いつもはおとなしい愛猫が、発情期には大声で鳴き出したり、トイレ以外のところでオシッコをしてしまったりと、普段とは違う行動に驚くことはありませんか。猫の発情期の期間や症状、避妊・去勢手術や交尾について、飼い主さんが知っておきたい知識を解説します。
もくじ
猫は季節によって発情期を迎える季節繁殖動物です。俳句では「猫の恋」は春の季語とされていますが、実際の繁殖時期は春だけではなく、日本では3~9月が該当します。なかでも春(3~5月)がピークとなり、年に2~3回ほど発情期を迎えます。
季節によって発情するのは、実はメス猫だけです。オス猫は、発情しているメス猫の鳴き声やフェロモンに影響されて発情が誘発されます。
季節繁殖動物の発情時期を決めるのは、日照時間の長さです。猫は日照時間が長くなり、14時間を越えると発情が訪れる長日繁殖動物です。これは、暖かくてエサの多い時期に子どもを産むための野生の戦略です。
猫の妊娠期間は約2ヶ月です。繁殖期のピークである3月頃に妊娠した場合は2ヶ月後の5月には暖かくなり、過ごしやすい環境で出産が迎えられます。
猫とは反対に、日が短くなってきた秋に発情を迎える短日繁殖動物もいます。エゾシカやヤギ、ヒツジなどです。妊娠期間が約半年と長いこれらの動物の場合、日が短くなる秋に発情期を迎えると、食物が豊かな春に出産できるというわけです。
日照時間によって発情期が決まるというメカニズムは、太陽の光だけでなく人工の照明でも引き起こされます。1日12時間以上照明をつけている環境で過ごす猫の場合、発情期は季節とは関係なくなってしまうのです。
飼い猫では1年中発情がきてもおかしくない環境で過ごしていることが多く、発情する回数も年に3~4回に増える傾向があります。
これは野良猫でも同様で、コンビニエンスストアや商店街など、夜間も明るいエリアで暮らしている猫は、年中発情しやすい状態になります。
最初の発情期は、体重が2.3~2.5kgまで増加する生後約6~7ヶ月にやってくるといわれています。ただし、産まれた季節や環境にも影響されるので、かなりの個体差があります。
オス猫には明確な発情期はありません。発情中のメス猫に近づくとそれにつられて発情します。オス猫の性成熟は生後3ヶ月ごろから始まります。
早ければこのころから、ほかの猫に覆いかぶさろうとするマウンティング行為や、腰を振る動作など、交尾に似た行為をとるようになりますが、妊娠させる能力はありません。
生後5~6ヶ月を迎えると、精巣が発達して繁殖が可能な体になり、本格的な性成熟は生後9~12ヶ月ごろに迎えます。
メスの本格的な発情はオスよりも早く、生後5ヶ月~12ヶ月くらいでやってきます。生後4ヶ月で最初の発情を迎えてしまい、避妊手術が間に合わないというケースもあります。
ちなみに、犬には人と同じように月経がありますが、猫にはありません。これは、猫は交尾の刺激によって排卵する体の仕組みであるためです。
もしメス猫の陰部から出血があった場合、それは生理ではなく病気であると考えられます。早めに獣医師に相談しましょう。
長毛種は短毛種に比べて性成熟が遅めで、生後12~18ヶ月を経過してからようやく最初の発情を迎えることもあります。
メス猫の発情にはサイクルがあり、「発情前期」「発情期」「発情後期」「発情休止期」の4つが繰り返されます。このサイクルは「発情周期」と呼ばれています。
いつもより活発になる反面、食欲がなくなります。オシッコの回数が増えたり、飼い主さんにしつこく甘えたりするようにもなります。まだオスの交尾は受け入れようとしません。この時期は1~5日ほど続きます。
オス猫を受け入れる本格的な発情期です。4~10日間ほど続きます。発情前期の行動に加えて、以下のような行為が見られるようになります。
交尾後、排卵をして卵胞が退化する時期です。メス猫は交尾を受け入れなくなります。この期間は通常1日ほどで終わります。
次の発情期が訪れるまでの休憩期間です。この時期はオス猫に興味を示しません。交尾をしなかった場合や、交尾をしても排卵しなかった場合は5~16日ほど経過すると再び発情します。
妊娠したメス猫は次の繁殖期まで発情することはありません。
オス猫にはこのような周期はなく、発情したメスに反応して発情期を迎えます。発情中のオス猫は次のような行動を取ります。
発情期を迎えた猫は、スプレー行動が増えたり、大声で鳴いたり、ケンカをしたりと、人からすると粗相や鳴き声がうるさく、ストレスに感じる問題行動が目立つようになります。
これらの発情期特有の行動は繁殖本能によるものなので、叱ってもやめさせることは難しく、発情期が自然と落ち着くのを待つしかありません。
