日本の天然記念物にも指定されている、柴犬。古来から日本人の狩猟の伴侶として、山間部を駆け巡ってきたタフな犬種です。 飼い主さんに忠実なところも柴犬人気の拍車をかけているといえるでしょう。今回はそんな柴犬との暮らし方をお話していきます。
もくじ
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三角の立ち耳、くるんと巻いた尾、素朴でどこか懐かしい顔立ち。その忠誠心の高さや一途さも相まって、柴犬は世界的にも人気のある犬種です。その柴犬について、まずは基本的な事柄を見ていきましょう。
日本犬保存会では「柴犬」一種として登録されていますが、日本に古くから暮らす柴犬たちには、地域ごとに特徴を持つ「地柴(じしば)」が存在します。
現在の柴犬のルーツとなったのが、かつて長野や群馬の山間部で狩猟犬として活躍していた信州柴犬。現存する柴犬の99%が信州系と言われています。柴犬の特徴として挙げられるクールさなどは、信州柴犬が狩猟犬だったところから引き継がれていると言えるでしょう。
「緋赤」と呼ばれる鮮やかな毛色が特徴で、朝日や夕日に当たると燃えているかのように美しく輝きます。岐阜県で古くから飼われていた地柴ですが、現在では希少。タヌキ顔の愛らしい顔立ちの犬が多く、性格も比較的人懐っこいようです。
頭が小さくスリムな体型をしていて、赤みがかった被毛が基本。全体的に小柄でキリリとした印象です。背中と平行に沿った「差し尾」や、尾が上向きの「太刀尾」の出現率が高く、温和で無駄吠えが少ないと言われています。一時は絶滅の危機となりましたが、地元の保存活動によって少しずつ飼育頭数が回復してきました。
ニホンオオカミの血を色濃く受け継いでいると言われ、長野県の天然記念物に指定されている希少種。「秩父山塊のヤマイヌが、猟師によって飼い慣らされた」との言い伝えもあり、外見や性格も野性的です。やはり一時は数が減少し、現在は地元の保存会が熱心に活動しています。
「地柴」とは違い、縄文時代の遺跡から出土した骨を元に、当時の犬を理想として改良を重ねて誕生した柴犬をこう呼びます。特徴は額の段差がごく浅く、大きな歯を持っていること。筋肉質なアスリート体型で、面長なキツネ顔をしています。
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柴犬の大きな特徴のひとつが、現在の言い方でいうところの“ワン・オーナー・ドッグ”であること。「飼い主さんには従順ですが、他の人や同居犬以外には関心を示さない」という性格の柴犬が多数いるでしょう。家族の中でも、誰か一人に絞って忠誠を示す柴犬もいます。
そんな柴犬には、可能な限り幼い子犬期から、人や他の犬に慣れる社会化をしっかり行いたいものです。ワクチンプログラム終了前は、抱っこ散歩でたくさんの人に触れ合わせ、おやつをあげて撫でてもらってください。
そうして社会化を強化しても、ある程度の年齢になってから、他の人や犬を受け付けなくなる柴犬もめずらしくありません。もし愛犬がそうなってしまったからと言って、落胆は不要です。
「柴犬だもん。そういうもの」と割り切って、無理強いせず、他の人や犬と適度な距離を置いて生活するのが良いでしょう。
また、飼い主さんに対しても、洋犬のようにベタベタと甘えてこない柴犬も多数。愛犬に距離を置かれているような気になって物足りない部分もあるかもしれませんが、それもまた、柴犬ならではの魅力と考えて、ありのままを受け入れてあげましょう。
縄文時代から猟犬として飼われ、日本人と共にずっと歩んできた柴犬。愛玩犬ではなく、猟犬・番犬として長く活躍していたことは、柴犬の特徴や性格を理解するために欠かせない知識です。
明治時代になって日本が開国し、多くの洋犬がやってきたことで、純血の柴犬は次第に数を減らしていきます。そこで日本犬を守るため、1928年に「日本犬保存会」が設立。1936年には天然記念物に指定されました。
これで絶滅の危機を免れたと思いきや、戦後の食糧難や大流行したジステンバーという伝染病によって、多くの柴犬が犠牲になりました。そこから保存会や愛好家たちの熱心な活動によって頭数が回復し、現在に至ります。
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柴犬の価格は15~30万円ほど。(2021年8月時点)犬の値段は性別、血統、毛色、チャンピオン犬かどうか、購入方法などによって変動します。
柴犬は人気の犬種ですので、多くのペットショップで出会うことができます。店員さんに相談すれば飼育に関するアドバイスをもらうこともでき、必要なものをその場で購入することができるのもメリットです。月齢がある程度いった子犬ならワクチン接種、簡単なしつけが済んでいるケースもあります。
ブリーダーさんから迎え入れる場合、ペットショップよりも親犬の情報が得やすく、実際に会わせてもらえることもあります。
中には劣悪な環境で繁殖している業者もいますので、飼育環境などの質問にもきちんと答えてくれる、信頼できるブリーダーさんを見つけましょう。
