すでに「マウンティング」という言葉が社会に広がって久しいですが、本来は動物の本能的なある行為からのネーミング。どうしてうちの子はほかの子に「マウンティング」してしまうのかしらとお悩みの方、必読です。
犬のマウンティングとは?
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やたらと自慢したり自分の優位性をアピールする言動のことを「マウンティング」と呼びますが、元々は動物の特定の行動のことを指します。犬も当然、動物なので「マウンティング」を行います。犬の他には、猫、ウサギ、サルなどにも見られます。
犬のマウンティング
犬のマウンティングとは、具体的には「犬が他の犬や人間に抱きつき、自分の腰を押しつけたり、腰を振る動き」を指します。交尾時のオスの行動と似ていますが、性的な目的で行っているとは限りません。
オスに限らず、メスもマウンティングを行う場合があることからも、ほとんどの場合は遊びなど別の目的や理由があると言われています。
特に子犬たちが、じゃれ合いながら上になったり下になったりしている場合は、遊びの一環と言えるでしょう。遊びながら、犬同士の社会ルールの学習や関係性の構築をしていくのです。
マウンティングの有無は個体差による
マウンティングは、本能的な行動ですが誰もがするわけではなく、個体差が大きいもの。
多くは生後6ヶ月頃から行うようになります。しかし、早ければ3ヶ月頃から見られる場合もありますし、成犬になってもまったく行わない犬もいます。大人しい性格の犬や情緒が安定している性格の犬は、行わないことが多いようです。
犬がマウンティングをする理由
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それでは、一体犬はなぜマウンティングをするのでしょう?マウンティングする理由は、実はひとつではないのです。その犬によって、状況によって様々な理由があるので、ひとつずつ見ていきましょう。
示威行為のマウンティング
いわゆる「マウンティング」という単語から想像できるように、相手に「自分のほうが強いんだぞ」という示威行為が考えられます。これは犬らしい、わかりやすい行動だと思います。
猫の場合、多頭飼いを始めたときに、先住猫が新入り猫にマウンティングすることがあります。これは、「自分のほうが先輩だぞ」「ここは自分のなわばりだぞ」というような、優位性を誇示するためのマウンティングでしょう。
発情の際のマウンティング
発情における性衝動としてのマウンティング。オスはヒート中のメスの匂いで発情します。本能的な行動のマウンティングですので、悪いわけではありません。犬を責めるのではなく、人間がきちんと管理することが大切です。
発情期以外に性衝動としてのマウンティングを行うことはありません。交配経験のあるオスにとっては、「発情」はもっとも強い衝動のマウンティングと言えるでしょう。
興奮の際のマウンティング
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「興奮」によるマウンティング。個人的な見解ですが、このパターンがいちばん多いのではないかと思います。
遊んでいる時に愛犬の“興奮スイッチ”が入り、急に猛スピードで走り出したり、ぬいぐるみやクッションにマウンティングしたりしますよね。
これは興奮が抑えきれずに「バランスをとる」行動のひとつと言えるかもしれません。クールダウンをする前段階、というわけです。
興奮しやすい性格
興奮しやすい性格の犬やお調子者で明るい性格の犬はマウンティングしたくなる状況が多くなります。
冒頭でお話ししたように、「大人しい性格の犬や情緒が安定している性格の犬は、行わないことが多い」と言われるのは、こういった理由によるものです。
嬉しさ・楽しさから興奮する
一方で、遊んでいるうちに興奮して、嬉しさや楽しさのあまりマウンティングを行う場合もあります。飼い主さんに対してマウンティングするときは、このケースが多いです。
マウンティングに驚いて、飼い主さんが騒ぎ立てると「構ってくれている」と誤解し、遊んでいないときに「構って!遊んで!」という気持ちの表現として、マウンティングするケースも。
女性の方がマウンティングされやすい?
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人間にマウンティングをする場合、男性よりも女性に対して行う傾向があります。これは女性の匂いやホルモンに反応しているというより、女性のほうが犬に優しく、マウンティングをしても叱られにくい傾向があることが大きな理由でしょう。
物に対してマウンティングを行う場合
犬や人間ではなく、物に対してマウンティングすることもあります。物に対して発情するわけはありませんし、物に対して「自分のほうが上」と優位性を誇示するのは考えにくいです。どういう理由なのでしょう?
