みなさんも聞いたことがあるかもしれませんが、犬は雑食に近く、人間のようにある程度何でも食べられます。しかし人間には問題ないけれど、犬には有害な食物はたくさんあります。今回はその代表格「ぶどう」についてお話していきます。
もくじ
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完全肉食の猫とは異なり、犬は肉以外にも色々なものを食べることができます。必要な栄養素は総合栄養食のフードで十分摂取できますが、栄養補給のためにゆで野菜をトッピングしたり、おやつに果物をあげているという飼い主さんも多いでしょう。
しかし、人間には害がないけれど犬には有害な食べ物もあり、時には命に関わることも。甘くてジューシーな秋の味覚・ぶどうも、中毒を起こす危険性があるため、絶対に食べさせてはいけない食べ物のひとつです。
一部では「犬はぶどうを食べても大丈夫。犬がぶどうを食べていけないというのはデマ」という意見もあるようですが、ぶどうによる中毒症状は報告されています。
「犬にぶどうをあげてはいけない」と広まったのは、2001年にアメリカの研究者らによって犬のぶどう中毒が報告されたことが始まりです。
犬43頭が、ぶどうや干しぶどうのどちらか、またはその両方を摂取した後に腎機能障害を発症し半数の犬が急性腎不全で死亡したというものでした。日本でも、ぶどうや、ぶどうの皮、レーズンなどを摂取して死亡した症例が報告されています。
ぶどう中毒の原因物質として農薬、カビ毒、ぶどう由来の未知の成分など考えられていますが、未だ特定はされておらず、近年では特異体質が原因か?と考えられています。
では、犬がぶどう中毒になるとどのような症状が生じるのでしょうか?
共通している症状としては、摂取後数時間以内の嘔吐です。嘔吐はほぼ全ての症例で認められています。その他、下痢や食欲低下、震え、呼吸速拍などを起こす子もいます。
また、病院での血液検査では、腎機能の指標となるBUN(尿素窒素)・CRE(クレアチニン)の急激な上昇、Ca(カルシウム)やP(リン)の上昇が認められます。
このCa(カルシウム)やP(リン)の値が高いほど回復に時間がかかります。これらの症状の原因の一つと考えられるのが急性腎不全です。
腎臓は体の中にたまった老廃物や余分な水分を外へ出して、血液をきれいにする大切な器官。そのほかにも血液を産生するホルモンを分泌したり血圧を調整したりと、生きていくのに欠かせない臓器です。
ぶどうを摂取したことによりその腎臓が急速に障害を受け、最悪の場合死に至ります。ぶどう中毒に対し特定の薬があれば良いのですが、ぶどう中毒は未だ原因もわかっていないため、対症療法が主体となります。
また症状も、急速に症状を発症して治療に一切反応せず数日以内に死亡する症例もあれば、後遺症が残る症例、元気に回復する症例など個体差があります。
それでは、どのくらいのぶどうやレーズンなどを摂取したらぶどう中毒になるのでしょうか?
研究者らの報告によれば、ぶどうは犬の体重1kg当たり3〜32g、レーズンは11〜30gと言われており、体重3kgの犬に換算すると、ぶどう2~3粒、レーズン50粒という計算になります。
しかし、ぶどう中毒は死亡するケースもあることから、仮に1粒でも危険だと認識している方が良いと思います。
実際に、たった1粒で中毒を起こしてしまう犬もいれば、3粒食べても症状が起きない犬もいます。「今までぶどうをあげても大丈夫だったから」と思っていても、急に症状が現れる可能性は否定できません。
生のぶどうだけでなく、ぶどうジュースやワイン、クッキーやパンに入っているレーズンなどにも注意したほうが良いでしょう。ぶどうの皮による中毒の症例もあります。ぶどうを食べた後、うっかりお皿に皮を放置したりしないよう、気をつけてください。
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もしも愛犬がぶどうやレーズンを食べてしまったら、大丈夫そうに見えても早めに受診したほうが良いでしょう。特に食べてしまった量が多い場合は、必ず受診してください。
その際は「食べてしまった時間、ぶどうの種類や状態(生かレーズンか、皮つきか、など)、食べた量、起きている症状」を伝えられるようにしておきましょう。
もし嘔吐・下痢や元気がないなど、いつもと違う様子が見られたら、すぐに受診してください。急性腎不全を起こしている場合、急いで治療をしなければ命に関わることもあります。
動物病院では、ぶどうを吐かせる処置や毒素吸着剤の投与を行います。状態によっては胃洗浄や点滴、血液検査などを行うこともあります。
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「ネギ類」
野菜や果物の中で非常に危険なのがネギ類。玉ネギや長ネギはもちろん、ニラ、にんにく、エシャロットなども含まれます。ネギ類に含まれる「アリルプロピルジスルフィド」という香味成分が犬の赤血球を溶かしてしまい、溶血性貧血が起きたり血尿が出たりします。
加熱してもこの成分は破壊されず、スープなどにも溶け出します。ネギ類はスープやソース類に風味付けなどによく入っていますので、注意しましょう。
「アボカド」
犬にとってはアボカドも中毒を引き起こす食べ物です。アボカドに含まれる「ペルシン」という成分が、下痢などを引き起こすと言われています。
「ナッツ類」
まだ原因物質などは判明していませんが、ナッツ類も危険です。マカダミアナッツで中毒例が報告されています。他のナッツ類もカロリーが非常に高く、誤飲からの窒息や腸閉塞などに繋がりかねないことから、与えないほうが良いでしょう。
「牛乳」