柴犬は野生に近い犬種のため、なかなか懐かない、問題行動を起こす…というケースが多く、初めて犬を飼う人には柴犬の里親になることはおすすめしません。
しかし、柴犬の保護犬は非常に多いので、犬の飼育経験がある人は、ぜひ検討してみてください。里親になる場合は必ずトライアル期間がありますので、そこで相性を確認することもできますよ。費用は、医療費やワクチン費用以外は基本的に無料です。
どの方法で迎えた場合も、役所への登録料や狂犬病、混合ワクチンなどの予防接種・健康診断の費用として2~3万円ほどがかかります。
子犬の場合、母乳中に含まれる母犬からの免疫(移行抗体)が徐々に消失していきますが、移行抗体が残っている時期においては、ワクチンを接種しても効果が十分に得られないため、何回かの追加接種が必要となります。0歳であれば2〜3回の接種が必要だと考えましょう。
さらに生活用品(サークルやトイレなど)の購入費としては2~4万円ほどをみておくと良いでしょう。
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柴犬の平均的な飼育費用は、1カ月12,000~16,000円ほど。1年あたり15~20万円になります。
まずはフードやおやつといった食費。価格はピンキリですが、平均すると1カ月6,000~7,000円。
トイレシーツ、シャンプーなどの日用品が1カ月5,000円ほど。
また、シャンプーなどのお手入れをトリミングサロンにお願いする場合は、その費用も必要になります。
フィラリアやノミ・ダニの予防薬なども含め、健康であっても年間医療費として5〜7万円ほどは必要でしょう。1カ月にすると4,000円ほどです。1歳以降は年に1回の予防接種(狂犬病・混合ワクチン)があります。
初めて犬を飼う方の盲点となるのが、ペットの医療事情です。ペットには公的な医療保険がなく、治療費は全額自己負担となります。自由診療のため病院によって料金が異なる点が、人とは違います。
子犬期は、異物誤飲や膝蓋骨脱臼(パテラ)が起こりやすいです。膝蓋骨脱臼で手術が必要となった場合、治療費が50万円を越えたケースもあるので、住環境を整えるなど事前に予防しましょう。
ペットの年齢によって保険料は変わりますが、中型犬の場合、1カ月1,800~5,000円*ほど。0~3歳の間に加入するケースが多いです。
ペット保険は、健康でないと加入できず、加入可能年齢が「満7歳まで」のように制限のある場合がほとんど。人間と同じように犬も年齢が上がれば病気のリスクも上がるため、早めに加入したいものです。
ペット保険はたくさんの種類があり、どれも同じように見えるかもしれませんが、各保険商品によって補償内容は大きく異なります。
保険料だけではなく、補償内容をよく理解し、最もご自身に適した保険を選ぶようにしましょう。
*参照:慢性疾患にも、高額治療にも対応したペット保険!ペット&ファミリー損害保険「げんきナンバーわんスリム プラン50」
その他にもトレーニング料、洋服、エアコンなどの光熱費などもかかってきます。
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家庭犬としての人気が高い柴犬ですが、愛玩犬グループに属するような小型犬や中型犬と比べ、一緒に暮らすには少し覚悟が必要になります。
まず満たしてあげたいのは、運動欲求。イノシシ猟やクマ猟で活躍した柴犬は、高い運動能力を備え、起伏のある野山を駆け回りたいという欲求が生まれつき備わっていると言っても過言ではありません。
可能な限り、毎日1~2回は散歩に行ってあげましょう。ただ歩くだけでなく、小走りをしたり、公園でロングリードにして走らせたり、ボール遊びをしたり、変化に富んだ運動を提供してあげれば、きっと愛犬の満足度もアップするはずです。
さらに、散歩は体だけではなく脳の運動としても意義が深いもの。散歩中に、呼び戻しやアイコンタクトなどのトレーニング的な要素を取り入れ、かつての柴犬が猟を行っていたようなシチュエーションを模倣して“作業意欲”を満たしてあげるのもおすすめです。
室内では、長時間かじれるタイプのおもちゃや、内部にフードやおやつを仕込める知育玩具などが、柴犬たちの日々の充足感を高めるアイテムとして有効活用できます。
運動欲求や作業意欲を満たしてあげないと、柴犬はストレスが溜まって、いわゆる問題行動と呼ばれるような、飼い主さんからすると困った行動を見せるようになるかもしれません。
たとえば、家具などをかじる破壊行動や、過剰に吠えるといった行動です。
そうした問題行動は、散歩時間を増やしたり、散歩の質を高めたり、室内でトレーニングなどをして作業意欲を満たすことで解消されるケースが少なくありません。
まずは、スキンシップに慣れさせる
柴犬は生粋の日本犬。日本人同様、スキンシップが苦手です。そのため、ブラッシングや歯磨きや爪切りなどを嫌がる傾向にあると、多くのトリマーやドッグトレーナーが口をそろえます。
