ウンチは手軽に飼い主様が犬たちの健康状態を知ることができるもの。犬のウンチからどんなことがわかるのでしょうか。形状、回数、臭いは何をあらわしているのでしょうか。 今回は、犬のウンチから予測できる病気についてお話しをします。 (執筆:獣医師・堀江志麻)
もくじ
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一般的に「良便」とされるものは、以下の特徴があります。
つまり上記以外のウンチの場合は、何らかの異常がある可能性があります。まずは、ウンチの形状から考えられる病気をご紹介しましょう。
大腸内での通過時間が長く、水分が過剰に吸収されていると考えられるので、食物繊維などを食事に追加することで大腸の蠕動運動を刺激し適正なスピードで排泄することで改善するかもしれません。
下痢ほどではないものの、ティッシュでつかめないような軟便の場合、フードが合っていなかったり、ストレスがたまっている可能性があります。これらを対処してもまだ軟便がつづく場合は寄生虫やウイルス感染の可能性があります。
便の表面に粘液性のゼリーのようなものが付着している場合は、大腸炎など腸で炎症が起きている可能性があります。単純に風邪などの場合もありますが、腫瘍がある場合も考えられますので続く場合には必ず病院で受診しましょう。
水っぽい水様便の場合は、体が急激に脱水するので緊急性を要します。重度の腸炎や時にウイスル感染症など命に関わる病気の可能性もありますので様子見などせず、至急病院へ連れていってください。
便に血が混じっている場合は、大腸炎や大腸にポリープや腫瘍ができている可能性があります。
黒っぽい便が出る場合、胃や腸から出血している可能性が高いです。
黄色の脂肪便や慢性的に軟便の場合、膵臓から消化酵素が分泌されない慢性膵炎の可能性があります。消化酵素の投与で改善するので病院で受診してみましょう。
高齢になって睾丸の働きが低下すると、性ホルモンのバランスが崩れ前立腺が肥大化します。すると、直腸を圧迫するので、ウンチが平べったくなったり、出しにくくなることがあります。また、前立腺の中を走行する尿道が圧迫されてオシッコをするのが困難になることも。
軽度の場合は薬で治療ができますが、重度になると手術をしなければなりません。前立腺肥大は年齢とともに発症しますので形状の変化を見逃さないようにしてくださいね。この病気は去勢手術をすることで防ぐことができます。
直腸内にポリープや腫瘍ができると、便がうまく通過できずに平べったい便になったり、ときに便が通過する際に“しこり”から出血し、良便に血液が付着する場合があります。良い便なのに血が所々に付くといった場合にはかかりつけ医に相談してください。
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どの年齢においても、ウンチの回数が増えた場合は、腸の蠕動運動(ぜんどううんどう)がなんらかの原因で亢進している可能性があります。いつもはウンチの回数が1日2回なのに、5回も6回もするような場合は、いちど病院で受診しましょう。
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ウンチの回数が多い場合に考えられることは、主に以下の4つです。
ウンチの回数は、「1日3−4回から2日に1回」と個体差がありますが、その回数がとつぜん少なくなったり多くなった場合は何かしら異常が考えられますので、病院へ行くようにしましょうね。
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次に、便のニオイがキツいことから考えられることをご紹介しましょう。もちろん、いいニオイの便は存在しませんが、健康便であればそんなにキツいニオイはしません。
腸内細菌とは、腸内に住む細菌叢(細菌の集合体)のことです。腸内細菌は、人では約100-1,000種の菌が存在することがわかっており、ビフィズス菌や乳酸菌など体にとって良い働きをする善玉菌群や、ウェルシュ菌や病原性大腸菌など体にとって悪い働きをする悪玉菌群に分かれます。
そのほか、体調の変化により善玉菌、悪玉菌の両者になり得るバクテロイデスなどの日和見(ひよりみ)菌群もあり、成人ではバクテロイデスが便中の菌の8割を占めているとも言われています。善玉菌は消化吸収を助けたり、各種ビタミンや酵素の産生、免疫細胞の活性化、感染の防御などに役立ち、健康維持に働きかけます。
