【獣医師監修】犬や猫に生肉は与えないで!犬や猫に肉を与えるときの注意点|連載「獣医さんが教える愛犬・愛猫のごはんのキホン」vol.10
2022.05.18 作成

【獣医師監修】犬や猫に生肉は与えないで!犬や猫に肉を与えるときの注意点|連載「獣医さんが教える愛犬・愛猫のごはんのキホン」vol.10

獣医師/ペット栄養管理士

岩切裕布

岩切裕布

DC one dish獣医師/ペット栄養管理士の岩切裕布です。犬猫に生肉を与えることが一時期ブームになったようですが、犬や猫に生肉を与えるのは、人が生肉を食べるのと同等以上にリスクがあります。犬猫と暮らすうえで、犬猫たちに安全で、栄養価が整った食事を提供することは非常に重要なことです。正しい知識でお肉を与え、犬や猫の健康を守りましょう。

前回の記事:【獣医師監修】犬猫の食事に欠かせない栄養素!知っておきたい炭水化物の基礎知識Vol.9

もくじ

    生肉のウソ、ホント

    【獣医師監修】犬や猫に生肉は与えないで!犬や猫に肉を与えるときの注意点|連載「獣医さんが教える愛犬・愛猫のごはんのキホン」vol.10
    (Zontica/shutterstock)

    犬や猫の食事は、人の食と同様に与える人の考えや感覚、趣味嗜好によって大きく左右されてしまうことがあります。インターネット上では、さまざまな情報が飛び交い、それが本当かどうか、判断がつかないこともあるでしょう。

    生肉についてよく目にする「メリット」について、解説していきます。

    生肉には栄養がたくさん?

    肉を加熱することにより、栄養素が減少することは少なからずあります。焼いた肉汁やゆで汁に栄養が流れ出ていくため、生肉のほうが栄養価は高い傾向があります。

    しかし、生肉と加熱調理後の肉を同じ量だけ摂取した場合、調理後のほうが脂質は下がるというメリットがあります。

    また、加熱調理で流れ出にくい栄養素の場合、加熱することで栄養素濃度が高まるため、一概に生肉のほうが栄養豊富でよいといえるわけではありません。

    また、総合栄養食やAAFCOの基準にのっとったフードは、水とそのフードのみで健康を保てるよう、製造工程で栄養素の損失などを加味した栄養基準となっています。そういったフードを与えている場合は、生肉で栄養を補う必要はありません。

    生肉は酵素がたくさん?

    生卵を茹でると硬くなるように、加熱によってタンパク質は変性して形が変わります。タンパク質は、その構造を維持できないと効果を発揮できません。酵素も同じタンパク質のため、加熱などで構造が変わると失活(効果を失う)します。

    生肉には生きた酵素が含まれているので体によいという話をよく聞きますが、口から入った食べ物は消化液によって消化され、構造が変わり、アミノ酸の状態になってから体内に吸収されます。

    つまり、酵素を口から摂取したとしても、構造を変えずに体の中に入り、効果を示すとは科学的に証明されていないのです。

    犬の祖先は生肉を食べているから、生肉がよい?

    インターネット上には、「犬の祖先はオオカミだったため、犬も生肉を好む」といった、オオカミと犬の食性を関連づけた記述が見られます。しかし、犬は人との暮らしの中で雑食に進化しました。

    人の祖先は猿ですが、現代社会において人と猿の食性を比較するのは無理がありますよね。

    また、「猫は肉食だから生肉もよいのではないか」と思う方もいるかもしれませんが、肉だけを食べて、猫の必要な栄養バランスが整うことは絶対にありません。

    「昔は生肉を食べていたからもっと長生きだった」という記述も見受けられますが、栄養バランスが整った食事を食べ、昔よりも進歩、充実した医療を受けられる現代のほうが長生きできるのはいうまでもありません。

     

    なぜ生肉を与えてはいけないのか

    なぜ生肉を与えてはいけないのか
    (Zontica/shutterstock)

