愛犬が喜んでしっぽを振っている姿は可愛いものです。しかし、犬は嬉しいとき以外にもしっぽを振ることがあり、しっぽの様子から気持ちを推測することができるのです。犬のしっぽの役割や、しっぽに関連する病気について解説します。
もくじ
犬のしっぽの役割にはいろいろな役割があります。その中でも、代表的なのが次の3つです。
それぞれについて、詳しく見ていきましょう。
しっぽの役割として最初に思い浮かべるのは、感情の表現ではないでしょうか。
「犬は嬉しいときにしっぽを振る」というのはよく耳にする話ですが、不安なときやストレスを受けている場合でも、しっぽを振ります。「しっぽをぶんぶん振っているから歓迎されている」と思って触ると、吠えられたり噛まれたりすることも。
しっぽの振り方で犬の気持ちを推測することが大切です。
2013年に発表された論文によると、
ということがわかったそうです。つまり、必ずしも「犬がしっぽを振っている=喜んでいる」という訳ではないということです。
もちろん、すべての犬で「右に振っているから友好的」「左に振っているから警戒している」というわけでもありません。あくまで参考として覚えておくとよいでしょう。
犬は、スピードを出して走っている状態からでも急な方向転換ができます。これは、犬が四足歩行であり、柔軟に動かせる背骨をもっていることが理由です。さらに、しっぽがバランスを取るのに役立っていると考えられています。
例えば、グレーハウンドやボルゾイのような特に運動能力が高い犬種は、長いしっぽを使ってバランスをとることで、急激なターンを可能にします。逆に、しっぽが短い犬種は日常生活に問題はないものの、もしかすると急なターンが苦手かもしれません。
しっぽが短い、もしくはない犬種というとトイ・プードル、スタンダード・プードル、ヨークシャー・テリア、ウェルシュ・コーギー・ペンブロークが浮かぶかと思います。実は、これらの犬種は最初からしっぽが短かったり、なかったりするわけではないことをご存知でしょうか。これらの犬種は生まれてから断尾(だんび)といってしっぽを短くしたり、切り落としたりするのです。
ドーベルマン・ピンシャーにいたっては、生まれたばかりは垂れ耳でしっぽも長いものの、断尾に加えて耳の形を整えるための断耳(だんじ)も行うため、耳がピンと立ち、短いしっぽが特徴的な犬種として知られています。
犬はもともと、狩りの手伝いをするための狩猟犬や、羊などの家畜を一箇所に集めたり誘導したりするための牧羊犬など、人の生活を助ける目的で飼われていました。そのため、牧羊犬などが羊を追う際にしっぽを踏まれて怪我をしないよう、断尾が行われてきたのです。
時代が進み、産業革命後は畜産や酪農から工業が主体に変わったことで狩猟犬や牧羊犬の仕事が少なくなり、使役犬も愛玩動物として受け入れられるようになりました。
使役のためにより強く、より賢い、用途や目的に応じた犬種が生み出されてきた時代から、より飼育しやすく、より外見が良い犬種が広がり、美容目的として断尾が行われるようになりました。
最近では、動物愛護の観点から断尾や断耳が行われることは少なくなってきました。以前までは、しっぽの長いトイ・プードルやウェルシュ・コーギー・ペンブロークを目にすることはありませんでしたが、最近では増えてきているように感じます。
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犬は、安心できる環境では人のように仰向けに眠ることがあります。しかし、寒いときなどは体を丸めて寝ることも多いです。その際、体にしっぽを巻きつけたり、しっぽで顔を覆ったりします。
このとき、しっぽは体温が低下するのを防ぐ防寒具の役割をしています。つまり、犬のしっぽは体温の維持にも役立つのです。
犬は、しっぽの位置で感情をあらわしていることもあります。
という、3つの状態が表す犬の感情について解説しましょう。
