はじめまして、DC one dish獣医師/ペット栄養管理士の岩切裕布です。動物病院で勤務していた頃、日々の診療の中で犬猫の食事や栄養学に関する問題点を感じていました。その後フードメーカーでの勤務を経て、獣医師によるオーダーメイドの手作り総合栄養食や療法食レシピをお届けする「DC one dish」を開業し、現在は栄養学専門の獣医師として活動しています。 今回から始まる「獣医さんが教える愛犬・愛猫のごはんのキホン」の連載では、DC one dish獣医師の成田と一緒に、ペットフードの種類やパッケージの見方、あげていい食材、避けるべき食材など、飼い主さんが知っておくべき知識についてお話しします。 第1回目は、食事の分類、総合栄養食という食事の意味合いや、フードの選び方について解説します。
もくじ
日本の犬猫のペットフードには、大まかに4つに分類されています。
犬や猫が必要とする栄養基準を満たした、「毎日の主要な食事」として与えるためのフードです。
新鮮な水と一緒に総合栄養食のドックフードやキャットフードを与えるだけで、それぞれの成長段階における健康を維持することができるように、理想的な栄養素がバランスよく調製されています。
成長段階とは、成長期(子犬・子猫)、維持期(成犬・成猫)、授乳期、などのいわばライフステージのことです。成長期から維持期まで、すべての成長段階に適応する栄養組成のフードは「オールステージ」や「全成長段階用」と表記されます。
ここで着目していただきたいのが、総合栄養食には「高齢期、シニア期」という成長段階が設定されていないということです。「高齢期、シニア期」の栄養基準は設定されていないため、ショップでよく目にする「高齢用、シニア用」というフードは、各メーカーが独自に高齢期に配慮するような工夫をしているということです。
その工夫には特に定義が無いため、飼い主さんが愛犬・愛猫の状態に合わせて見極める必要があります。
(参考:ペットフード公正取引協議会「総合栄養食」)
犬や猫が病気や持病を持っている場合に各疾患に対し、獣医師の判断のもと処方される食事で、療法食の選択は専門家の知識や知見が必要になります。
愛犬・愛猫に療法食が必要か、どんな療法食が適しているかは獣医師の判断によりますので、かかりつけの先生と相談し、検討することが何よりも重要です。
専門家の知識なしで療法食を選択したり変更したりすると、食事のせいで健康に悪影響を及ぼしてしまうことがありますので、必ず獣医師に相談しましょう。
総合栄養食の栄養基準とは関係なく、しつけの際のご褒美や、コミュニケーションツールとして作られた間食(おやつ)です。おやつですから、日々の主食にはなりません。
日々の生活に楽しみをプラスしてくれるおやつですが、食べすぎると主食(総合栄養食)の栄養バランスを崩してしまったり、肥満の原因になります。おやつは1日の摂取カロリーの10%程度にするよう心がけましょう。
ふりかけやトッピングなどの目的のために作られた食事を、その他目的食と言います。
間食(おやつ)と同様に総合栄養食の栄養基準は満たしていませんので、あげすぎには注意してください。
食事のメインとなるフードを選ぶときに一番大切なことは、栄養バランスがどういった基準に適合しているか、そして、その記載があるかです。
まずは、じっくりとパッケージをよく読んでみましょう。
「総合栄養食」とは、毎日の主要な食事として与えることを目的として作られた食事で、水とそのご飯のみで健康を維持できるように栄養バランスが設計されています。
この基準はペットフード公正取引協議会が定義された日本の栄養基準で、日本で製造された多くのペットフードはこの基準に適合した栄養バランスで販売されています。
そして、この総合栄養食の栄養基準の元となったのが米国飼料検査官協会、通称AAFCO(アフコ)の栄養基準です。AAFCOの基準は、世界で最も有名で、最も使用されている栄養基準です。
そのため、主食となるフードを選ぶ際は、「総合栄養食」や「AAFCO」の記載のあるものを選ぶことが推奨されます。
その他、ヨーロッパには、欧州ペットフード工業会連合、通称FEDIAF(フェディアフ)と呼ばれる団体の栄養基準もあります。ヨーロッパの国々では比較的採用されている基準のため、ヨーロッパからの輸入製品にはFEDIAFという文字が記載されている場合もあります。
FEDIAFもAAFCOと同じく細かく栄養基準が設定されており、信頼のおける栄養基準の一つです。
人と暮らす動物たちの食を考える上で、基本的な概念として知っておかなければならないのが、国際的動物福祉の基本である5つの自由についてです。この5つの自由は、動物たちに対して、飼い主さんが果たさなければならない責務になります。
1.飢えと渇きからの自由
その動物にとって適切かつ栄養的に十分な食べ物を与え、いつでもきれいで新鮮な水が飲めること。
2.不快からの自由
その動物にとって清潔で安全な環境で飼育をし、快適に過ごせること。
3.痛み・傷害・病気からの自由
ケガや病気の場合に適切な治療を受けさせ、日々病気にならないように心がけ、健康チェックを行っていること。
4.恐怖や抑圧からの自由
動物が恐怖や抑圧を受けないようにし、精神的苦痛や不安を与えないように対処すること。
5.正常な行動を表現する自由
それぞれの動物の本能や習性にあった本来の行動がとれること。
(参考:埼玉県ホームページ「動物の5つの自由」)
これら5つの自由の中で特に食に関連するのが、「飢えと渇きからの自由」「痛み・傷害・病気からの自由」です。
その子のライフステージ・健康状態にあった食べ物を適切な量与えることで、栄養の不足や過剰による人為的な病気を引き起こさないようにし、健康維持や病気の管理に努めなければなりません。
犬や猫の寿命が延びている理由の一つとして、普段の生活に密接にかかわる栄養学が進歩し、以前よりも栄養バランスが整った食事が普及したという背景があります。
ペットの家族化が進み、さまざまな形状の製品や販売手法でペットフードが販売されるようになってきました。しかし、残念ながら栄養バランスが整っていないにもかかわらず、あたかも総合栄養食のような印象を与える販売形式のフードも無数に存在しています。
ねこまんまと言われるような、人の食事の残りを与えていた時代から、栄養価が整ったフードを与えるようになった今、この進歩を後退させないようにするために、見た目だけに囚われず、飼い主さんが知識と意識をもって動物福祉の精神の則り、動物たちのフードを選びましょう。
今回は、犬猫の食事の種類や用途、選び方について解説しました。世の中には数多くの製品が販売されていますが「うちの子にはどんなものが合うのか」今一度立ち止まって確認してみるのも大切なことだと思います。
次回は犬猫のダイエットや、あやふやになりがちな犬猫たちの摂取カロリーについてご紹介したいと思います。また次回お会いできることを楽しみにしています!