太りすぎ?犬と猫の適正体重とは
「欲しがるので、ついついおやつをあげてしまうが大丈夫だろうか」「フードの袋に書いてある目安量を与えているが、我が子にとって適切な量なのかわからない」という方は意外と多いと思います。個体により体格差があるため、適正体重を具体的な体重(Kg)で表すことは現実的ではありません。ヒトでは肥満度を表す指標のひとつにBMI(体格指数)があり、体重(Kg)÷身長(m)÷身長(m)で計算されることはよく知られるようになりました。
犬猫でも肥満度の指標として最も一般的なものに「ボディコンディションスコア(BCS)」があります。ヒトのような計算式ではなく、視診と触診により判定します。5段階評価でBCS3が適正、4以上であれば太りすぎ(2以下は痩せすぎ)と判定します。
肥満はおそろしい?
ヒトと同様、多くの犬猫の病気は肥満により発症、悪化しやすくなります。関節疾患(膝蓋骨脱臼(パテラ)、前十字靭帯断裂、変形性関節症)、糖尿病、心臓病、尿路疾患などが例として挙げられます。また、手術の際に(避妊手術や去勢手術であっても)、麻酔が深くかかりすぎたり、脂肪組織により手術の視野が狭くなったりと、手術の難易度があがるリスクもあります。
これから、肥満についてシリーズで解説しつつ、肥満とかかわりの深い病気についてご紹介します。第1回目は、犬の前十字靭帯断裂についてです。
日常の軽い運動でも前十字靭帯は断裂します
前十字靭帯断裂と言えば、スポーツニュースでプロ選手の選手生命が危ぶまれるほどのケガとして報道されるため、スポーツ外傷としてご存じの方が多いと思います。しかし犬猫においては、激しい運動による発生(外傷性)は10%程度にすぎず、そのほとんどは日常の軽い動作(階段を登る、歩道の段差を降りる)で発症する(加齢性・変性)と言われています。
断裂のしくみと症状
靭帯はケーブルのように何本もの線維が束になってできており、加齢とともにその線維が少しずつほころび傷んでいきます。何本もの線維のうち数本切れたものが部分断裂、すべて切れると完全断裂になります。
前十字靭帯は膝関節の屈伸運動を制御しているので、断裂すると、正常な歩行ができない、横座り(片足を投げ出すように座る)、関節の腫れや痛みといった症状が現れます。ゆっくりと進行する疾患のため、不安定な膝関節の運動の継続により気づいた時には半月板や関節軟骨を損傷していることも多く見られます。また、片足に発症した症例のうち、半数は反対足にも発症すると言われています。
治療
治療には、鎮痛剤・体重管理・運動制限による保存療法、または手術があります。手術は切れた靭帯を縫い合わせるのではなく、膝関節の安定性を再建するため様々な方法が考案されています。具体的には、関節に筋膜フラップや糸を通す方法、脛骨(けいこつ)を一部切り、ずらして固定する方法などがあります。
予防
膝に負担がかからないよう適切な体重管理が大切になります。また、滑らないように足の裏の毛を短くカットする、滑りにくいカーペットやマットをひくこともよいでしょう。
肥満とのかかわり
肥満犬は膝にかかる負荷が大きいため靭帯が傷みやすく、適正体重犬よりも断裂をまねきやすくなります。万が一発症した場合、反対足への負担が大きくなる、不安定な関節運動により変形性関節症(関節軟骨がすり減る病気)が進行しやすいというリスクがあります。治療にも徹底した体重管理が求められますので、できれば未然に防いであげたいですね。まずはボディコンディションスコアを使って、肥満度を調べてみてください。
次回は、「犬の食事管理」と「膵炎」について解説します。
ペット&ファミリー損保所属獣医師