師の成田有輝です。犬や猫にとっても、炭水化物はタンパク質、脂質と並ぶ三大栄養素です。エネルギー源として利用される炭水化物は、人でも犬や猫でも「太りやすい」という印象から悪者扱いをされることが多々あります。しかし、本当に体に悪いものなのでしょうか。炭水化物とは何か、どのような役割があるのかを知り、適切に炭水化物を与えましょう。 前回の記事:【獣医師監修】犬猫の食事に欠かせない栄養素!知っておきたい脂質の基礎知識| vol.8
もくじ
炭水化物は、米やパンなどに多く含まれるエネルギー源のこと。古くは、炭素、酸素、水素のみから成るものを指していましたが、今では食物繊維やオリゴ糖、二糖類、単糖類、糖アルコール、酸なども含めた総称となっています。
「低糖質ダイエット」「炭水化物抜きダイエット」といった言葉の流行により、「炭水化物は太る」「炭水化物=悪者」のイメージをもつ方も多いかと思います。
しかし、炭水化物にはさまざまな形が存在し、お腹の調子を整えたり、有益な腸内細菌を増やしたりするなど犬や猫の健康に役立っているものもあります。
人の食品の場合、炭水化物は以下のように分類されるのが一般的です。差はありますが、犬や猫の体内でも同様の働きをしています。
食物繊維は、不溶性食物繊維、水溶性食物繊維に分けることができます。
便のカサを増やし、腸を刺激し、ぜんどう運動(おなかの動き)を促します。さらに、大腸によいとされる乳酸菌やビフィズス菌といった善玉菌のエサ(発酵)となり、お腹の調子を整える効果があるものもあります。
以下のものに含まれています。
コレステロールの吸収を抑えたり、血糖値の上昇を穏やかにしたりする作用があります。水溶性食物繊維は不溶性食物繊維よりも、腸内細菌による発酵の影響を受けやすく、腸内環境の改善に利用されることもあります。
以下のものに多く含まれています。
近年、水溶性食物繊維は分析試験法の原理により、高分子水溶性食物繊維(例:果物に含まれるペクチンなど)と低分子水溶性食物繊維(例:トクホの成分である難消化性デキストリンなど)に分けられ、より細かい分類がされるようになってきました。
糖質は、炭水化物から食物繊維を抜いたものを指します。
糖類は、糖質に含まれ、単糖類(ブドウ糖、果糖)、二糖類(砂糖、乳糖、麦芽糖)のみを指します。
単糖がつながってできたものをオリゴ糖と呼びます。単糖が2つつながった二糖類も仲間ではありますが、3~10個程度の単糖がつながったものをオリゴ糖と呼ぶのが一般的です。
オリゴ糖は、体に有益な腸内細菌の増殖を助けます。健康によい効果があると知られていることから、「プレバイオティクス」のひとつとされています。
体に有益な働きをもつ菌のことです。生きた菌が含まれるヨーグルトや納豆などが、プロバイオティクス食品として知られています。
また、プロバイオティクスとプレバイオティクスを組み合わせたものをシンバイオティクスと呼び、体に良い菌とその栄養源を同時に摂取することで、腸内環境により効果的に働きかけます。
オリゴ糖は糖質ではあるものの、糖類ではありません。体にプラスに働く糖質もあることを知っておくとよいでしょう。
ソルビトール、エリスリトール、キシリトールなどが分類されます。甘味があるものが多く、腸からの吸収が悪くカロリーになりにくかったり、普通の砂糖と比べ血糖値の上昇が小さかったりします。
化学合成されたものもあれば、キノコや藻類に含まれている天然に存在するものもあります。
※キシリトールは、低血糖を起こすため、犬や猫に与えないようにしましょう。
ペットフードのパッケージを見ると、水分、タンパク質、脂質、粗繊維、灰分(ミネラルを指す)の記載はあっても、「炭水化物」と表記のあるフードはまずありません。
これは、人の食品で一般的に使われている炭水化物を糖質と食物繊維にわける分類とは異なる分析方法が採用されているからです。
ペットフードの場合は、100から水分、タンパク質、脂質、粗繊維、灰分を引いた残りのものを可溶性無窒素物(NFE)とよび、可溶性無窒素物と粗繊維を合わせたものが、炭水化物に該当します。
※粗繊維:セルロース(不溶性食物繊維)が主成分で、人の食物繊維とは大きく異なります。
「犬の祖先は肉食のオオカミで、猫は肉食動物であるため炭水化物は本来不要である」
「パッケージの原材料表記の最初に炭水化物の記載があるペットフードは質が良くない」
と論じられる場合もありますが、そんなことは全くありません。
総合栄養食やAAFCOの基準には、炭水化物の基準が設けられておらず、炭水化物抜きでもこれらの基準をクリアすることができます。総合栄養食やAFFCOは最低限守るべき基準のため、タンパク質や脂質量が極端に高いフードがあるのも事実です。
しかし、そういったフードを与えていると、病気になったときに食事の切り替えが困難になったり、下痢や嘔吐などの消化器症状が出たりすることがあります。
炭水化物は一見必要のない栄養素にも見えますが、犬も猫も一定の炭水化物を消化する機能を持っており、健康を維持するためには適量の摂取が必要なのです。
健康な状態の犬猫には、炭水化物の重要性が論じられることはあまりありませんが、病気になると話は変わります。
例えば、タンパク質摂取に制限がかかる腎臓病では、カロリーを摂取するためには、脂質か炭水化物(糖質)でエネルギーを摂取しなければなりません。
しかし、普段から炭水化物は不要だからと極めて高タンパクな食事をしていた場合、病気になった際に食事の切り替えがうまくできず病気のコントロールが難しくなる場合もあります。
人の食事とは異なり1食1食が安定的な栄養価である犬猫の食事では、体にとって有益な効果をもたらす栄養素でもある炭水化物を悪者にせず適切な量を与えるようにしたいですね。
今回で食事の三大栄養素、タンパク質、脂質、炭水化物の解説が終わりましたがいかがでしょうか。栄養素への理解が深まれば嬉しく思います。次回は「生肉の与え方」について深掘りしていきます。