柴犬と暮らし始めたら、早期に、口、足先、体全体などを触っても抵抗感を抱かないように練習をしましょう。おやつを使って、愛犬がおやつをかじっている間に体を触って慣らしていく方法がおすすめです。
歯磨きは無理をせず、最初のうちは歯を触らせてくれたらほめておやつをあげるところからスタートしてください。
柴犬に限らず、犬は歯周病になりやすい動物です。歯周病菌が原因で、臓器に悪影響がおよぶこともあるので要注意。歯ブラシを使ってのケアができる柴犬になるよう、楽しみながら練習を行いましょう。
ブラッシングも柴犬には必須のケア。春と秋に訪れる換毛期で、大量の抜け毛が発生します。それをブラシで取り除いてあげないと、体が蒸れて皮膚病にかかるリスクが高くなってしまいます。
換毛期には毎日、ピンブラシかスリッカーブラシでブラッシングを行ってあげてくださいね。換毛期以外でも、週に数回はブラッシングをして、健やかな皮膚と被毛を保つように心がけましょう。
柴犬は手作り食も大丈夫ですが、栄養バランスの取れた食事を用意するには専門知識が必要になりますので、やはり基本的にはドッグフードを活用しましょう。
「一般食」と表記されているものは副食(おかず)ですので、主食は必ず「総合栄養食」と表記されているものを選びます。
成長段階に合わせてカロリーや栄養が調整されていますので、愛犬に合ったものを与えてください。食いつきが良いか、健康なうんちが出ているかもチェックしましょう。
ガムやジャーキーなどの「おやつ」は肥満などに繋がるので、1日の食事量の20%ほどに抑えて。おやつを与えたら、食事はその分を減らして与えます。
また疾患を抱えている場合は、病院で相談した上で療法用のフードを与えましょう。
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柴犬は病気になりにくいタフな犬種と言われていますが、やはりかかりやすい病気もあります。
柴犬に多いのが皮膚トラブルです。アレルギー性皮膚炎はその名の通り、アレルギー反応によって生じる皮膚炎のこと。激しいかゆみや湿疹が起き、脱毛が見られることもあります。
かゆがる様子や赤い湿疹が見られたら、早めに受診しましょう。放置すると掻きむしった傷から細菌感染などを起こす可能性があります。
アレルゲンの種類はノミ・ダニやハウスダスト、花粉、食物など様々。愛犬の様子をよく観察し、アレルギー検査なども行って、早めにアレルゲンを特定して除去するようにしましょう。
アレルギー性皮膚炎のうち、ハウスダストや花粉といった環境中にあるアレルゲンによって起こるものをアトピー性皮膚炎と呼びます。
3歳頃までの若いうちに発症することが多く、目の周りや耳の中、脇、股、足先などをかゆがることが多いでしょう。
治療は症状を緩和する対症療法となります。かゆみを抑える薬を服用し、専用のシャンプーなどを使ってスキンケアを行います。皮膚ケア用のフードやサプリを取り入れている飼い主さんもいます。
完治は難しいと言われているので、上手に付き合っていくことが大切になります。
アレルギー性皮膚炎の柴犬が同時に起こしやすいのが耳介から鼓膜までの外耳に発症する外耳炎。アレルギーだけでなく、耳に異物が入る、寄生虫が寄生するなどの原因で起きることもあります。
耳をかゆがっていたり、首を振ったりする仕草が見られたら、耳をチェックしてみましょう。赤みや悪臭、耳垢の増加などが見られたら、早めに受診してください。
自宅で飼い主さんが耳そうじをすると、傷つけたり炎症を悪化させてしまう場合もありますので、注意しましょう。
膝蓋骨とは簡単に言うと膝のお皿のこと。それが本来、はまっているべきくぼみからずれてしまうのが、膝蓋骨脱臼です。
脱臼の程度により4つのグレードに分けられ、手で押したときに脱臼するが、指を離すともとにもどる“グレード1”から、常に脱臼していてもとの位置に戻せない”グレード4”があります。
症状は、「ときどき片足を上げる、痛み」などがありますが、グレード4でも無症状のこともあり、症状とグレードの分類に相関性はありません。重症例では、関節の可動域がせばまり、うまく歩けなくなることがあります。
膝蓋骨脱臼のある足をかばううちに他の足に負担がかかることもあります。少しでも歩き方に違和感を感じたり、痛そうな素振りが見られたら、獣医師に相談してください。
症状がなくても体重管理には気をつけ、床が滑りやすい場合はマットを敷くなどして、膝に負担がかからないようにしましょう。
眼球の中にある眼房水(がんぼうすい)が増えてしまうことで眼圧が上がり、視神経の損傷を起こす病気です。先天的な要因で起こる場合と、ぶどう膜炎などの目の病気によって後天的に起こる場合があります。
痛みや違和感が起こるため、目をしょぼしょぼさせたり頻繁に目をかいたり、なでると嫌がったりという様子が現れます。目が大きく見えたり、充血が起きている場合もあるでしょう。
治療は点眼薬の投薬や外科治療によって、眼圧を低下させる処置を行います。処置が遅れると失明することや眼球摘出を行う場合もあります。予防法はないので、日頃から目の異変がないかをチェックし、定期的に目の検査を受けることが大切です。