興奮している
多くは、先程もお伝えした“興奮スイッチ”によるもの。楽しすぎて、そのエネルギーを発散させるために行うケースです。
ストレス・怒り・不安を発散している
「楽しい」という感情だけでなく、ストレスや怒りといった負のエネルギーを発散させるために行うことも。不安な気持ちになったときに、落ち着こうとして行うこともあります。
- 来客があった後
- 動物病院に行った後
- 普段は行かない場所にお出掛けした後
などに見られた場合は、そのストレスが原因かもしれません。
独占欲
「これは自分だけのもの!」という独占欲の現れとしてのマウンティングもあります。お気に入りのおもちゃやぬいぐるみを独り占めしたい!という気持ちですね。単なる退屈しのぎでやっていることもあります。
マウンティング中に出る液体の正体は?
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マウンティング中、性器から液体を出す場合があります。マウンティングの動きは性行為と似ているので、焦ってしまいますよね。
マウンティング中に赤い性器が露出していたら、それは犬が興奮している証拠です。興奮といっても性的なことというわけではなく、遊びに熱中している興奮や飼い主さんが帰宅した嬉しさでも起こります。
性器から出た液体の正体は、「精液を含む分泌物」か「尿」だと言われています。ほとんどの場合は「尿」ですので、いわゆる“嬉ション”のようなものと言えるでしょう。
ただし、性器はとてもデリケートな部位ですから、マウンティングを頻繁に行っていると、傷ついてしまうことがあります。その傷が化膿(かのう)して、包皮炎(ほうひえん)などを起こしてしまうかもしれません。
そうなると、受診して治療を受けたり、薬を飲んだり、エリザベスカラーなどで行動が制限されたり…と、犬にとってはストレスが増えてしまうことになります。そうなる前にマウンティングをやめさせたほうが、犬自身にとっても良いでしょう。
マウンティング行動の影響
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この「マウンティング」をどうするか。結論から言えば、「やめさせるべき」です。
マウンティングは習慣化しやすい
マウンティングは習慣化しやすいと言われています。クセになってしまうと、やめさせることが難しくなります。
興奮を鎮めるためにマウンティングしているうちに、マウンティングでしか興奮が鎮められないと思い込んでしまうのです。
あまりクセになると、マウンティングが常同行動(目的もなく同じ行動を病的に繰り返すこと)になってしまう場合もあります。
常同行動の代表例としては、自分のしっぽを追い続ける、体の一部をなめたりかいたりし続ける、といった行動が挙げられます。
肉体的な影響
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精神的な問題だけでなく、肉体的にもマウンティングは問題があります。
マウンティングによる無理な体勢から腰や股関節に負担がかかり、ヘルニアになることもあるのです。
元々腰痛や関節痛など、足腰にトラブルを抱えている場合は、さらに悪化してしまうかもしれません。
先程もお話ししたように陰部に傷がつく可能性も高く、マウンティングは愛犬の健康にも関わることなのです。
マウンティングされている犬への影響
犬相手にマウンティングをしてしまう場合は、相手の犬に精神的・肉体的な苦痛を感じさせてしまうことがあります。
遊びのつもりでマウンティングをしたつもりが、相手の犬が腹を立てて攻撃的に反応し、ケンカになってしまうことも。マウンティングが思わぬケガやトラブルを引き起こすこともあるのです。
相手が大人しくじっとしていても、もしかしたら恐怖で動けなかったり、逃げられなかったりしているのかもしれません。忍耐強い犬がケンカを避けるために、我慢していることもあるでしょう。
気の弱い犬がそれをきっかけに犬嫌いになってしまう可能性もあります。他の犬にマウンティングしていることに気付いたら、すぐにやめさせましょう。
主従関係への影響
飼い主さんに対してマウンティングする場合。放置すると、主従関係が崩れてしまい、飼い主さんの言うことを聞かなくなる危険性もあります。
マウンティングのすべてが示威行為ではありませんが、少なくとも格上と思っている犬に対しては行わない行動です。