腸内細菌叢の構成は、犬では個体差も大きく、家庭犬と実験モデル犬でも腸内環境は異なりますし、食事内容や生活環境でも大きく異なります。しかし一般的には、人と同様、バクテロイデスが便中に最も多いとの報告があります。 これらの細菌叢に善玉菌が多く、悪玉菌が少ないときは下痢もせず、腸内環境は良い状態で保たれていると考えられますが、ストレス、食事の急な変更、体調の変化、老化、腸炎などにより悪玉菌が増加したり、善玉菌が減少することで腸内細菌叢が乱れます。
また、悪玉菌は発ガン性物質を産生したり、悪臭ガスを発生させたりしますので、悪玉菌が増殖することにより、いつもよりオナラや便のニオイもキツくなると考えられます。
これらのことを踏まえると、便のニオイがキツいというのは個体の健康状態が関係していることがわかります。
これまでお話ししてきたとおり、軟便や下痢が多い子や便の回数が極端に多かったり少なかったりする子、通常よりもニオイがキツい便をする場合、腸にポリープや腫瘍が存在していたり、腸管内感染症、寄生虫、過度のストレスなどなんらかの異常を呈していると考えられます。
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ウンチが作られるには、当然食事を取っていることが大前提になります。食事の量が増えると、当然ウンチの回数も多くなります。また、いちどに与える量によって、便の状態が変わることもあります。
さいごに、便とつながりが深い「食事の回数」についてお話しをしましょう。
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子犬たちは、生後1ヶ月までは母犬のおっぱいを飲んで育ちます。その後「離乳」がはじまります。離乳とは、文字どおり乳を離れること。つまり、おっぱいという液体の食事から固形の食事に変化し、胃腸がその固形物を消化吸収することに慣れる時期です。この時期は少しずつ体に慣れさせる必要があるので、「1日4、5回」にわけて食事を与えます。
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生後3−4ヶ月になると、少しずつ硬さのある食事にも慣れていきます。また体も急速に成長し、胃腸機能も整っていきます。
この時期、1日に必要な食事を10としましょう。必要な食事というのは、適正な体格を維持するのに必要な量です。
たとえば、あなたの愛犬(子犬)が朝5・夜5(合計10)と、1日2回にわけて食事をとったとします。これにより軟便になったり吐き戻しをする場合は、いちどに与える食事の量が多いと考えられます。
このような場合は「朝3・昼3・夜4(合計10)」などと分割して、様子をみるようにしましょう。
もし生後3−4ヶ月でも、1日に必要な量を1、2回で食べることができるなら(体調に問題がないのなら)、もちろんそれで良いのです。
なんとなく人の感覚で、食事は1日2回、3回というイメージがあるかもしれませんが、犬の場合は飼い主様の生活スタイルに合わせて上手にコントロールしていただいて良いと思います。体が未熟な子犬の場合は、とくに飼い主様のコントロールが大切です。
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成犬の場合、特別な疾患をのぞけば、ほとんどの犬が「1日1回-2回」の食事回数で過ごすことができます。この場合、排便回数は一般的に3回程度。子犬にくらべて体も成熟していますので、飼い主様の生活スタイルにあわせて食事を与えて良いと思います。犬は大切な家族ですので、飼い主様のお食事の時間にあわせて「いっしょに楽しむ」のも素敵ですよね。
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シニア犬になると消化吸収機能の低下により、今までの食事回数では胃腸機能が追いつかなくなります。つまり、軟便や下痢になりやすくなるのです。また、こまめに排便をする子も増えてきます。通常は肛門の筋肉をコントロールすることでウンチを我慢することができますが、シニア犬になると筋肉が緩み、ウンチを我慢できなくなるためです。シニア犬には消化吸収しやすい食事を与えたり、食事回数を増やすことで対応してくださいね。
今回は、便の形状・回数・ニオイから考えられることについてお話しをしました。便の異常は健康状態の異常。愛犬の年齢に関係なく、異常があらわれたらかかりつけ医に相談してくださいね。