お家でとろけたように眠る猫の姿を見ると、とても幸せな気持ちになりますね。諸説ありますが猫の語源は「寝子」と言われるほど、1日の半分以上を寝たり休息したりして過ごす猫。今回は猫の睡眠時間から健康状態を考えてみます。
もくじ
猫の平均睡眠時間は年齢によって異なり、成猫は1日平均10~16時間、子猫やシニア猫で20時間ほど。警戒心が強いため睡眠時間の多くはうたた寝(眠りの浅いレム睡眠)で、人間のように熟睡している時間は短いです。
うたた寝をしているときは、体の力が抜けていても脳は起きています。ピクピクと体が動いたり、目が動いたりすることもありますが、声がけはせずにゆっくり見守ってあげましょう。細切れに、浅くたっぷりと眠るのが猫の睡眠スタイルです。
生後半年以内の子猫は1日に20時間以上眠ることも。その分起床時にたっぷり動き回り、目につく物すべてに興味を持ち、獲物に見立てて遊びます。中には何もなくても狩りを想像しながら遊ぶ子猫もいます。全エネルギーを使って動くのでかなりの睡眠時間が必要なのです。
高齢になってくると体力の低下とともに眠る時間も増えてきます。起きているときに活動範囲が狭まっていないか、いままで同様に高い所への移動が問題なくできているか確認すると良いでしょう。
雨の日はよく眠るように感じる飼い主さんも多いようです。これは、猫がもともと狩りをして生活する生き物だったことと関係しています。
猫の被毛は乾きにくく、雨の日に活発に動いて全身が濡れると体温を奪われ体力を消耗します。晴れた日に比べて獲物になる虫や鳥も見つかりにくいため、不必要に体力を消耗せず温存できるように眠って過ごしてきた名残で眠る時間が増えている可能性があります。
猫が眠っている姿を見ると幸せな気持ちになる反面、心配になることもあると思います。
猫がよく眠る理由についてお話しします。
雨の日のお話で触れましたが、猫は狩りをして生きてきました。猫は基本的に群れを作らず単独で生きる動物です。自分の食べ物は自分で手に入れてきたため、狩りが上手くできないと生き残ることはできません。
狩りを成功させるためには絶妙なタイミングで飛び掛かる瞬発力が必要です。いざというときに自分の能力を最大限に発揮できるよう、狩りに備えてたっぷりと休息する必要があります。
狩りの成功は生命に直結することなので、そのための準備である睡眠・休息も本能的にしっかりととるのです。
猫じゃらしのような玩具で遊んであげる際は、見つけて、身構えて、捕まえて、落ち着ける場所にもっていって食べるといった狩りの一連の流れをイメージしながら、「いざというとき」を演出してあげるとよいでしょう。
猫は早朝や夕方の薄暗い時間帯に最も活発に動く、薄明薄暮性(はくめいぼせい)の生き物。虫や小鳥の活動が始まる明け方、ネズミなどの夜行性の生き物が動き出す夕方に一番活発に動きます。
春になると猫の睡眠時間が多くなるのは、こうした獲物が活発に動き始め狩りの機会が増えてより体力を必要とするため、休息が必要になるのではないかと考えられます。
また、夜に猫が家を走り回る、いわゆる「夜の運動会」がご家庭で開催されることで「やっぱり猫は夜行性だ」と思われてしまうことが多々あります。
しかしこの夜の運動会は、飼い主さんが日中不在で退屈なため眠ることしかできず、夜間に一緒に遊べないか試行錯誤して走り回っている可能性があります。
退屈すぎて寝てばかりいるため、運動不足で肥満になっている猫も多いです。ここに置き餌があれば、私たちがお休みで予定の無い日に寝ながらお煎餅を惰性で食べてしまうのと同じように、猫も食べては眠りを繰り返します。
体重が増えることでより動くのが億劫になり更に運動不足になることも。長生きしてもらうためにも、肥満には気をつけてあげましょう。
日中不在のときはキャットタワーの上や部屋の隅っこなどに一粒ドライフードを置いてあげて、猫にお部屋探検をしながら狩り気分を楽しませてあげる工夫をするとよいでしょう。
