飼い主さんが愛犬の健康状態を見る目安として、元気、食欲、排便、排尿などが挙げられます。今回は、排便トラブルで一番多い「下痢」についてお話しします。下痢の種類や原因、対処法、病院での検査などに触れていきますので、愛犬の健康管理の参考にしてください。
もくじ
毎日行われる排便という行為は、犬の健康状態の指標なります。そのため、普段から「形」「色」「回数」「排便姿勢」などをよくチェックをし、いつもと変わりがないかどうかを把握しておく必要があります。
「下痢」といってもさまざまな種類がありますので、まずは便の種類を知りましょう。
軟便:水分を多く含み、形はあるが、拾ったときに床に残る便
泥状便:軟便よりも水分を多く含み、形は保てず、泥のような便(一般的に下痢と言われる状態)
水様便:泥状便よりもさらに水分を多く含み、水のような便(一般的に下痢と言われる状態)
粘膜便:腸の粘膜がはがれ、表面に粘液物質が付着する便(飼い主さんがゼリー状の便と言う状態)
血便:血が混じる便。消化管の下部で出血している可能性がある
黒色便(タール便):腸の上部より出血している可能性がある
白色便:脂肪が混入している便。消化酵素が分泌されなくなる膵外分泌不全(すいがいぶんぴふぜん)などによって起こる
緑色便:胆汁に含まれるビリルビンという物質がうまく再吸収されずに酸化して排泄されることにより起こる
黄色便:肝臓、胆管(たんかん)、胆嚢(たんのう)に関係する異常の可能性がある便
下痢にはさまざまな原因があります。一般的なものを挙げてみましょう。
犬が嫌いなこと、不安になることなど、ストレスがかかることで下痢を引き起こすことがあります。
(例)落雷、ペットホテル、トリミング、来客など
ストレスは目には見えず、検査結果でストレスだとわかることもありません。そのため、「下痢の原因はストレスです」と断定するのは難しく、下痢を引き起こした状況や検査により他に異常が見られなかった際に、経験的に診断が下されることが一般的です。
食べ過ぎや、消化しにくいもの、食べなれないものを食べた際に引き起こします。
食べたものが、消化できるようであれば、一過性で済むことが多いですが、消化できないものを食べてしまった場合、消化管内でつまってしまう可能性があり、軽度から重度な症状までさまざまです。
牛乳に含まれる乳糖を吸収できず、下痢をすることがあります(乳糖不耐症)。
いわゆる食中毒で、サルモネラ、大腸菌などによって腸内細菌に異変を起こし下痢を引き起こします。抗生物質などで治療することが一般的ですが、抗生物質により下痢をする場合もあります。
コロナウイルス、パルボウイルスというようなウイルスが原因で下痢をします。免疫が整っていない子犬がパルボウイルスに感染すると悪化することが多く、嘔吐や下痢を引き起こし、時に命を落とすことがあります。
コクシジウムなどの原虫のほか、線虫や条虫(じょうちゅう)などさまざまな寄生虫により下痢を引き起こします。
誤ってブリーダーやペットショップなどから寄生虫を連れてきてしまうことがあります。自宅に迎え入れたばかりの子犬が下痢をした場合、真っ先に疑われるのが寄生虫性の下痢になります。
食物アレルギーにより下痢や排便回数の増加を引き起こすことがあります。
免疫の異常により下痢を引き起こすことがあります。
膵臓から消化酵素がうまく出なくなることにより、消化吸収ができずに下痢をします。
リンパ腫などの腫瘍が消化管を脅かすと、消化管の機能が低下し下痢を引き起こします。年齢を追えば追うほど腫瘍疾患は増えるため、老犬で多くなります。
犬が下痢をした直前に、「フードを変えた」「ストレスが加わっていた」など、原因が分かっており、犬の元気・食欲が普段通りの場合は、一過性ですむこともあるため緊急性は低いと考えられます。
しかし、元気がなく食欲が落ちるといった場合や、頻回に下痢をしたりする場合は、動物病院を受診しましょう。
飼い主さんの中には、何も治療せず改善した経験から「まだ病院へ行かなくてもいいだろう」と判断される場合もありますが、悪化してからでは治療期間が長引きます。
愛犬を長時間つらい状況にさらすことにもなるので、早めの受診を検討しましょう。
下痢という言葉は、あくまでも水分が多い便を指すのみで、飼い主さんと獣医師の間で認識が違っている場合がよくあります。
そのため、獣医師は、「ウンチはつかめますか?」「ソフトクリーム状でしたか?」といった質問を行い、飼い主さんが申告する「下痢」が果たして本当に下痢なのか。下痢である場合は「どういった下痢」なのかを正確に把握しようと試みます。
便にはたくさんの情報が含まれています。動物病院を受診する際は、可能であればペットシーツなどで吸水された状態ではなく、排便した後のそのままの状態をビニール袋などに入れて持って行くと、話しやすいでしょう。
そのまま持っていくことが困難な場合には、スマートフォンなどで写真をとって獣医師に見せることも一つの方法です。
下痢は消化器症状の一つですが、上述のようにたくさんの原因があります。下痢を見ただけで原因を特定することは困難なため、検査を行います。
検査には、糞便検査、血液検査、画像検査(レントゲン検査、超音波検査)など動物病院ですぐに行える検査から、遺伝子検査、内視鏡検査、生検など、時間がかかったり、麻酔をかけたりと、費用やリスクのある検査までさまざまです。
治療に関しても、原因によって全く異なります。整腸剤や駆虫薬だけで済む場合もあれば、抗がん剤や免疫抑制剤を使用した治療が必要になることもあります。
検査・治療は、犬の年齢、症状、病歴、投薬歴、検査歴などさまざまな情報から、総合的に獣医師が判断を行い、進めていきます。犬の下痢は比較的よく起こる症状であり、軽度な症状と治療で済むことが多いことは事実です。しかし、中には重い病気が隠れていることもあります。
「いつも下痢をしやすい子だから」と安易に考えず、先生と相談し、必要に応じて検査・治療を受けてくださいね。
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