猫のくしゃみ。人間でいえば、『少し風邪を引いたかな』と考えるかもしれません。たしかに、猫風邪という病気はありますが、人間の風邪とは少しニュアンスが違います。また、猫のくしゃみは風邪以外も考えられます。この記事では、猫のくしゃみについて詳しく解説します。
もくじ
「猫風邪」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。猫風邪は、「上部気道感染症」ともいわれます。上部気道とは、鼻や喉のことです(場合によっては気管まで含むこともあります)。つまり、鼻や喉に感染を引き起こすことを「猫風邪」といいます。確かに風邪とつくだけはありますよね。
感染するものは主にウイルスや細菌です。その中でも90%はウイルス感染で、特に猫ヘルペスウイルスと猫カリシウイルスがメインの病原体です。
猫風邪の典型的な症状は鼻の症状で、くしゃみや鼻水などです。また、口や目の方まで波及することも知られていて、結膜炎や口の中に炎症が認められることもあります。
病院でよく見かける症状は、目ヤニで目がぐちゃぐちゃになり、鼻水をダラダラ流しているものです。かわいそうですよね。
当然そんな状態では匂いも嗅げないので、食事の味もしなくなります。口も痛いので、ご飯を食べなくなります。
そのほかにも、結膜炎が進行して目にキズ(角膜潰瘍)ができたり、気道の病気が進行して咳や呼吸困難になったりするケースもあります。
猫風邪の原因は、主にウイルス感染です。感染している猫からの分泌物(鼻水、涙、唾液)に触れることで、感染する可能性があります。
もし今猫を飼育されていて、新しく猫をお迎えする場合は注意が必要です。新しく来る猫が猫風邪に感染していた場合、もともと飼育されていた猫に感染する可能性があります。特に多頭飼いの場合は一気に全員に感染することもあります。
猫風邪の原因となるヘルペスウイルスやカリシウイルスは、感染力が非常に強いです。
猫風邪は昔からある病気です。一頭でも猫風邪にかかっている猫がいれば、一気に広がります。つまり、地域猫は基本的に猫風邪にかかっていると考えた方がよいということ。猫を外に出したり、お散歩をさせて地域猫とふれあったりすることは控えた方がよいでしょう。
さらに、人の手に感染猫の分泌物がつき、その手で別の猫にふれることでも感染します。人間の手を介した感染を防ぐためにも、猫を飼っている方は、地域猫に触らないほうがよいでしょう。
また、猫風邪は母親から子どもへも感染します(これを垂直感染といいます)。そのため、生まれたばかりの子猫でも猫風邪に感染していることは十分に考えられます。
猫風邪の多くはウイルス感染です。ウイルスが粘膜に感染し、そこに細菌の二次的な感染も同時に起こるケースが多いです。そのため、猫風邪の治療は抗生剤や抗ウイルス薬を使用するのが一般的です。
薬の形状としては、飲み薬(錠剤・粉・液体)や、点鼻・点眼薬といった形で処方されることが多いです。
もちろん自然治癒する場合もあります。しかし、猫風邪が進行すると肺炎や呼吸困難など、重症化する可能性があります。体調が悪く何日もご飯を食べなければ、猫は脂肪肝になることもあります。
こういったことを防ぐためにも、しっかり病院で治療してもらうほうがよいでしょう。
動物病院は自由診療なので、診療費に決まりはありません。そのため、地域や病院によって費用は大きく異なります。
また一口に猫風邪といっても、重症度によって治療は大きく変わってきます。少し薬を飲んだら治る場合もありますし、重度な場合は入院が必要な場合もあります。
具体的な費用を知りたい場合は、かかりつけの病院または最寄りの病院に問い合わせてみてください。
猫風邪が人間にうつることはありません。逆に、人間の風邪が猫にうつることも基本的にはありません。そのため、猫と人との間の感染は心配しなくて大丈夫です。
しかし上述の通り、人間の手を介して、猫と猫の間で感染が成立することはあります。感染を広げないために、きちんと手を洗うことをおすすめします。
名前に風邪が入っているため、「寝ていれば治るでしょ」と考える人もいます。しかし、甘くみていると痛い目にあうこともあります。ここでは、注意が必要なケースを紹介します。
生後半年以内の若齢な猫では、感染の影響を受けやすくなることがあります。
ご飯を食べなくなることによって体力が低下したり、肺炎などに進行して重症化したりする可能性がより高くなります。特に若齢のうちは早めに治療を受けるよう心がけましょう。
