猫が耳をペッタリと頭にくっつくように倒している姿は「イカ耳」と呼ばれます。三角の耳が倒れることで顔が丸く見えてとても可愛いのですが、このときに、安易に手を出すと猫を怖がらせてしまう可能性があります。猫がイカ耳をするのはどんな気持ちのときなのか、イカ耳以外にも、耳の様子で猫の気持ちが分かるのか、飼い主さんがどう接してあげるとよいのかをお話しします。
もくじ
猫は、獲物となる小動物のかすかな鳴き声やカサカサとしたわずかな足音も聞き逃さないよう、聴覚が発達した生き物。猫の五感の中で聴覚が一番優れているといわれています。
私たち人が聞き取ることのできる最高周波数は2万ヘルツですが、猫はその1オクターブ半高い6万5000ヘルツまで聞き取ることが可能です。耳を動かす筋肉が発達しているので、正確に音のする方へ耳を動かして音を聞き取ります。
また猫は、耳を動かしながら体温調整をしたり、感情表現に役立てたりもします。耳に関していえば、猫が高い所から落ちても瞬時に着地体制を整えられるのは、平衡感覚が優れているからです。
猫の耳がピタッと倒れる「イカ耳」をしているときは、不安を感じているとき。攻撃されないようにと耳を倒していると考えられます。
猫はしっぽ、耳、目、ひげ、姿勢、すべてで気持ちを表現しています。イカ耳になっている猫は耳が倒れて顔が丸く見えてかわいいため、触ろうとする人もいますが、とても危険です。
猫は危険を感じると「逃げる」「高い所に登る」「動かない」「戦う」ことで対応しようとします。イカ耳のときの猫は不安が極まっている状態で、戦う寸前である可能性があります。そんなときに無理に近づくと、猫が「噛む」「ひっかく」「飛び掛かってくる」といった行動に出ることがあるので注意しましょう。
猫だって不用意に人を傷つけたいわけではありません。猫がイカ耳のときはそっと離れたところから観察し、今どんな状態なのか見極めてあげてください。
日常生活でどんなときにイカ耳になるのか、イメージしてみましょう。
来客が苦手な猫がインターホンの音を聞いたとき、大きな物音がしたときなどに、耳が倒れているのを見たという方は多いのではないでしょうか。怖い思いをさせたなと思ったら、愛猫が一番好きなおやつをあげて安心させましょう。
猫と犬とでは皮脂の出方が異なるため、基本的に猫に定期的なシャンプーは必要ありません。しかし、どうしても洗う必要が出て猫をお風呂場に連れていくと、イカ耳になることも多いです。
「水が入らないようにしているのね~偉いね~」と思われがちですが、怖くてたまらなくてイカ耳になっている可能性が高いのです。
猫の毛は乾きにくいため、体が濡れることは苦手。突然、全身を濡らすのではなく、お湯の音だけ聞いてもらったり、あし先だけ濡らしたりしながら徐々に慣れてもらいましょう。
耳が倒れてイカ耳になっていても、猫の気持ちが毎回同じというわけではありません。猫が置かれている状況と、猫のしっぽや姿勢、表情をよく観察して愛猫の気持ちを察してあげましょう。
ただし、猫はじっと見つめられると、さらに緊張してしまう生き物です。視線に気を付けてなるべくそっと様子をうかがってください。
不安を感じた猫は耳を倒しつつ、しっぽを守るためにお腹の下に隠したり、しっぽが下がったりします。ビクッと頭を下げることもありますが、逃げ場を探すために頭を高く上げて安全な場所を探そうとします。
安心感を得るために普段と違った声音で「アォ~」と鳴くこともあります。
怖くてたまらない猫は、自分を小さく見せようと身をかがめます。しっぽはお腹の下、耳も横にペタッと倒します。テーブルの下などに潜り込んで怯えている猫をイメージしてください。情報を集めるために目は大きく見開いて、恐怖で瞳孔も大きく開きます。
耳が倒れているように見えても、耳の後ろ側が正面からしっかり見えて反っているようなときは「もっと近づけば攻撃する」という気持ちの表れです。戦闘態勢に入りつつ、後方の情報もしっかり仕入れて集中しています。