ほかの猫との接触を防ぐ、ストレスを発散させてあげる、おしっこ対策をするなどいくつかの対処法が挙げられますが、どれもその場しのぎの対応で、根本の解決にはなりません。
繁殖の予定がなければ避妊・去勢手術を受けることで、これらの問題行動が改善される可能性があります。また、避妊・去勢手術によって、そのほかにもメリットが得られることもわかっています。
避妊手術のメリットは大きく分けて3つあります。
予期せぬ出産で面倒が見きれずに捨てられてしまう猫を減らすことは公衆衛生の観点からも重要なことです。
前述の通り家庭動物として人と生活していく上ではお互いのストレス軽減のために重要です。
卵巣や子宮の病気、乳腺腫瘍などの発生率を下げることができます。特にメス猫では乳腺腫瘍の多くが悪性といわれており、1歳までの避妊手術で86%が予防することできます。
1~2歳までの避妊手術では11%まで予防効果が落ちてしまうため、遅くとも1歳までの避妊手術が推奨されます。
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去勢手術のメリットも概ね避妊手術のメリットと同様です。室内飼育でも、オス猫とメス猫が同居している場合は望まれない妊娠を防ぐために去勢手術は必要です。
また、オス猫の場合はオス同士でケンカをしたり、脱走しようとしたり、スプレー行動が多くなったり、攻撃的になったりとメス猫と比べても問題行動で悩む飼い主さんが多いです。
問題行動が習慣になってしまってからでは去勢手術を実施しても問題行動が続いてしまうことがあるため、発情行動が見られた場合は早めに病院で相談するほうがよいでしょう。
オス犬のような前立腺肥大は猫では稀ですが、精巣腫瘍などの病気も予防できます。
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避妊・去勢手術のメリットが広く知られている一方で、デメリットも存在します。
全身麻酔のリスク:全身麻酔のリスクは品種や年齢、全身状態などにより大きく異なるため、手術前には血液検査等を実施して全身状態を把握してから手術をすることが望まれます。
出血や術創の離開、自己損傷など:手術後は傷の自己損傷がないように術後服やエリザベスカラーを装着する必要があります。
太りやすくなる:一般的に避妊・去勢手術後は基礎代謝率の減少により1日のカロリー要求量が減るため、手術前と同じように食事を与えていると太ってしまいます。
肥満にともなう病気の発生率増加:肥満は万病のもとといわれますが、猫でも糖尿病や尿路疾患のリスクが高くなるとされています。
避妊・去勢手術も手術だけで終わりではなく、その後の食事や体重管理なども重要です。
メス猫の発情期は1週間ほど続きます。この期間中はオス猫を受け入れようとする意思がはっきりとしてきます。交尾の際にはオス猫が用心深くメス猫に歩み寄り、グルーミングをしたり、陰部の匂いを嗅ぎ合ったりします。
お互いの相性が確認できたら、メス猫は受け入れ態勢として腹ばいでお尻を高くあげる特徴的な体勢(ロードシス)を取り、尾を左右どちらかに逸らします。
オス猫はメス猫の首の後ろを噛み、押さえ込みながら馬乗りになり、ペニスを膣に挿入します。交尾はほんの数秒間で、オス猫が腰を振って射精が終わるとペニスを引き抜きます。
交尾後すぐのメス猫は背伸びをしたり回転したり、陰部を舐めたりしますが、1時間もしないうちに同じオス猫もしくは別のオス猫と再び交尾をすることがあります。複数の交尾を行うことによって妊娠しやすくなります。
オス猫の陰茎には小さな棘が付いており、メス猫の膣内を引っ掻くようにして刺激を与えます。猫は交尾排卵動物なのでこの刺激により排卵が促されます。
この棘の刺激はかなりの痛みを伴うようでオス猫が陰茎を引き抜く時にメス猫は甲高い鳴き声をあげるのが一般的です。また、交尾中はオス猫に首の後ろを噛まれるため、メス猫にとって交尾は痛みを伴うもののようです。
普段とはまったく違う行動が、発情期のせいなのか、ほかの病気によって起きているのか、判断が難しい場合もあります。不安を感じたら飼い主さんだけで悩まずに、早めに獣医師に相談しましょう。
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参照:
小嶋佳彦、堀達也.特集:する?しない?不妊・去勢手術.JOURNAL OF MODERN VETERINARY MEDICINE,2021,197 ファームプレス社
Thomas J.Burke 編, 伊藤百合子 訳(1989.8)「小動物の臨床繁殖産科学 : 診断と治療への臨床アプローチ」小動物の臨床繁殖産科学 診断と治療への臨床アプローチ