    犬猫に生肉を与えるメリットが少ないためではなく、明確に生肉を与えてはいけない理由があります。

    寄生虫・細菌・ウイルスに感染する

    人がなぜ肉に火を通して食べるかというと、肉の中に潜む寄生虫や細菌などをやっつけるためです。

    有名なところでいうと、鶏肉にはカンピロバクター菌が、豚肉にはサルモネラ菌やE型肝炎ウイルスが潜んでおり、ジビエ肉で有名な鹿肉は寄生虫の一種である住肉胞子虫(じゅうにくほうしちゅう)が高確率で感染しています。

    犬や猫も同様で、生肉を与えると多くの病原体に感染する可能性があります。生肉を与えてお腹を下すといった不調は、「デトックス」でも「好転反応」でもなく、「体調不良」です。

    食中毒の可能性があるので、すぐに動物病院を受診してください。

    人の食品との違い

    人の食品は、食品衛生法などの厳しい基準をクリアして販売されています。しかし、犬猫用に販売される肉については、法的な縛りが一切ありません。

    衛生面上、人の食品として販売できないものが、犬猫用になっていることもあるため、人の食品と同じように考えてはいけません。

    人への汚染や、薬剤耐性菌の獲得の可能性

    生肉を食べることにより、肉になる前の動物が持っていた病原体をそのまま摂取する可能性もあります。

    薬が効かない菌(薬剤耐性菌)への感染が成立してしまうと、犬や猫が病気になってもほとんどの薬(抗生剤)が効かず、最悪の事態を招くこともあります。

    また、病原菌が犬猫から排泄されることによって、飼い主さんや診察をする獣医師や動物看護士さんにも感染リスクがあることが知られています。

     

    もし犬猫が生肉をたべてしまったら、正しい肉の与え方

    もし犬猫が生肉をたべてしまったら、正しい肉の与え方
    (Joshua Resnick/shutterstock)

    犬猫が生肉をたべてしまったら

    生肉を食べたからといって、「絶対に病気になる」「体調が悪くなる」ということではないため、慌てる必要はありません。生肉を食べた後は注意深く観察し、体調に変化があった場合はすぐに動物病院を受診してください。

    また、一見生肉を食べたこととは関係のない病気になった場合も、生肉を食べたことがあれば必ず申告しましょう。実は、生肉が関連している場合や、治療に変化を加えなければならないこともあるためです。

    犬猫への正しい肉の与え方

    肉には、火を通して食べるのが基本です。犬や猫に与える際は、しっかりと芯まで熱が通るように調理をお願いします。

    ペットに対する食事の基本を理解しよう

    ペットに対する食事の基本を理解しよう
    (BublikHaus/shutterstock)

    犬や猫の食事は、安全安心で栄養価が整っていることが大前提です。動物福祉の基本である5つの自由にも記載されている通り、健康を維持するために栄養的に十分な食事を与え、病気にならないように普段から健康管理をする義務が飼い主さんにはあります。

    食事の世界にはさまざまな思想があることは十分理解していますが、その思想により動物の福祉が脅かされるようなことがあってはなりません。

    生肉はメリットよりもリスクのほうが遥かに大きいため、与えるべきではありません。正しい知識で、動物の食と向き合いましょう。

    【次回連載】

    著者・監修者

    岩切裕布

    獣医師/ペット栄養管理士

    岩切裕布

    プロフィール詳細

    所属 yourmother合同会社 代表
    (獣医師によるオーダーメイドの手作り総合栄養食や療法食レシピをお届けする「DC one dish」の運営)


    日本ペット栄養学会
    日本小動物歯科研究会
    日本獣医腎泌尿器学会

    略歴 1987年 東京都に生まれる
    2005年 麻布大学 獣医学部獣医学科に入学
    2011年 獣医師国家資格取得
    2011年~2016年 都内動物病院に勤務
    2017年~2018年 フードメーカー勤務
    2018年~ DC one dish 設立
    2020年~ yourmother合同会社 設立

    資格 獣医師免許
    ペット栄養管理士

    ページトップに戻る