【獣医師監修】マズルコントロールはしつけに必要?知っておきたいマズルの知識
2021.11.25 作成

【獣医師監修】マズルコントロールはしつけに必要?知っておきたいマズルの知識

獣医師

東 一平

東 一平

マズルとは、犬の目元から鼻先にかけての部分の名称です。柴犬やレトリーバーのようにその部分が長い犬種、パグやフレンチブルドック、チワワなど短い犬種が存在していて、特に後者は短頭種と呼ばれ、知っておかなければいけない知識が存在します。それだけではなく、マズルを通じたコミュニケーションや健康管理についてご紹介したいと思います。

もくじ

    マズルってどこ?

    【獣医師監修】マズルコントロールはしつけに必要?知っておきたいマズルの知識
    (Susan Schmitz /shutterstock)

    マズルとは、犬の目元から鼻先・口の部分のことです。マズルを制御されてしまうと、犬は口を開くことが出来ずに「噛む」という行為が行えなくなります。犬にとって、歯や牙を使った「噛む」という行為は非常に強力な武器であり、逆に言えばこの武器をコントロールされてしまうマズル部分は、非常に大事な部位です。

    また、鼻、口という呼吸における非常に重要な臓器や眼に近いために、とても繊細な部位でもあります。

    なお、猫も鼻先から目元の口部分をマズルと呼び、犬に比べると短頭種のように短い子が多いです。特にペルシャやチンチラなどは極端に短く、そのせいで鼻や目に関する病気のリスクになってしまっています。

     

    マズルコントロールってなに?

    マズルコントロールってなに?
    (invisible invisible /shutterstock)

    しつけのひとつにマズルコントロールという方法があります。マズルが犬にとって急所であり、親犬が子犬をしつける場合にこの部分に顎を乗せたり、時として口で覆うことで上下関係を知らしめる習性を利用して、しつけを行う方法です。

    ここで、しつけについて大切なことをお伝えします。しつけは、これでいいという単純な一つの正解があるものではありません。犬の性格や環境、犬種など多くの要素と、飼い主さんの性格や技術などの多くの要素との掛け算です。個々に適した方法はプロのドッグトレーナーでなければ判断が難しいです。

    基本的なスキンシップを超えたしつけをする場合は、プロのドッグトレーナーの力を借りましょう。飼い主さん・動物の安全と幸せのために、よろしくお願いします。

    マズルコントロールって必要?よくないの?

    マズルコントロールって必要?よくないの?
    (Cristina Conti /shutterstock)

    過去にはよく行われた方法では、マズル部分を掴んだり、覆ったりすることで犬と飼い主さんの関係性に上下関係を作り、様々なしつけを導入しやすくする方法として、マズルコントロールが用いられていました。

    現代ではこのような嫌悪刺激はしつけに用いるべきではないという考え方から、マズルを掴んだり恐怖心を与えるようなマズルコントロールは望ましくないという流れになっています。

    苦痛や恐怖を与えないように、動物の習性を上手く利用することは悪いことではないのですが、力強くマズルを握ったり、犬に苦痛や恐怖を与えるようなしつけ方法は、威嚇や攻撃行動を引き起こしてしまい、逆にしつけを困難にする可能性があります。

    安心できるリーダーが守ってくれていると犬は安心すると考えられているので、スキンシップの一環としてマズルへのアプローチをできるようにしておくことは、お互いの安全のためにも重要です。

    そうした犬への配慮を加えた新しいマズルコントロールについて学んでいきましょう。

    犬に苦痛を与えないマズルコントロールの方法

    犬に苦痛を与えないマズルコントロールの方法
    (Sundays Photography /shutterstock)

    飼い主さんとして、また犬のリーダーとしてマズルを触れるために大事なのは、ぎゅっと力を入れたりせずに、優しく包み込むように触れることです。

    例えば、興奮した犬をリーダーが落ち着かせるために、マズル部分を手で覆ってあげます。この際に力を入れて閉じるというよりは、軽い力で口を閉じさせて優しく包み込むように、口を締め上げるのではなく、ぴたっと固定させて手を添えるようなイメージです。

    もちろん、マズル部分を軽く手で触れたり、優しくなでてあげて落ち着きを取り戻してくれるのならそれでも大丈夫です。

    犬の性格や興奮している状況などによっては、慎重に方法を選ぶ必要があるため、ぜひ一度プロのドッグトレーナーに相談し、その子に合ったやり方を教えてもらいましょう。

    マズルを触らせてくれるような信頼関係を築きましょう

    マズルを触らせてくれるような信頼関係を築きましょう
    (Yolya Ilyasova /shutterstock)

