DC one dish獣医師の成田有輝です。タンパク質は炭水化物、脂質と並ぶ三大栄養素のひとつ。筋力や、臓器を構成したり、ホルモンや抗体を作ったりするうえで欠かせないものです。肉や魚に多いタンパク質ですが、普段から犬や猫はどれくらい食べているのか考えてみましょう。 前回の記事:【獣医師監修】犬や猫がかゆがるのは食物アレルギー?知っておきたい基礎知識|連載「獣医さんが教える愛犬・愛猫のごはんのキホン」|vol.6
もくじ
タンパク質は20種類のアミノ酸が鎖状につながった物質のこと。アミノ酸の種類や順番、数によってタンパク質の性能は大きく変化します。
体の中で作ることができず、食事として摂取する必要があるアミノ酸を必須アミノ酸といいます。
人は9種類、犬は人の必須アミノ酸にアルギニンを追加した10種類、猫は犬の必須アミノ酸にタウリンを追加した11種類あります(正確にはタウリンはアミノ酸の誘導体であり、アミノ酸として扱われる場合と扱われない場合があります)。
例えば、猫の体では作ることができないタウリンが不足すると、網膜変性、拡張型心筋症、子猫の発育不全など、さまざまな異常が起こることがよく知られています。
これは、ドックフードが初めて世の中に出た頃、猫にドックフードを与えると失明することが多発したことから発見されたものです。
今では、総合栄養食やAAFCOの基準にはタウリンの量が決まっており、添加するのが当たり前になっています。
タンパク質が口から入ると、胃に到達し、胃酸に触れます。その後、胃や膵臓(すいぞう)、小腸から分泌されたタンパク分解酵素によって、最終的にはアミノ酸やそれに近い状態となり小腸から吸収されます。
体によいと話題の酵素もタンパク質でできています。酵素が酵素としての機能を発揮するためには、その構造が維持されていることが重要です。
酵素は体の中で、さまざまな代謝に関連していますが、体の外から摂取した酵素は、消化を受けるため、酵素の形をそのまま保ちながら、体の中に入って効果を示すようなことはありません。
酵素サプリメントなど、酵素が体によいと謳い販売されている犬や猫の製品を目にしたことがある方もいるでしょう。酵素が消化され、アミノ酸として栄養価が高いというのであれば理解はできます。
しかし、前述のようにタンパク質である酵素は消化され、アミノ酸となってしまうため、酵素構造を維持したまま何かしら良い効果を示すことはありません。
また、人用の酵素サプリメントを犬猫用に転用しているものがあり、原材料にタマネギやブドウが記載されている製品もあるため、注意が必要です。
健康な犬に与えるフードのタンパク質量は、一般的に水分を抜いた状態(乾物)で全体の20~40%程度。猫では30%~50%程度で製品化されていることが多いです。
この犬と猫のフードのタンパク質量の差は、犬は雑食であり猫は肉食であることによるものです。
皆さんが、おやつやトッピングで使う鶏ささみは、乾物にするとタンパク質は約96%とほぼタンパク質です。当然タンパク質以外にも必要な栄養素はたくさんありますから、タンパク質さえをとればよいというわけではなく、栄養価の整ったフードを中心とした食事をあげましょう。
実は、総合栄養食やAAFCOと呼ばれる日々の主食として与えるべき栄養基準には、タンパク質の摂取上限の記載はありません。
というのも、健康な子が大量にタンパク質を食べたからといってタンパク質過剰による弊害というものは現時点ではっきりと証明されていないからです。そのため、ほぼタンパク質のみで構成されているような製品も、販売されていたりします。
こういった極端な栄養バランスのフードのみや、大量にささみのようなタンパク質の多いものをトッピングして与えていると、肉しか食べない、肉がないと食べてくれないというような事態に陥ることがあります。
そうなると、病気でタンパク質制限が必要な状態になった際に、食事での病気のコントロールが困難になります。
「高タンパク質なものを絶対に与えてはいけない」というわけではありませんが、ベースとなる食事は、一般的な栄養バランスにものにしておき、タンパク質以外にも好きな食べ物を見つけておくようにしましょう。
タンパク質の制限が必要な病気で、もっとも有名なものは「腎臓病」です。
正常な腎機能をもっていない子に大量のタンパク質を与えると、タンパク質の代謝産物をうまく尿に捨てられず、嘔吐や下痢といった尿毒症と呼ばれる状態になります。この状態にならないようにするために、腎臓病の子ではタンパク質制限を行います。しかし、腎臓病自体の進行を抑える効果はありません。
つまり、「腎臓病が心配だから健康なうちからタンパク質を控える」というのは間違っています。むしろ、過度なタンパク制限を行うと筋肉量が減り、寿命に影響を及ぼす可能性すらあります。腎機能に特に異常がない場合は、シニアになった場合でも気にしすぎに注意しましょう。
大切なことは、今の健康状態を知り、その状態にあった栄養バランスの食事をすることです。そのためにも、かかりつけ動物病院での定期的な健康診断と、食事について相談することをおすすめします。
タンパク質について、理解が深まりましたか?タンパク質は体を構成するうえで重要な栄養素ですが、過不足なく摂ることをおすすめします。
次回は三大栄養素の一つ、脂質について解説していきます。