飼い主さんへのマウンティングは、嬉しくて興奮しているために行うケースがほとんどですが、きっぱりとやめさせたほうが良いでしょう。
人がケガをする恐れも
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家族にお年寄りや小さなお子さんがいる場合は、マウンティングのはずみに人間側がケガをしてしまう危険性もあります。飼い主さんだけでなく、家族や他の人たちにマウンティングするのもやめさせましょう。
マウンティングはマナーの問題
「愛犬が他の犬にマウンティングをしてしまった」「他の飼い主さん、ご近所さんにマウンティングをしてしまった…」いずれにしても人間社会において、あまり品のよい行動には見えませんし、トラブルに発展しかねません。
犬たちは自由気ままに行動したがりますが、そうもいかないのがこの人間社会です。私たちが、犬とより良く暮らしていくためにはルールだけではなく、マナーも遵守しなければなりません。誰だって自分の愛犬がマウンティングされたら、不愉快になるものです。
大切なのは「犬をちゃんと見ている」こと
多くは飼い主さんが目を離しているところで、犬たちは問題行動を起こします。目を離さなければ、トラブルになる前にすぐ対処できるのです。
「犬をちゃんと見ている」飼い主さんは、愛犬との信頼関係を大事にしている人が多いです。いつも気にして、見守ってあげること。それを徹底すれば、マウンティングをやめさせることができるでしょう。
マウンティングをやめさせる方法
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では、どのようにしてマウンティングをやめさせたらいいのでしょうか。
大切なのは、マウンティングに対して毅然とした態度で「ノー!」を示すこと。そしてマウンティングしたくなる状況を避け、環境を改善することです。
散歩中のマウンティングの対処法
1)リードを引いて止める
散歩中にマウンティングしようとしたら、リードを引いて止めましょう。大きな声で叱ると「構ってくれる」と勘違いすることがあるので、無言で行います。
「そのマウンティング行為は不快である」という飼い主の無言の圧力を持って、確実に止めることが重要です。
2)他の犬と距離をとる
愛犬が犬相手にマウンティングしてしまう場合は、他の犬とは距離を置いてすれ違うなど、前もって予防することをおすすめします。
ドッグランのような飼い主さんのコントロールが効かない環境に行くことは、マウンティングのクセが落ち着いて、呼び戻しがしっかりできるようになるまで、やめておきましょう。
飼い主・家族へのマウンティングの対処法
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1)無視する
自分や家族に対してマウンティングしようとしたら、すぐに体を引き離して無視します。自宅であれば、別の部屋に移動してしまってもいいでしょう。
無視というのは犬にとって、非常に効果的なメッセージ。「マウンティングをすると相手にしてもらえない」と覚えれば、人間へのマウンティングは減っていくはずです。
2)必ず一貫した対応をする
無視するのが難しいようなら、一言だけ「ノー」「ストップ」ときっぱり言って、犬からすぐ離れること。必ず一貫した対応を取るように心がけてください。「まあいいか」とその時々で対応を変えてしまうと犬が混乱してしまいます。
3)ハウスに入れてクールダウンさせる
また「ハウス」のコマンドを覚えている犬であれば、ハウスに入れてクールダウンさせることも効果的です。
ただし、ハウストレーニングが完了していない犬を無理にハウスに入れると、ハウスを嫌いになってしまう可能性がありますので、注意してください。
発情によるマウンティングの対処法
本能的なマウンティングですが、以下の方法で対処することができます。
1)未去勢の犬の場合
未去勢のオスは、他のメスに近付きすぎないようにしましょう。
2)ヒート中のメスの場合
ヒート中のメスは、散歩を最小限に抑えるなどの配慮をしたりして、無用なトラブルを回避するようにしてください。
3)去勢・避妊手術をする
「去勢・避妊手術をする」というのも、マウンティング対策に有効と言われている方法です。
さらに、去勢・避妊手術は望まない妊娠の回避や様々な病気の予防にもなります。
