白内障は、病的に水晶体の透明性が低下した状態を言います。一般的には「愛犬の目が白くなった!」「少し濁っているように感じる」「最近目があまり見えていないようだ」といった点で、気づくことが多いのかもしれません。今回は犬の白内障についてお話していきましょう。
もくじ
まずは、白内障がどのような病気なのか解説します。
「白内障は目が白くなる病気」ですが、白くなる部分は目の中の水晶体と呼ばれている部分です。
次の図は、眼の断面図です。
角膜が眼の表面、強膜が眼球の一番外側にあり、水晶体は眼の中にあります。水晶体はレンズの働きをしていて、目の中に入ってくる光を屈折させて網膜に集まるよう調整します。
水晶体を外から見た場合は瞳の黒い部分に該当します。水晶体は透明ですが、その後ろにある網膜が黒いため、その色がそのまま見えているのです。
「目が白いから白内障かも?」と思って動物病院に来院しても、白内障ではない場合もあります。
下の写真を見てください。
たしかに目が白いですよね。でも、よく見ると瞳は白くなく、目の表面が白くなっています。これは白内障ではなく、表面の角膜に病気がある症例です。
多い病気としては、角膜に傷がついてしまう角膜潰瘍(かくまくかいよう)などが挙げられます。
では、次の症例はどうでしょう?
こちらは、瞳の中だけが白くなっています。これが白内障です。
違いを知っておけば、白内障かどうか判断できると思いますので、ぜひ参考にしてみてください。
一口に白内障といっても、白内障になる原因によってたくさんの種類に分類されています。この章では、白内障の種類と原因について解説していきます。
生後2週間で目を開いた時すでに白内障になっている症例を、先天性白内障といいます。飼い主さんが遭遇する機会はあまりないでしょう。
先天性の奇形が関与している場合も多いです。
遺伝性白内障は、遺伝的にプログラムされている病気です。生まれてすぐの目は白くないものの、若~中齢になると目が白くなる病気です。特に若齢で発症した場合は進行が早く、後述する合併症を併発することも多いので注意が必要です。
代謝性の疾患を患っていると、白内障になりやすくなることもあります。
最も多い病気は糖尿病です。糖尿病性の白内障は進行スピードが早く、糖尿病と診断されてから170日以内で、半数の白内障が進行しています。数日で白くなってしまうこともあるため注意しましょう。これは糖尿病で高血糖になることが関係しています。
ほかにも、血液中のカルシウム濃度が低下している場合も白内障になりやすいです。低カルシウムの原因には、腎不全や甲状腺機能低下症などがあります。
外からの力によって水晶体がダメージを受けた場合も白内障になることがあります。
特に、噛みつかれる、引っ掻かれる、目に物がささるなど、目の表面だけでなく中のほうまで障害された場合、白内障につながる可能性が高いです。
高い用量や長期間、薬を服用し続けることによって、白内障を発症することもあります。
さまざまな薬での報告がありますが、代表的なものはケトコナゾール、プロゲステロン、ジメチルスルホキシドなど。薬の服用をやめることで治るケースもあります。
また、正確には薬ではありませんが、白内障は放射線治療の障害のひとつにあげられます。すぐには症状が出ず、治療の6~12ヶ月後に生じるケースが多いです。
白内障といえば年をとってから発症する印象があると思いますが、実は何歳でも発症することがあります。その発症年齢により白内障を分類することがあります。
ただし、年齢の分類は諸説あります。
1~6歳で発症した場合、若齢性白内障と呼ばれることがあります。若齢性白内障は比較的進行が早く、合併症も発生しやすい傾向があります。
年齢を重ねることにより発症するものを、加齢性白内障と呼びます。6歳以上で発症した場合はこちらに分類されることがあります。
残念ながら加齢性白内障の原因はわかっていません。一般的に進行は遅く、失明するまで数ヶ月~数年要することが多いです。
このように白内障は何歳でも発症することがあるので、若いから安心と油断せずに、定期的に目の中が白くないか確認してあげるようにしましょう。
何らかの原因で眼の中の環境が変化し、水晶体が濁って白内障になるケースがあります。
