DC one dish獣医師の成田有輝です。今回はペットフードのパッケージの見方について深掘りしていきましょう。ペットフードのパッケージにはさまざまなことが記載されています。ペットフードのパッケージのどこを見て、どうのように比較すべきなのか、栄養素の計算方法もあわせて解説します。
前回の記事:【獣医師監修】犬や猫もダイエットが必要?肥満にならないようにカロリー計算をしよう|vol.2
もくじ
パッケージには色々な数字が記載されています。どのペットフードがいいか、パッケージを見て比較している飼い主さんも多いのではないでしょうか。
総合栄養食の基準に即したフードであれば栄養バランスの心配はありません。しかし、病気で食事に制限があり栄養バランスを計算する必要がある場合や、フードの栄養バランスをくわしく比較したい場合、パッケージに記載されている、そのままの数字で栄養バランスを比較することはできません。
それは、ペットフードに含まれる水分が、製品ごとに異なるからです。各製品を比較するためには、水分を抜いた値(乾物値)で比較する方法を知っておく必要があります。
例えば、とあるドライフードのタンパク質が製品重量あたり25%で水分が10%、ウエットフードのタンパク質が製品重量あたり10%で水分が80%だったとしましょう。果たしてどちらのほうが、必要なカロリー分を犬や猫が摂取した際にタンパク質が多くなるでしょうか。
タンパク質量÷(100-水分量)×100
実際に計算してみましょう。
【ドライフードの場合(乾物当たりのタンパク質の割合】
25/(100-10)×100≒27.8%
【ウエットフードの場合(乾物当たりのタンパク質の割合】
10/(100-80)×100=50%
一見、ドライフードのほうがタンパク質の割合は多いように感じますが、乾物換算すると実際にはウエットフードのほうが圧倒的にタンパク質の割合は多いということがわかります。
もう一つは、100kcalあたりの栄養素量で比較する方法です。水分にはカロリーがありませんから、100kcalカロリー当たりのグラム数であればそのまま比較できます。ただし、パッケージや製品紹介サイトで単位カロリー当たりの栄養組成が記載されていることは少ないのが実際のところです。
そもそも、ペットフードのパッケージの表示はどのように決められているのでしょうか。
犬と猫のペットフードの表示は、「愛がん動物用飼料の安全性の確保に関する法律(ペットフード安全法) 」という法律と、ペットフード公正取引協議会が定める「公正競争規約」によって決められています。
ペットフード安全法は、ペットフードの製造・販売に関する法律で、大きく分けて以下のような内容が定められています。
これらは法律上、必ず守らなければならないものです。
ペットフード公正取引協議会とは、日本国内のペットフードの栄養基準や原材料等の基準を公表している日本の任意団体です。ペットフード公正取引協議会が定める公正競争規約は、あくまでも加入団体に向けた自主基準です。
そのため、一般的に守るべきものではあるにせよ、ペットフード安全法のように拘束力があるものではありません。
では、どのような表示ルールがあるのか具体的に見ていきましょう。
ペットフード安全法ではパッケージの表示について次のように定められています。
見ると分かるように、栄養成分表示に関する表示義務はありません。原材料の表記について、一般的に使用量が多い順に書くことが推奨されていますが、これは必須ではありません。原材料名も人の食品のように表記方法が厳密に決まっているわけではないのです。そのため、曖昧な表記になっているものも多く見受けられます。
ペットフード表示に関する公正競争規約にはパッケージ表記については以下のような取り決めがあります。
この4つのなかでも、分かりにくい「用途」と「成分」について解説します。
用途には大きく分けて「総合栄養食」「療法食」「間食」「その他目的食」の4つがあります。
中でも「総合栄養食」は、日々の主食として給与が推奨されるものです。総合栄養食という基準をクリアするためには、分析または、給与試験による証明が必要になります。
ただし、ペットフード公正取引協議会は認定機関ではありません。総合栄養食の基準を満たしているかどうかは、各メーカーの自己申告ということになります。
各メーカーが自身で、ペットフード公正取引協議会が提唱しているルールに則り検査をし、結果を公開するかしないかの判断を行っています。そのため、すべての検査結果が開示されているわけではありません。
ペットフード公正取引協議会が定めている成分のことを「保証成分値」といい、保証成分値には、粗たんぱく質・粗脂肪・粗繊維・粗灰分・水分という項目があります。
これを表示する目的は、「そのフードに含まれるカロリーを保証する」ことで、粗たんぱく質、粗脂肪は「〇〇%以上」、その他は「〇〇%以下」で表記を行うようになっています。
例えば、「粗脂肪の保証成分値が5.5%以上」と記載されている場合、「このフードには粗脂肪が5.5%以上含まれることが保証されている」ということです。保証成分値の粗脂肪%が低い=そのフードが必ず低脂質、ということではありません。
ペットフードの表示ルールを見てきましたが、これらのルールだけでは不十分なのが現状です。
例えば、ペットフード公正取引協議会の公正競争規約では成分について一定の表示ルールがありますが、「〇〇%以上」「〇〇%以下」で示されている保証成分値では、正確な栄養バランスを把握することはできません。そのため、正確な栄養成分が知りたい場合は、メーカーに直接問い合わせをする必要があります。
また、環境省が公開している動画の中では、ペットフード安全法について以下のように紹介しています。
「ペットフード安全法の規制だけでは、ペットの健康被害を防げるわけではありません。ペットの健康と安全を守るためには、フードを与える飼い主がペットの生態や必要な栄養素、食べ物などについて理解し、適切に与えることが大切です。」
(出展:飼い主のためのペットフードガイドライン~犬・猫の健康を守るために~)
つまり、「市販されているもの=安心、安全」という認識ではなく、うちの子の状態には何が合うのか、そもそもその製品が何に基づいて、何を目的として製造販売されているのか、きちんと確認することが大切だということです。
では、どうすればいいのでしょうか。
「この原材料は何なのか」「栄養バランスはどうなのか」「本当にこのメーカーは信頼できるのか」など知りたい情報の記載や疑問に思うことがあった場合、製造・販売会社に直接問い合わせて情報を得ることもできます。
どんなことを聞けばいいのか迷う場合は、世界小動物獣医師会(WASAVA)が提唱する、グローバルニュートリションガイドライン(Global Nutrition Guidelines)を参考にメーカーに問い合わせをしてみましょう。ガイドラインの概要は以下の通りです。
問い合わせに対するメーカー側の対応を見ることで、信頼できるかどうかを判断するのもよいでしょう。
パッケージの画像や文言で選んでしまいがちなペットフードですが、パッケージの情報だけでは選びきれないこともあると思います。その際は、以下の工程を経ることが大切です。
パッケージのイメージや雰囲気だけではなく、フードの中身そのものが本当にうちの子に合っているのかを見定めるよう心がけましょう。
次回は食事を選ぶうえでも知っておきたい、犬の食性について解説します。