置き場所を毎日変えれば、猫にとってよい刺激になります。「今日はどこかな?」と色んな所を探してもらうことで、夜の運動会の縮小や運動不足の解消につながります。
キャットタワーも縦方向だけでなく、横へ移動できるものを用意し、キャットタワーに上る理由(おやつがある、外が見える、部屋を一望できるなど)も設定してあげましょう。
猫の活動は人間の生活パターンに左右されがちです。是非ご自身のライフスタイルと愛猫の過ごし方を振り返ってみていただくとよいでしょう。
食事の量、飲水の量、トイレの回数(量も含め)とあわせて、睡眠時間も健康なうちから注目しておきましょう。
猫は臆病な生き物で、不調を隠すのがとても上手。今までと比べて眠る時間が増えた場合は、体調不良を疑ってみましょう。
関節炎などで動くと痛みを感じたり、膀胱炎などお腹に違和感があったり、他にも原因はさまざまですが、不調に耐えるためにじっとしている可能性があります。
特にいつものお気に入りの場所以外の所にずっといるようなときは、睡眠のほかに食欲などの変化がないかよく確認してみましょう。
高齢だけど、夜によく鳴いて走っているし、よく食べるし、お水もよく飲んでくれるようになったし、元気に過ごせている…といった話を聞くことがよくあります。実は甲状腺機能亢進症という病気の可能性があります。
甲状腺機能亢進症とは、甲状腺が大きくなり甲状腺ホルモンが以前より多く出ることで、全身を必要以上に頑張らせてしまう病気です。興奮しやすくなるため、よく鳴くようになりますし、代謝が活発になるため沢山食べるようになります。
元気に見えますが全身的な不調が出てきたり、痩せてしまったり、心臓に負担がかかってしまうため慎重な治療が必要になることがあります。
甲状腺機能亢進症はあくまでも一例で、他にも目や耳が聞こえないなどの不安から眠れなくなっているケースも。「シニア期だから」といった自己判断は危険です。大きな体調の変化が無くとも、今までと変化が出てきたら、かかりつけの動物病院へ相談してみてください。
もちろん定期的な健診も重要です。元気なときから動物病院スタッフに「どんな愛猫なのか」を知っておいてもらうとより安心です。
愛猫に安心してたっぷりと睡眠をとってもらうために寝床は重要です。布地の柔らかいもの、木製の硬いもの、ひんやりするもの、暖かいものなど、どんな素材が好きなのか見極めてあげましょう。
ただし、初めてのものを「あなたのためよ」と突然置かれても、猫にとってはただの見知らぬ家具です。使い慣れた毛布を一緒に敷いたり、ドライフードを一粒置いたりしながら、ゆっくりと慣れていってもらいましょう。
ベッドの置き場所も大切です。日当たりのよい場所や暗くて静かなところ、風通しのよい場所やあったかいところ、季節や時間によってお気に入りの場所が変わることもあります。
毎日動かしてあげる必要はありませんが、さまざまな場所にベッドを置いて(ベッドが無くても寝転べるスペースを設けて)あげるのが理想的です。
一番大切なのは、猫自身に選んでもらえるような空間づくりをすることです。猫が「今日は暖かいここで」「今日は外を眺めながら」「静かな所で熟睡したい…」と好きなように過ごせるとよいでしょう。
ときどき、飼い主さんから「猫が寝ている間に爪を切っています」という話をお聞きすることがあります。
これは、猫が眠る隙も与えてもらえない家と認識してしまう可能性があり、信頼関係が作りにくくなるため注意が必要です。もちろん、どうしても難しい場合はこの方法も仕方ないですが、おやつを舐めてもらいながら爪を1本切って、その日は1本だけで終了…それを毎日続けるといった形で、ゆっくり1本ずつ猫に受け入れてもらいながら実施することをおすすめします。
人間にとっても猫にとっても大切な睡眠。しかし、暇で寝るしかやることがない…と愛猫に日々を過ごしてもらうのは勿体ないことです。楽しく刺激的に過ごし、たっぷり動いてしっかり休んでもらえるように、うちの子がどんな遊びが好きか探ってみましょう。