海に囲まれた島国、日本。魚介類が好きな猫は多く、古くから猫に魚介類を与えている歴史があります。特に、漁港で魚介類を与えているイメージがありますが、猫にイカを与えるべきか、それとも控えるべきか。人が気づかないうちにイカを食べたときの対処などを学んでいきましょう。
もくじ
イカを含む生の魚介類には、チアミナーゼと呼ばれるビタミンB1(チアミン)を分解する酵素が含まれています。
水溶性ビタミンであるビタミンB1は、猫にとって必須な栄養素であるものの、体内で作ることはできず、食事からの摂取が必要になります。
猫は犬に比べてビタミンB1を必要とする量が多いため、欠乏しやすく、不足すると後ろあしがふらつくなどの神経症状を引き起こします。これが「イカを食べると猫が腰を抜かす」といわれる理由です。
一度口にしたからといってすぐに症状が出るものではありません。しかし、摂取量や期間には個体差がありますが、長期的な摂取によって症状が出る可能性は高くなります。
ビタミンB1欠乏状態が続くと、痙攣や麻痺を起こし、症状が悪化して、命にかかわることもあります。生のイカを含め、生の魚介類を猫に積極的に与えるべきではありません。
環境省が公開している「飼い主のためのペットフード・ガイドライン~犬・猫の健康を守るために~」でも、与えてはいけないもとして「生の魚介類(魚・イカ・タコ・エビ・カニ)」の記載があり、注意喚起されています。
※チアミナーゼは、かつてアイノリナーゼともいわれていました。
ビタミンB1は神経機能を維持するだけでなく、炭水化物を代謝してエネルギーにするために必要な栄養素です。ビタミンB1が多い食材としては、酵母、米ぬか、豚肉、小麦胚芽などがあげられます。
精米された白米などの炭水化物を主食とする日本人にとって、ビタミンB1は不足しがちな栄養素です。ビタミンB1を発見したのは日本人であり、脚気(かっけ)を防ぐ成分として発見されました。
ビタミンB1を分解するチアミナーゼは酵素であり、酵素はその構造(形)が維持されないと効果を発揮できません。
酵素はタンパク質でできているため、加熱するとその構造は変化し、効果は失われます(生卵を茹でて火を通すと硬くなり、ゆで卵になりますが、これは熱を加えたことによりタンパク質が変性した結果です)。
そのため、加熱したイカではチアミナーゼによるビタミンB1欠乏症の心配はありません。
イカには、猫の必須栄養素であるタウリンが豊富に含まれているため、加熱したイカをタウリンの補給源とすることもできます。
しかし健康な猫の場合、主食として総合栄養食やAAFCOの基準に沿った食事を食べているのであれば、追加でタウリンを補給する必要はありません。
イカはスルメのように噛み切りにくい加工品のイメージから消化に悪いと思われがちですが、人では魚に次ぐほど消化率が高いことが知られています。
しかし、猫の消化率に関しては知られておらず、一般的なキャットフードに含まれることがない食材のため、猫がどの程度イカを消化できるかは、正確にはわかりません。
また、一見素干ししただけかのように見える乾物のイカ(あたりめ)は、食塩を使用している可能性があります。大量に食べると食塩の過剰摂取に繋がり、体液バランスが乱れて体調を崩すこともあるため、注意が必要です。
猫はイカの中でもスルメイカを食べると、血液検査でクレアチニンが偽の高値を示すことがあります。クレアチニンの数値が高いと、腎機能の低下が疑われ、場合によっては腎臓病と判断されてしまう可能性があるため注意しましょう。
「どの程度間隔があけば偽の高値を示さないのか」「どのイカの種類を、どの程度の量与えれば偽の高値になるのか」などは知られていません。病院へ行くタイミングに近いところでイカを食べた経験があるようであれば、獣医師に申告したほうがよいでしょう。
生のイカを1度だけ、少量なめたり、食べたりすることでただちにビタミンB1欠乏症の症状を引き起こすわけではありません。加熱すれば猫にイカを与えることもできますが、検査に異常を示すこともあるため、積極的に与えるべき食材ではありません。
動物の福祉の観点から、動物たちの食は安全安心であることが優先されます。正しい知識をもち、愛猫に与える食材を選びましょう。