白内障になりやすい眼の病気として、進行性網膜萎縮、緑内障、水晶体脱臼、ぶどう膜炎などがあります。
白内障と間違えやすいものに、核硬化症があります。
水晶体は加齢とともに中心部の密度や硬度が増加していきます。その結果水晶体が白くなり、あたかも白内障のようにみえることがあります。
ただし、失明や合併症を生じることはほぼなく、生活への影響はありません。もちろん治療の必要もないものです。
白内障による問題として、大きく2つがあげられます。
水晶体はレンズの役割をもち、光を曲げる働きをしています。曲がった光は網膜に達して視神経に伝わりますが、水晶体が白くなると光が網膜にたどりつきにくくなります。
放置し、そのまま進行すると視覚異常を引き起こし、最終的に失明することがあります。
白内障は水晶体の成分が変化して白くなる病気です。白内障が進行すると、徐々に水晶体の中の成分が周りに溶け出します。眼の中で水晶体の成分が溶け出し、周囲に炎症が起こります。これによってさまざまな合併症を引き起こします。
具体的には緑内障、ぶどう膜炎、網膜剥離、水晶体脱臼などがあります。合併症により眼に強い痛みを生じ、失明するリスクもあります。
白内障はどのように進行するのでしょうか。
白内障の初期状態では症状はありません。病院の健康診断で初めて指摘されるケースも多いです。
白内障は徐々に進行していきます。白内障の進行のイメージは以下の通りです。
白内障は以下のように進行していきます。
水晶体の一部分のみが白濁しますが、視覚に影響はありません。
混濁が進行し、水晶体が厚くなっていきます。混濁は15%以上で、視覚に影響はありません。
水晶体全体が混濁し、硬くなり、失明します。
水晶体の融解が始まり、水晶体の内部の成分が周りに溶け出します。溶け出した成分によりさまざまな合併症を引き起こすことがあります。
白内障の治療は、大きく分けて外科治療と内科治療があります。
白内障は基本的に、外科手術が必要になります。手術をすることで、視力の回復や合併症の発生率のリスクを下げることができます。
しかし、手術を実施する時期の判断は難しいところです。早めに手術を行ったほうが合併症のリスクは下がりますが、手術によるリスクもあります。
どの時期に実施するかは眼の状態や執刀医の判断にもよりますので、興味のある人は動物病院に相談してみましょう。
基本的に、内科治療で白内障は治療できませんが、緑内障やぶどう膜炎などの合併症の治療には有効とされています。
白内障に対しての目薬の使用は難しいところです。いくつか商品は発売されていますが、明確なエビデンスをともなったものはありません。目薬の使用に関しては獣医師と相談して決める必要があります。
過熟白内障など進行した白内障は、合併症を発症していることも多く、手術前に白内障の合併症に対して内科治療が選択されることもあります。
白内障の症状や進行状態によって治療内容や治療費は大きく変わります。
手術を伴う場合治療費は高額になりやすく、片目か両目の手術かでも治療費に差が出ます。
ここでは加齢性の白内障の治療費の事例を紹介します。
白内障で片目の手術を伴い、2日間の入院治療を行いました。
【治療期間】
入院2日間、手術1回
【治療総額】
治療総額 |
26万9,940円 |
※当社の保険金支払い事例に基づくデータであり、一般的な水準を提示するものではありません
白内障で4日間の通院治療を行いました。通院毎に眼科検査、内服薬、点眼薬の内科的治療を実施しました。
【治療期間】
通院4日間
【治療総額】
治療総額 |
9万1,190円 |
※当社の保険金支払い事例に基づくデータであり、一般的な水準を提示するものではありません
残念ながら現時点で白内障の有効な予防法は確立されていません。目薬、抗酸化薬やサプリメントなども開発されていますが、効果のほどは不明です。
使用するかどうかは動物病院の判断次第のため、かかりつけの獣医さんと相談してみてください。
白内障は徐々に進行し、さまざまな弊害を引き起こしうる怖い病気です。白内障を発症しているか、どのタイミングで治療を開始するか、など判断が難しい病気でもあります。
白内障が進行しすぎてしまったり、合併症を発症したりすることで、治療が難しくなることも多いです。愛犬の目が白いと感じたら、近くの動物病院を受診することをおすすめします。