犬に人間用の牛乳そのものを与えることは避けたほうが良いと言われています。なぜなら成犬の多くは「乳糖不耐症」だから。人間でも牛乳を飲むとお腹を下してしまう人がいますが、犬も同じ。乳糖の量が少ないヤギのミルクは比較的お腹に優しいようです。
「アルコール」
犬にお酒を飲ませようと思う人は少ないと思いますが、少量でもアルコールは犬に与えないでください。
お菓子やシロップに含まれる程度のアルコールでも、アルコール中毒を起こす可能性があり、命に関わることも。焼く前のパン生地や痛んだりんごによってアルコール中毒を起こしたという事例もあります。
「カフェイン(コーヒー、紅茶、緑茶など)」
コーヒーなどに含まれる「カフェイン」も犬にはNG。犬は人間よりカフェインに対する感受性が高いため、中枢神経系に作用して興奮状態を引き起こし、中毒を起こす可能性があります。
緑茶や紅茶はもちろん、甘いコーヒーゼリーなどにもカフェインは含まれていますので、注意しましょう。
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「チョコレート」
ネギ類と同じくらい非常に有毒なのがチョコレート。これも中毒を引き起こす食べ物です。チョコレート(カカオ)に含まれる「テオブロミン」という物質に毒性があり、嘔吐・下痢やけいれんなどの症状を引き起こします。摂取量や状況によって死に至るケースもあります。
「キシリトール」
知らない飼い主さんも多いのが、キシリトールの危険性。人間の虫歯予防に非常に有効な成分ですが、犬が摂取すると急激に血糖値が低下し、肝障害を引き起こすことも。
ごく少量の摂取でも死亡例がありますので、ガム1粒でも間違ってあげないようにしてください。
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犬に与えても良いと言われている食べ物にも、注意が必要なものもあります。注意点をいくつか紹介します。
「ほうれん草」
犬にとっても健康に良いと言われる、ほうれん草ですが、与え方には注意しましょう。ほうれん草のアクである「シュウ酸」が、尿路結石症の原因になりうるからです。しっかり茹でてたっぷりの水にさらしてアクを抜き、与えすぎなように注意しましょう。
「トマト」
ジャガイモの芽にはソラニンと呼ばれる中毒物質が含まれていることは有名ですが、トマトのヘタや緑色の部分にも、これと似た中毒物質が含まれています。与えるときには必ずヘタや緑色の部分を取り除いてください。
「肉全般」
栄養価が高く犬も大好きな肉類。牛、豚、鶏だけでなく、最近ではラム肉なども手に入りやすくなりました。これらを与えるときに守ってほしいのは、必ず加熱すること。
生肉には細菌や寄生虫がいる可能性があります。生で与えたい場合には必ず生で食べても良いお肉を与えてくださいね。
また脂肪が多い部分は避け、赤身をあげるようにしてください。ハムやベーコンといった加工食品は塩分が高いので、基本的には与えないほうが良いでしょう。
「レバー」
人間にとっても犬にとっても体に良いレバー。牛、豚、鶏など様々なレバーがありますが、栄養面での違いはあまりないと言われています。
ただし食べ過ぎには注意。ビタミンAの過剰摂取になってしまう場合があるからです。またレバーも肉全般と同様、加熱して与えるようにしてください。
「ヨーグルト」
発酵してあるヨーグルトは、乳糖不耐症の犬でも比較的食べられることが多く、腸内環境を整えてくれる食べ物です。しかし体質によってはヨーグルトでもお腹を壊してしまう場合もあるので、様子を見ながら与えるようにしましょう。
「チーズ」
チーズを与えるときに気をつけてほしいのは、塩分の量。普通のプロセスチーズなどは塩分が多く含まれているので、無塩チーズを選ぶことをおすすめします。
ペット用が一番安心ですが、人間用でもカッテージチーズやモッツアレラチーズは塩分や脂肪分が控えめです。
「豆乳」
意外かもしれませんが、豆乳は犬の食事に取り入れやすい飲み物です。フードにかけて風味を変えたりするのに使っている飼い主さんも多いですね。
注意してほしいのは、砂糖などが入っていない「無調整」のものを選ぶこと。また大豆アレルギーの犬には与えないようにしましょう。
大量に与えると下痢などを起こしてしまうので、最初はスプーン一杯程度から始め、適量に留めるようにしてください。
「麦茶」
麦茶はノンカフェインなので、犬に与えても安心です。水を飲みたがらない犬でも、風味のある麦茶なら飲んでくれる場合もあるようです。
ただし麦茶には体を冷やす作用があるので、与えすぎには注意。また麦茶に含まれるミネラルは結石の原因になることがあるので、与えすぎに注意しましょう。
「生卵」
意外かもしれませんが、生卵を犬に与えるときは注意が必要です。生卵の白身に含まれる「アビジン」という物質が、ビオチン(ビタミンB7)の吸収を阻害してしまうためです。
とはいえ卵黄にビオチンが含まれていますので、全卵をひとつ程度、適切な量与えれば大丈夫。問題の「アビジン」は熱に弱いので、火を通せば害はありません。心配な場合は加熱したものを与えるようにしましょう。
「納豆」
腸内環境を整えるのに有効な発酵食品、納豆。大豆が原料ですから、良質なタンパク質を摂取することもできます。フードにトッピングする形で与えている飼い主さんが多いようですね。
こちらも豆乳と同様、大豆アレルギーの犬には与えないようにしましょう。タレやからしは塩分過多になってしまうのでNGです。
「香辛料」
辛い香辛料は犬に与えないようにしましょう。トウガラシ、わさび、マスタード、コショウなど。
刺激が強すぎて、下痢や嘔吐、胃腸障害を引き起こすことがあります。
わざわざ与えるようなものでもないのですが、人間用のものを不用意にテーブルに出しっ放しにしないように注意しましょう。