手術後はマウンティングしなくなるケースが大半ですが、手術後もマウンティングする犬もいます。手術したからと言って必ずマウンティングが収まるわけではありません。
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ストレスからくるマウンティングの対処法
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決まった原因が見つからないようであれば、慢性的なストレスがマウンティングを引き起こしている可能性があります。
ストレスや「構ってほしい」という気持ちから、マウンティングをする場合。普段の生活だけでは、有り余ったエネルギーを発散させられず、イライラしているのかもしれません。
1)運動量を増やす
散歩や遊びの時間を増やし、運動量を増やしながらコミュニケーションを積極的に取ってみるとよいでしょう。散歩や遊びの時間を増やしただけでマウンティングをしなくなるケースもありますよ。
2)コマンドの復習をする
先程お話しした、コマンドの復習も愛犬とのコミュニケーションになります。愛犬との信頼関係をキープにも役立ちます。
物に対するマウンティングの対処法
1)対象となる物をあらかじめ片づける
ぬいぐるみなどにマウンティングしているのなら、ぬいぐるみは片づけてしまいましょう。おもちゃなども同様です。マウンティングしたくなる環境を物理的に変えていきます。
ただし、マウンティングしているときに、その対象をいきなり取り上げたり手を出すのは禁物。犬が怒って噛みつく場合があるからです。
2)気をそらせて、回収する
マウンティングの前に止められなかったときは、名前を呼ぶ、他のおもちゃを投げる、など気をそらせてから、マウンティングの対象を回収しましょう。
このときのおもちゃはボールやロープなどでも構いませんが、じっくり取り組める知育玩具がおすすめです。
夢中になっている間に、マウンティングの対象物を片付けることができますし、頭を使った遊びによってエネルギーを使い、ストレスを発散させられます。
3)「フセ・マテ」を使う
「フセ」「マテ」といったコマンドのトレーニングがしっかり出来ている場合は、コマンドを使うのも非常に有効です。
マウンティングを始めてからやめさせるのは大変
(KPhrom/shutterstock)
いずれのケースも、マウンティングを始めてしまうと犬は興奮状態になっているので「やめなさい!」と言っても聞こえません。
逆に飼い主さんの大声を「構ってくれた!」と勘違いして、さらに興奮してしまう場合もあります。マウンティングを始めようとしたときにタイミングを逃さず、毅然と対処しましょう。
何度も繰り返しているうちに、愛犬もなんとなくマウンティングという行為を飼い主さんが望んでいないことがわかってきます。根気強くしつけていけば、そのうちにやらなくなるようになります。
愛犬がマウンティングしやすい状況を把握する
愛犬をよく観察するうちに、愛犬がマウンティングをしやすい状況がわかってきます。
- 初対面の犬と会ったとき
- 仲の良いご近所さんに会ったとき
- 予防接種などの苦手なことがあったとき など
そういった傾向を掴むことで、気を配るべきタイミングがわかるようになります。マウンティングの原因がわかれば、解決への糸口が見つかるでしょう。
愛犬との主従関係・信頼関係を構築する
肝心なのは、飼い主さんと愛犬の主従関係・信頼関係をしっかり構築することです。そのベースがあれば、愛犬は飼い主に従ってくれるはず。
「オスワリ」「フセ」などのコマンドをしっかり教えておけば、マウンティングしそうになったときや興奮しはじめたとき、クールダウンさせることができます。
コマンドに従って冷静になれたときは、必ず褒めてあげましょう。最近、コマンドをあまり使っていないと感じたら、愛犬と一緒に復習してみるのもいいでしょう。
病気と考えられる場合
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マウンティングは、病気のサインである場合もあります。泌尿器系が感染症を起こしたりして、性器や足の付け根あたりにかゆみなどの不快感があると、マウンティングを行いがちになります。
- 性器周辺や足の付け根をよく舐める仕草
- 尿漏れなど排泄関係の変化が見られる
マウンティングと並行して、上記の行動がみられる場合、泌尿器系のトラブルを起こしているかもしれません。一度動物病院を受診してみたほうが良いでしょう。