しっぽを上げているとき、犬は自分のほうが強いと感じています。例えば、接するときにしっぽを上げているようであれば、それは自分のほうが強い、順位的に上だと感じている可能性があります。
しっぽを水平にしているときは、何かに集中したり注目したりしています。物音がしたり、何か動くものを見つけたりしたときに、しっぽを水平にすることが多いでしょう。
同時に、しっぽを水平にするだけでなく、耳を上げたり立てたりする行動もとります。
犬がしっぽを下げたときは、どの位置まで下げているかで感情が変わってきます。
人や犬に対して順位が下であることを感じているときです。この他にもストレスを感じていたり不安になっていたりするとしっぽを垂れ下げる行動を取ります。
しっぽを、後ろあしの間に巻き込むまで下げているのは、怖がって怯えているサインです。このような場合には、頭も下げて上目遣いで人や犬を見てくるでしょう。
しっぽに関わる病気やケガには、しっぽそのものの病気と、他の病気が原因でしっぽに異常が出るものの2つに分けられます。この2つの病気について解説します。
しっぽそのものの病気で解りやすいのは、踏んだりドアに挟まったりすることで起こる外傷や皮膚病です。しっぽを気にしてしきりに舐めたり噛んだりするような仕草を見つけたら、しっぽをよく観察してみてください。
ぱっと見では異常がなくとも、毛をかき分けていくと皮膚が赤くなっていたり、かさぶたができていたりする場合があります。しっぽに異常を見つけたら、動物病院の受診をおすすめします。
しっぽはケガの治りが他の部位と比べると遅い箇所です。特に先に行くほど血液の流れが少なくなり、完治するまでに時間がかかってしまいます。
もし、ケガをした部位を気にして噛んでしまうと治りが遅くなるだけでなく、最悪の場合には傷が治らずに手術が必要になることもあります。
しっぽには神経が通っており、暑さや冷たさ、感触などを感じることができます。もちろんしっぽを動かすのにも神経が必要になります。この神経は、脳から背骨を通ってしっぽに伸びています。
しっぽよりも頭側の神経に原因がある場合でも、しっぽの神経に直接の原因があってもしっぽの動きに影響が出ます。
背骨と背骨の間には骨同士が当たらないようにするためにクッションの役割をしている椎間板というものがあります。この椎間板の上には脊髄(せきずい)という大きな神経が存在していて、通常はこの椎間板は脊髄に触れることはありません。
椎間板ヘルニアは、椎間板が神経側に飛び出して脊髄を圧迫することで、麻痺などを引き起こす病気のことをいいます。
椎間板ヘルニアは、発症した場所によって症状が変わります。首で起これば首の痛みに加えて前あしや後あしが麻痺することもあります。腰で起これば、腰の痛みや後あしの麻痺といった症状が出ます。
軽症の場合、後あしの動きに問題がないこともありますが、しっぽを振らなくなったりしっぽを上げにくそうにしていたりする場合は、注意が必要です。
一本の大きな神経になっている脊髄ですが、腰の辺りで枝分かれして細い神経の束になります。これが馬のしっぽに似ていることから馬尾と呼ばれています。何らかの理由で馬尾が圧迫されると、しっぽが十分に動かせなくなることがあります。
初期の段階ではしっぽの麻痺や痛みだけですが、進行すると腰の部分の椎間板ヘルニアと同様に後あしを十分に動かせなくなります。
椎間板ヘルニアも馬尾症候群も、状態によっては薬や運動制限で改善することもありますが、進行すると手術が必要になる病気です。
しっぽを気にしていたり動きがいつもと違ったりするようなら、怪我や病気が隠れている可能性があります。異常を感じたら、早めに動物病院を受診しましょう。
参考文献
Siniscalchi M, Lusito R, Valloritigara, et al. Seeing Left-or Right-Asymmetric Tail Wagging Produces Different Emotional Responses in Dogs. Curr Biol. 2013; 23: 2279-2282