さらに、ひげを後ろに引っ張られたように寝かせて目を細めたり睨みつけたりする、自分を大きく見せるように毛を逆立たせるという行動も見受けられます。このとき猫に近づくと、「シャー」や「ウゥー」と大きく威嚇して、耳とひげが前方に向き、攻撃準備ができていると表現してくるでしょう。
前あしを攻撃に使えるよう重心は後ろあしに乗り、腰を落としたような姿勢になっていることも多いです。
動物病院の診察台の上でイカ耳になる猫も多いです。
病院に行く度に爪切りや注射をされたり、お腹など普段飼い主さんにも触られない場所を触られたり。検査によっては、家ではやったことのない姿勢をさせられます。猫は「今日はどんなことをされるのか」と不安でいっぱいです。
「このくらい大丈夫!」「固まってしまうだけだから大丈夫!」と決めつけず、少しでも安心してもらうにはどうしたらよいかを考えてあげましょう。
受診時に飼い主さんが「キャリーから出てこない!」と焦って引きずり出すと、猫の不安な気持ちがさらに高まります。無理に出さなくてもよいように、受診の際のキャリーは上から大きく開けられるものにしましょう。
診察室に入ったら「診てもらわなきゃ!」とすぐにキャリーを開けたくなるところですが、まず、何を希望しているのか、何が心配なのかをしっかり病院スタッフさんに伝えましょう。流れをイメージしてから、ゆったりと愛猫をキャリーから出すようにしてください。
猫が知っているニオイに包まれて安心感を得られるよう、家からバスタオルなどを持参することもおすすめです。
日常的に、お腹を触るなど病院での触られ方を意識して愛猫に触れておくことで受診時の不安を減らしてあげることができます。ぜひ、愛猫との受診ごっこを日々の生活に取り入れてみてください。
猫の耳が自然な形のときは、リラックスして穏やかなときです。
気になるものがある方に猫の耳は向きますが、耳がピンと前の方に向いてくるときはご機嫌なとき。好きな物に向かって情報を集めていると考えられます。
眠っている様に見えても、耳だけ動かして周囲をうかがっていることもあります。耳がよく動いて、しっぽがパタパタしているようであれば、周囲が気になって落ち着けないときでしょう。
猫がリラックスして過ごせるように静かな空間を作ってあげることももちろん大切ですが、ときには鳥の声が聞こえたり、カサカサと音を立ててみたり、猫がわくわくするような時間を設けてあげることも重要です。遊びに誘うときにはぜひ音による刺激も加えてみてあげてください。
耳をピーンと立てて、音の出所を探しながら狩りの準備を始める愛猫の姿もかわいらしいですよ。
愛猫が耳を触らせてくれるようになったら、ぜひ耳の中をチェックしてあげましょう。
真っ黒のカサカサした汚れや、ベタベタした茶色の汚れが多い場合は、獣医師に相談してください。猫の耳に炎症や汚れがないかを、顕微鏡で確認してもらいましょう。
汚れが目に見えなくても、頻繁に耳を掻いているようなら受診しておくと安心です。
うっすらと茶色い汚れが着きやすいなど、油分が多めな猫の場合は濡らしてよく絞ったコットンなどで表面を優しく拭く程度で大丈夫です。猫は耳の中に液体が入ると、神経にダメージを負うことがあります。コットンはしっかり絞りましょう。
頻度は週に1回程度で大丈夫です。それ以上の頻度で拭かないと汚れが目立つ場合や、赤みが出たり掻いたりしているようなときは受診をおすすめします。
定期的に耳掃除をする必要はありません。特に、綿棒を使っての耳掃除は、猫が突然動く危険性があるのでおすすめしません。綿棒を使わないと取れないような汚れが多い場合は、動物病院で掃除してもらいましょう。
猫が不安な気持ちのときに見せてくれるイカ耳。耳の様子と合わせてしっぽや姿勢にも注目することで愛猫がどんな気持ちにあるのか推測していくことができます。今回のお話が猫との生活がよりよいものになるヒントになると嬉しいです。