DC one dish獣医師/ペット栄養管理士の岩切裕布です。脂質は炭水化物、蛋白質と並ぶ三大栄養素です。その中でもエネルギー摂取源として重要な役割を果たす脂質。摂取することで、体内では作りだせない必須脂肪酸を補給し、食事の嗜好性アップにも貢献しています。脂質を控える人は多いですが、控えすぎは禁物です。体を維持するうえで必要な脂質、体によいといわれる脂質がありますので、ご紹介したいと思います。 前回の記事:【獣医師監修】犬猫の食事に欠かせない栄養素!知っておきたいタンパク質の基礎知識|vol.7
もくじ
人も犬猫もダイエット目的で脂質を制限することがあります。しかし、痩せ気味であったり、食が細かったり、病気によってタンパク質や炭水化物の摂取に制限がかる場合、脂質は大事なエネルギー源となります。
脂質のカロリーは1gあたり9kcalあるのに対して、炭水化物やタンパク質の1gあたりのカロリーは4kcal。相対的に、グラムあたりのカロリーは脂質のほうが高いです。そのため、同じカロリーを摂取しようとすると、脂質が少ない食事は量が増え、脂質の多い食事は量が減る傾向にあります。
100gのバターと豆腐、どちらのほうが高カロリーかといえば、バターのほうが高いですよね。このように、食品に含まれている脂質量が多ければ多いほど、カロリーは高くなります。
犬猫の場合は人よりも消化率が低く、1gあたりのカロリーは次のようにわれてきました。
これらの値を修正アトウォーター係数といいます。
しかし、ペットフードの原材料の質がよくなり、吸収率がよくなったためか、修正アトウォーター係数では、カロリーを低く見積もられすぎるといわれています。今回は、人の係数でお話をしています。
脂質は、中性脂肪、コレステロール、リン脂質、糖脂質、遊離脂肪酸に分けることができます。エネルギー源としてだけではなく、体の中で作られるステロイドホルモンや、細胞の膜、神経組織の構成成分としての役割があります。
その中で脂肪酸は、肉の脂身やバターなど動物性脂質に多く含まれる、常温で固まりやすい性質のある飽和脂肪酸と、常温で固まりにくい性質のある不飽和脂肪酸に分けられます。
不飽和脂肪酸には、オリーブオイルや、キャノーラ油に多く含まれるオレイン酸などの一価不飽和脂肪酸と、多価不飽和脂肪酸があります。さらに多価不飽和脂肪酸は、オメガ6脂肪酸(オメガシックスと読み、n-6系と表記されることもあります)と、近年よく耳にするオメガ3脂肪酸(オメガスリーと読み、n-3系と表記されることがあります)に分けることができます。
体の中で作ることができず、食品から摂取しなければならない脂肪酸を必須脂肪酸とよび、次のものがそれにあたります。
リノール酸があればγ-リノレン酸、アラキドン酸を、α-リノレン酸があればEPA、DHAを体の中で作ることができます。そのため、リノール酸、α-リノレン酸のみを必須脂肪酸と呼ぶこともあります(EPA、DHAは必須脂肪酸と呼ばないことが多い)。
また、猫ではアラキドン酸を体の中で作ることができないため、必須脂肪酸に分類されます。
オメガ3脂肪酸は、炎症を抑制する方向へと働かせる作用をもち、関節、心臓血管系、腎臓、皮膚被毛、神経、認知機能によいといわれています。さまざまな研究が行われ、今ではたくさんのサプリメントが販売されています。
食材には、オメガ3脂肪酸であるα-リノレン酸は、アマニやチアシードなどの植物に多く含まれ、EPA、DHAは、サバやマグロなどの魚類に多く含まれています。
オメガ3脂肪酸は極めて酸化に弱いため、空気に触れる回数の多いドライフードよりも、食材からの摂取か、カプセル状のサプリメントからの摂取が効率的です。
EPA、DHAは魚油に含まれる成分のため魚嫌いな子には向きませんが、魚の香りで食欲がそそられる子もいますので、メリットにもデメリットにもなります。
実は、総合栄養食やAAFCOの栄養基準には脂質の上限がありません。そのため、市販されているフードには、非常に高いレベルで脂質が含まれていることがあります。
脂質が高いことで、必ずしも健康な犬や猫の体に悪影響を及ぼすわけではありませんが、嘔吐・下痢などの消化器症状や、場合によっては膵炎(すいえん)を引き起こし、犬では命に係わるような状況も起こり得るため注意しましょう。
ドライフードの場合、油が多いとべたつきが発生するため、脂質が大量に含まれるフードは珍しいです。
海外製の缶詰などのウエットフードで、肉類が多いフードや穀物を使用していないグレインフリーを謳っているフードでは、脂質が多い傾向にあります。必ず成分値を確認しましょう。
ドライフードの周りに、スプレーで油をふりかけることがあります。これを「オイルコーティング」と呼びます。犬猫が好んでドライフードを食べてくれるようにするための方法です。
油の酸化を気にして、ドライフードを水やぬるま湯で洗う飼い主さんもいますが、油以外の栄養素も流れ出て、栄養バランスを乱す原因となるため控えましょう。
もし、ドライフードの周りにつく油が気になるようなら、油をまとわせていない「ノンオイルコーティング」のフードに切り替えることをおすすめします。
しかし、あまりにも脂質が低い食事をしていると、毛がパサパサになったり、皮膚の状態が悪くなったりすることもあります。過度な脂質制限は避け、適切な脂質量を摂取しましょう。
健康な犬や猫に与える市販フードの脂質は、水分を抜いた重量(乾物)あたり犬猫ともに15~30%であることが多いです。そのため、犬で10%、猫で15%以下のフードが低脂肪食といわれ、療法食として治療に使われるのが一般的です。
皆さんがよく目にする料理に使われるような油(オリーブオイル、サフラワー油、ひまわり油など)は、すべて脂質でできています。手作り食でオイルを使用する際は、1gでカロリーが大きく変化するため、計量が必須になります。
肉類のなかでも、高タンパク、低脂質で有名な鶏のささみは、100gあたり1.1gしか脂質が含まれていません。これに対し、牛肉のリブロースは100gあたり86.7gと、肉の種類・部位で大きく異なります。
安全安心な食事管理をするためにも、与えているもの中に脂質がどれだけ含まれているかはしっかりと把握しましょう。よかれと思って低脂質な食材を選んで手作り食を調理すると、必要な脂質が摂取できていなかったということにもなりかねません。何事もバランスを大切に、必要な栄養がきちんと摂取できるようにしたいものですね。
次回は三大栄養素の一つ、炭水化物について解説していきます。お楽しみに!