    日常的にマズルを通して信頼関係を築いた犬は、マズルに触れられることに恐怖を感じず、リーダーである飼い主さんを信頼して身を委ねるようになります。

    人間社会で犬が生きる際に、犬が苦手な人のために口輪をつけたり、日常のケア、例えば歯の観察や歯磨き、耳の観察や耳掃除、目の観察や点眼などを行う際に行動を正しく制御することができるなど、日常のマズルコントロールが役立つ場面も存在します。

    全身を力で抑え込むような無理やりな制御をすることなく、苦痛や恐怖を与えない最低限の制御を行えることは、動物病院で診察を受ける際などにも役に立ちます。

    また、飼い主さんを信頼して口やマズル周囲を触らせたり、観察されることに慣れさせることによって、口腔内の病気の早期発見、歯の日常的なケア、目の異常の早期発見、点眼などの治療行為、耳などの顔周りの観察や処置を容易にし、ペットの健康に大きく寄与します。

     

    マズルの短い短頭種で知っておきたいこと

    マズルの短い短頭種で知っておきたいこと
    (Csanad Kiss /shutterstock)

    マズル部分が短い犬種を短頭種と呼びます。パグやフレンチブルドッグ、ペキニーズ、そしてチワワなどが有名で、独特のぺちゃんとした顔つきで愛されています。しかし、その可愛さの特徴である短いマズルが原因で、問題を抱えている犬もいます。ここでは短頭種症候群と呼ばれる症状について学びましょう。

    短頭種症候群

    短頭種にしばしば起こる病気の総称で、主に呼吸をしにくくさせてしまったり、くしゃみや咳、呼吸時にものすごく頑張らないと呼吸が出来ないなど、対処しないと生活の質を下げてしまい、時に命の危機に繋がってしまう怖い病気です。

    代表的な症状は3つあります。

    ①鼻孔の狭窄(びこうのきょうさく):鼻の穴が細く狭くなります。

    ②軟口蓋下垂(なんこうがいかすい):喉の奥、気管の入り口の部分に上顎の粘膜が垂れ下がって呼吸の通り道が狭くなり、呼吸の邪魔をしてしまいます。息を吸う時にその垂れ下がった粘膜が震えて、ガーガーとガチョウの鳴き声のような呼吸音を出すことがあります。

    ③気管低形成(きかんていけいせい):気管の作りが未熟で本来の気管よりも弱い作りになってしまうことです。

    また、喉の奥の空気の通り道を邪魔してしまう喉頭小嚢(こうとうしょうのう)の外転といった構造異常や、器官につながる入り口が開かなくなってしまい、呼吸がしにくくなってしまう喉頭虚脱(こうとうきょだつ)という病気などもこの症候群に含まれています。

    生きていく上で欠かすことができない呼吸に影響を与え、熱中症や呼吸疾患へのリスクが上がるため、場合によっては外科手術などを施す場合もあります。

    個体ごとのケアが必要ですので、かかりつけの動物病院としっかりと話し合いをしましょう。

    幸せなペットライフのために

    幸せなペットライフのために
    (Andrey Yurlov/shutterstock)

    マズルコントロールを正しく理解し愛犬との関係を築くことは、絆を深め、健康を守ることにも繋がります。

    ただし、適切な方法は個々の犬や飼い主さんの組み合わせにより多くの方法から選ばなければいけないため、プロのドッグトレーナーの指導を受けることをおすすめします。

    まずは優しく愛犬の顔をなでてあげることから始めて、正しいマズルコントロールをマスターし、幸せなペットライフを歩んでいきましょう。

    著者・監修者

    東 一平

    獣医師

    東 一平

    プロフィール詳細

    所属 株式会社アイエス 代表取締役
    アイエス動物病院(千葉県市川市) 院長

    日本小動物歯科研究会
    日本獣医皮膚科学会
    比較眼科学会
    日本獣医麻酔外科学会

    略歴 1978年 千葉県に生まれる
    1997年 麻布大学 獣医学部獣医学科入学
    2003年 獣医師国家資格取得
    2003年~2004年 アイエス動物病院に勤務
    2004年~2005年 東京都内の動物病院に勤務
    2005年 千葉県市川市のアイエス動物病院の院長に就任

    資格 獣医師免許

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