老齢の猫の場合は、重症化して命に関わるケースは比較的少ないです(もちろん絶対ではありませんが)。どちらかといえば、元気だけれど慢性的に鼻水が出ていたり、目をかゆがっていたりすることが多いです。
老齢の場合は、猫風邪以外の病気に注意しましょう。慢性的な鼻炎を引き起こす病気は、猫風邪だけではありません。特に歯からの重度な感染や、鼻の腫瘍などは命に関わることもあります。
老齢で慢性的な鼻炎がある時は、CTを含めた精密検査も推奨されます。
猫風邪は結膜炎を引き起こしますが、目の表面(角膜)にも感染します。目の表面に感染をすると角膜に傷が出来てしまうことも知られています(角膜潰瘍)。
放置すると角膜に穴が空いてしまい、目の中にあるものが出てしまうこと(角膜穿孔)も報告されています。進行すると傷が深部におよぶ角膜穿孔となる場合もあり、手術が必要となる場合があります。
また、そこまで進行しなくても目の表面が白く濁ったり、瞼などと癒着して目が開かなくなってしまったりと、失明のリスクもある病気なのです。
猫風邪には、なかなか治らない難知性のものも存在します。そこには、猫風邪のウイルスの特性が関係しています。
特に猫ヘルペスウイルスは、感染後に神経内に潜伏します。潜伏中はほぼ症状がないですが、一度潜伏すると体から完全に取り除くことは難しくなります(症状が無くなっても、体に残り続けます)。
そして、ストレスがかかったり免疫力が低下したりするタイミングで再度活性化し、症状が再発します。
また、慢性副鼻腔炎になった場合も完治が難しくなります。初期の段階で適切に治療されないと、かなり長期的な治療が必要になることもあります。
猫風邪は感染症です。正常の猫であれば命に関わることは多くありませんが、免疫力が低下すると話が変わってきます。猫エイズや猫白血病の場合、免疫抑制が起こってくる可能性があります。
もちろん全ての症例が免疫抑制の状態になるわけではありませんが、もしそうなってしまった場合、コントロールが難しくなる可能性があります。重症化したら、亡くなってしまうリスクもあるため注意しましょう。
猫風邪は感染力が非常に強く、いくら気をつけても感染する可能性はあります。
現在、もっとも効果の高い予防方法はワクチン接種です。特に、生後4ヶ月前後のワクチン接種が重要です。具体的な接種方法はいくつかあるので、気になる方は近くの病院に問い合わせてみてください。
ただし、ワクチンを接種したら100%防げるわけではありません。ワクチンを接種しても感染リスクはあるため、感染している可能性がある猫との接触は避けるようにしましょう。
地域猫は、症状がなくとも病原体をもっている「キャリアー」の可能性もあります。上述の通り猫風邪は垂直感染もしますので、生後すぐの子猫でも例外ではありません。新しく猫を拾ってくる場合は十分注意が必要です。
猫のくしゃみや鼻水などの原因が、猫風邪であるケースは多いです。しかし、猫風邪と決めつけて思わぬ落とし穴にはまってしまうこともあります。ここでは、猫風邪以外の原因を3つ紹介します。
鼻の腫瘍というとピンとこない方も多いと思いますが、猫では鼻の腫瘍は発生率が高く、腫瘍全体の1~8.4%とされています。しかもほとんどが悪性腫瘍です。
腫瘍のタイプによって治療方法や寿命は変わりますが、難しい病気も多いので、鼻炎だからといって舐めてかかるのは危険です。特に高齢のくしゃみや鼻水には注意しましょう。
猫の歯と鼻は非常に近いところにあります。歯石や歯周病など、歯に感染があるとそこから鼻へと感染が波及していくことがあります。
当然鼻炎の原因になりますので、重度な場合は麻酔をかけての歯石除去や、抜歯が必要になるケースもあります。
猫でもアレルギー性の鼻炎はあります。その原因は多岐にわたり、花粉、たばこ、香水、芳香剤、新しいペットの毛などがあります。しかし、人間と違ってその原因を突き止められないことも多く、対症療法がメインになります。
アレルギーの原因となりうる物質を排除し、抗アレルギーを使用することが多いです。
猫のくしゃみや鼻水が増えたら、猫風邪の可能性があります。猫風邪は命に関わらないこともありますが、甘くみていると痛い目に遭ってしまうこともあります。また、くしゃみや鼻水は猫風邪意外にも怖い病気はたくさんあります。
基本的には早めの検査や処置が推奨されますので、あまり様子は見ずに病院へ連れて行ってあげてください。